閑話 ソラとの出会い
ラピス視点です。
あたしはラピス、花の妖精ピクシーよ。
名前の由来はセラピスっていう花の名前から取ったと、あたしに名前を付けてくれたトレントが言っていたわ。
今日もリンは張り切って森の中の探索をしようと、樹々の合間をするすると駆けていく。最近まではマシロの面倒で探索が出来なかったから張り切っている。
でも、リンとマシロの面倒を見るあたしの身にもなってよ。リンに追い付くのは骨が折れるんだから。
実際、リンが先に行き過ぎて魔物と遭遇し、物理的に折ったことがある。
リンは謝ればあたしが許してくれると思って、へらへらしながら平謝りして終わり。まあ、冷や冷やすることは多々あるんだけど、だらだら時間を過ごすよりは楽しいから良いんだけどね。
「クンクン、水のいい香りがするわね。これは綺麗な水場がありそう」
リンも近くに水場があるのを察知したみたいだ。水の匂いがする方へ迷うことなく全力で突き進んで行く。リンの姿がどんどんと小さくなっていっている。このままだと見失ってしまいそうだ。
リンが水場を見つけたのか大きく跳躍するのが見えた。どうやら水場の中心に島があるみたいだ。遠目からでも島が見え、花畑があるのが分かった。
「オェェェエエエ」
…リンの吐いている声が聞こえる。走りながら道草を食べる癖があってよく見る光景だった。
「うわぁあああ、なにこれ⁉ あなた、もしかして精霊さん?」
リンが何かを捕まえたらしい。あたしはリンの後ろから何を捕まえたのか覗いてみた。
そこにいたのは風の精霊だった。しかもまだ生まれて間もないみたいだが、精霊をむやみやたらに刺激してはいけない。
「リン、また道草食べたでしょ! それに精霊を刺激しないで、暴れられたらどうするのよ⁉」
リンに説教するが、それよりも興奮が勝っているようだった。満面の笑みを浮かべながら、「この子絶対連れて帰る」と連れ帰る気満々だ。
それよりもあたしは精霊が無反応なことに気づいた。どうやらこの子はまだ生まれたばかりで言葉を知らないんだろう。あたしは精霊に触って思考を送り、言葉が理解できるようにした。
「あたしの言葉がわかる?」
「分かる」
「ならもう大丈夫ね、リン。いつも変なものは不用意に食べない、触らないでって言ってるよね?」
あたしは精霊にも分かるように、リンのことを注意する。どうせリンはこの精霊を家に連れて帰ると確信しているからだ。
リンは精霊に名前を聞いていたが、生まれてまもない精霊に名前なんてあるはずないと思っていたら、「俺の名前はソラだ」と返事をした! 誰に名前を付けてもらったのだろう? もしかして自分で考えたのかしらと考えていたところ、ソラが花畑の中心に視線を向けた。
釣られてリンとあたしも視線を向けると、そこにはピクシーが生まれる蛹がなっていた。あたしは額に手を当てて溜息を吐いてしまった。
これ、絶対リンは持って帰るっていうんだろうな。案の定、リンはソラと妖精の蛹を持って帰ると駄々をこねだした。
あたしはソラについてきてほしいとお願いすると、色々教えてくれたらと返事をくれた。あたしは妖精の蛹が付いている花を丁寧に掘り出し、持ち帰ることにした。
リンに任せると花の茎が折れたり、蛹が落ちたりする恐れがあるからだ。
リンとソラと一緒に帰っている最中、ソラはリンがなんで道に迷わないのか質問をしてきた。どうやら、魔力についてはほとんど分かっていないみたいだ。
あたしは明日時間があるときに教えることを約束し、そうこうしている家についた。
リンとソラがエンデとマシロに紹介しているのを横目に、あたしは持っている妖精の蛹が付いている花を植木鉢に入れ替え、水を与えておく。この大きさならあと数日もすれば生まれるに違いない。
部屋の中心にあるテーブルにはマシロが作ったご飯が既に並んでいた。リンとマシロがご飯を食べている間、あたしはマシロの肩の上で水を飲みながら、部屋の入口で辺りを見回しているソラを観察する。
自我が芽生えたばかりの精霊とは思えないほどの落ち着きようだったからだ。あ~、思考を送ったタイミングで、思考を読んでおくべきだった。今更後悔しても仕方ない。
そのあとは、ピナコが気になるのか1階に上がってきて、ソラと目があったらしい。あたしはソラにピナコのことに関して釘を刺しておく。
ソラは暇を持て余すと、木の板がないかあたしに聞いてきた。あたしは樹の魔法が使えるので余っている木材を加工して渡すと、なんと! ソラが木の板を使った玩具を作ったのだ! おかしい、この精霊絶対おかしい。あとで思考を読んでやる!
ソラが作ったゲームで、最初にリンとソラが対戦したのだが、リンの圧勝だった。ソラはかなり落ち込んでいるみたいだ。自分で作ったのに負けるんだもんね。気持ちは分からないでもない。
そのあとはリンとマシロが対戦し、マシロの圧勝だった。リンは悔しがり、寝落ちするまでマシロに勝負をしかけていた。
あたしは床で寝てしまったリンに掛け布団をかけてあげると、ソラと二人きりになるため、この世界を教えることを餌に畑まで誘った。隙を見て思考を読むためでもある。
あたしはソラに魔素と魔力の関係、妖精や属性の種類、この世界の種族などを教えた。
そしてソラはリンとマシロの家族のことを質問してきたところ、あたしは思い出しただけでも怒りが込み上げてきて、頭の中が一瞬真っ白になってしまった。ソラの反応を見ると、魔力が洩れだしてしまったみたいだ。ちょっと引いている。
あたしはこれからソラも一緒に暮らすことになるので教えておくことにした。あたしはリンとマシロとの出会いを思い出すようにソラに語りだした。
ラピスがリンに振り回されてます。次もラピス視点です。