2.初めての戦闘
「——すべては、お前にかかっている。」
言葉が消え、静寂が訪れた。
けれど、僕の手の中には——確かに、温もりを持った辞書が残されていた。
「いっっってぇ~……何だったんだ、今の光は……? まぁいいさ、お前を守った光ももうない。今度こそ、吹っ飛ばしてやるッ!!」
豚の怪物が地を蹴り、突進の構えを取る。
その場が震えるほどの圧力。巨体が今にも弾丸のように飛び出しそうだった。
どうする!? このままじゃ、今度こそやられる!
身を翻し逃げようとするも、足がすくんで動かない。頭はフル回転するが、策は浮かばない。
言霊で攻撃しようにも、僕の辞書に、攻撃できるような言葉はない。
いや、それ以前に……
そもそも、言葉が消えちゃってたじゃん!
絶望が背筋を這い上がる。何もできないまま、ただ突進を受けるしかないのか?
ダメだ、考えろ、何か……何か……!
——そのとき。
「この辞書に刻まれし言葉——それらは、まだ世界から消えていない言霊。」
「この言葉の力を使い、世界を救うのだ。」
頭の奥で、あの神エリヴァスの声がよみがえった。
そうか……! もう、これはただの辞書じゃない。
これは、神の辞書だ——!!
反射的に辞書を開き、ページをめくる。
豚の怪物が咆哮を上げ、ついに突進を開始した。
「うおおおおおおおおッ!!」
——近い!
ページをめくる手が震える。視線が乱れる。
た...。違うこれじゃない。
ち...。違う違う!!
つ....つ...つち...『土』っ!!これだ!!!
「『土』よ……『大きな』、『壁』になれ!!」
言葉と同時に、大地が隆起し、巨大な土の壁が現れる。
「どごおおおおん!!」
「ぶひいっ!?」
凄まじい衝撃音と共に、豚の怪物が土壁に激突する。
巨体が跳ね返され、地面を転がる。
……いける! 今度は、僕の番だ!
辞書を開いたまま、意識を集中させる。
攻撃といったらやっぱりこれだよね!
「『剣』よ! 僕の下へ!!」
すると、村中の剣がレクシスの元へと集まってきた。
「う、うわ!? 多すぎるって!!」
周囲に剣が浮かび上がる。その数、ざっと30本。
ま、まぁいいか……どうせだったら、全部使っちゃおう!
剣を一本手に取り、続けて命じる。
「『剣』よ! あの豚野郎に突き刺され!!」
——瞬間。
30本の剣が、豚の怪物へと一直線に飛ぶ。
「ぶ、ぶひいぃっ!!」
鋭い刃が、巨体に突き刺さる。
呻き声を上げ、のたうち回る怪物。
「……今だ!!」
レクシスは両手に剣を強く握り、勢いよく跳躍。
「でやああああああ!!」
刃を振り下ろし、豚の怪物の喉元に突き刺す。
「ぶ、ぶひいいい……」
豚の怪物は最後の叫びを上げると、光となって消えていった。
(……倒した?)
戦いの余韻に浸る間もなく、光の粒が辞書に吸い込まれていく。
やがて辞書が自ら「し」のページを開き、そこに新たな言葉が刻まれる。
「……『食事』?」
途端に、村人たちが何かを思い出したように、食料を手に取り、むさぼりはじめる。
「そうか……みんな、食事をすることすら忘れてたんだ……」
レクシスは周囲を見渡す。
さっきまで飢えたまま立ち尽くしていた人々が、次々と食べ物を口にしていく。
しかし——
話しかけても、何も返事がない……
おそらく、「会話」や「コミュニケーション」の言葉がまだ奪われているのだ。
……誰とも話せないのは、寂しいな
レクシスは辞書を開き、確認する。
やはり「会話」も「コミュニケーション」も、そこには記されていなかった。
でも、とりあえず村の人たちが餓死する心配はなくなった……良かった。
レクシスは、ゆっくりと家路につく。
パパとママが無事かを確認するために。
そして——旅に出ることを伝えるために。
私の初めての作品です。
つたない文章ではあると思いますが、
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