第二話:沈黙の共有
椿子は、白面を手にしたまま、蔵の中の静馬に声をかけた。
「この仮面は、母が遺したものです。 語られなかった記憶の象徴だと、私は思っています。」
静馬は、少し間を置いてから答えた。
「語られなかった記憶は、語られることを待っているのでしょうか。 それとも、語られないままでいることを望んでいるのでしょうか。」
椿子は、白面の裏に記された母の筆跡を見つめながら、静かに言った。
「母は、語らないことを選びました。 でも、私にはそれが“守るための沈黙”だったように思えるのです。」
蔵の窓から、白梅の花びらが一枚、風に乗って舞い込んだ。 椿子は、それを手のひらで受け止めながら、静馬に向き直った。
「もし、私が語ることを選んだら―― あなたは、それでも傍にいてくれますか?」
静馬は、迷いなく答えた。
「椿子様が語るなら、私はその言葉を守ります。 椿子様が沈黙するなら、その沈黙を守ります。 どちらであっても、私は傍にいます。」
椿子は、初めて微笑んだ。 それは、沈黙の中で芽生えた絆が、言葉になった瞬間だった。
「語ることも、沈黙することも、 どちらも“選ぶ”ことなのですね。」
その夜、椿子は母の寝室で白面を見せた。 澄乃は、かすかに目を開き、微笑んだように見えた。
そして、椿子は心に誓った。
「私は、語る者になります。 でも、語ることで誰かを壊さないように、 誰かの沈黙に寄り添えるように。」




