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ラピス先生

 俺とラピスは、リンやマシロの睡眠を邪魔しない様に家の外に出た。樹々が生い茂っているせいか星空がほとんど見えない。


「まずは、畑に向かうわよ。そこに休憩するための椅子が置いてあるから、そこで話をしましょう」


 どうやらすぐ近くで、家庭菜園をしているらしい。

 家をぐるっと回って入口とは反対側に子供二人分が生活するには十分な畑があった。

 暗くてあまり見えないが、見たこともない野菜ばかりだ。しかし、こんなところに作ったら動物に食べられたりしないのだろうか?


「ふふん、すごいでしょ。あたし、花の精霊だから植物を育てるの得意なの。あなたが妖精だったら食べさせてあげたかったわ」


「それは残念だけど、こんな所に作って大丈夫なのか? 罠とか無いみたいだから、森の動物に食べられたりしないのか?」


「それは大丈夫よ、リンの魔力がそこら中にあるから魔物は近づかないわ。ここらへんの魔物は、大体リンがボコボコにしてるから近づこうとしないの」


 おぉう、リンにも暴力的な一面があるのかと思っていると、ラピスは「ただ返り討ちにしただけよ。まあ、知らない魔物を見ると触ろうとするから、リンが悪いんだけどね」と、俺の心を読んだかのように答えてくれた。


「ほら、畑の脇に椅子があるでしょ、あそこに座って話をしましょう」


 畑の脇に切り株が二つ見えた。どうやら切り株を椅子代わりにしているらしい。俺とラピスは切り株に座って、この世界のことについて聞くことにした。


「まずは何から話しましょうか、そうね、魔素と魔力の関係からがいいかもね」


 魔素とは、遥か地下を通っている地脈から湧き出てくる物質で、それを生き物が体に取り込むと魔力を生成し、魔法が使えるようになるらしい。

 そして体内に魔石が出来る動物を魔物、植物が自我を形成し、精魔石が出来ると妖精と呼ばれるみたいだ。

 特殊なのは精霊だ。妖精に近いが魔素が濃い場所で形を形成し、実体を持たない存在が精霊と呼ばれるらしい。

 妖精と精霊が近いと言われているのは属性の相性が悪くない限りは、相手の思考を読んだり、送ったりすることが可能で、俺がフェリーゼやラピスにされたことがそれに当たるらしい。

 この話のついでに、属性の話を聞いた。

 四種類の下位属性があり、それが火、風、土、水だ。

 そして中位属性も四種類あり、雷、樹、石、氷だ。

 最後に上位属性が2種類あり、光と闇だ。

 この属性の中で火、雷、氷は他の属性との相性が悪く、思考を送り合うことが難しいらしい。

 因みに妖精と精霊にも下位、中位、上位と階級が分かれており、更に下級、中級、上級に細分化されているらしい。

 どうやら今の俺は風の下位精霊で下級に当たるとのことだった。下の下ということだ。

 これから魔素を取り込み、魔力を圧縮して魔力の濃度を上げていくことで精魔石が大きく、そして数が増えるらしい。

 その大きさと数で階級が決まるみたいだ。細かい決まりはなく、かなりアバウトみたいだ。


「次は魔法に関して、教えましょうか」


 魔法に関してはかなりシンプルだった。魔力が多く、扱いが上手いほど、扱える属性が増えていくらしい。

 得手不得手はあるが、リンは風、土、水、樹、光の5属性、マシロに至っては雷と氷以外の属性は扱えるらしい。何だそのハイスペックは!! 可愛くて強いとか、最高かよ!

 あとは魔力を纏うことで身体強化をしたり、実体のない精霊に触ったり出来るみたいだ。

 リンが俺に触れたけど、嘔吐物が体を通り抜けたのはそのせいらしい。リンのあの異常な運動神経は魔力が高いからだったのか。

 リンより属性の扱えるマシロは将来どうなってしまうのだろうか。不安もあるが、その反面期待も出来るな。まあ、大人しそうな子だったし、大丈夫か。

 それに俺は精霊だから魔力が高く、色々な属性が扱えるようになるだろうとワクワクしていたところ、その希望は簡単に打ち砕かれてしまった。

 妖精と精霊は、魔力は高い代わりに、扱える属性は一つだけらしい。つまり、俺は風、ラピスは樹だけしか使えないってことだ。

 その代わり、各々の属性が突出して伸びるみたいだ。今の俺は空気を出すくらいしか出来ないが、将来は天災級の竜巻とか出せるようになるのかもしれない。


「魔力に関してはこんなところね。魔力の扱いに関しては、日が昇って明るくなってからね。絶対リンは付き合いたがるから。あとは何か聞きたいことはある?」


「妖精の種類を分かる範囲でお願い、それとまだピナコのこと聞いてないよ」

 

「そうだったわね、じゃあ分かる範囲で教えるわ」


 妖精の種類は、【トレント】と言われる樹の妖精、俺の知る限りではエンデのことだ。

 そしてピクシーと呼ばれる花の妖精だ。俺の元居た世界では花の妖精は【フェアリー】と呼ばれていた気がするが、この世界ではピクシーなんだそうだ。

 そして茸の妖精と呼ばれる【マッシュベル】だ。大体はこの三種類で樹や花、茸の種類によって外見に違いが出るそうだ。そして茸の妖精が討伐される理由は辺りを気にしながら話してくれた。

 数千年前、【マッシュベル帝国】と呼ばれる茸の妖精の国があり、【女帝】と呼ばれた茸の妖精は特殊な能力を持っていたらしい。

 それは菌を使って相手を寄生し、自分の意のままに操ることが出来るというものだった。なんてバイオハザードだ! 元居た世界では映画やドラマ、ゲームとかでしかなかったことがこちらの世界ではあるなんて…。

 そういえば、バイ●ハザードシリーズのウィルスも元はと言えば菌を研究、改良したものだったはずだ。そりゃ討伐対象になるか、俺は話の続きを聞くことにした。

 その菌は精霊の精魔石にも寄生することが出来れば、精霊すら操ることが出来たらしい。精霊が操れれば他の種族も操れると同義だ。ついでにこの世界にどのような種族がいるのかも聞いてみた。

 人間、獣人(猫、狼、猿、鳥)、ドワーフ、エルフ、魔族(多種族の総称)がいるらしい。獣人族と魔族は細かく分けると多すぎるのでざっくりと括られているそうだ。

 上位の精霊と妖精以外は寄生されるのを恐れて戦いに参加せず、逃げてしまい、結局、マッシュベル帝国対精霊と妖精の戦争になったそうだ。

 マッシュベル帝国の物量のせいか、戦争は百年ほど続き、やっとの思いで精霊と妖精が勝利し、マッシュベル帝国にいた茸の妖精は根絶させられたらしい。

 それ以来、茸の妖精は見つかり次第、討伐されるようになったそうだ。

 そして、精霊や妖精の勢力が回復しきらないまま、人外戦争という人間対他種族の戦争が起き、苦戦を強いられることになったみたいだ。


「そんなことになっているのに、なんでピナコはリンとマシロの家にいるんだ?」


「リンは知らないものをなんでもかんでも食べて確かめてみようとするからよ。植物ならあたしは分かるんだけど、茸はさっぱりなの」


 リンは額に手を当てて頭を左右に振りながら、深い、深~い溜息を吐いた。どうやらリンは知らない茸を食べて死の淵を彷徨ったらしい。


「それで、エンデに聞いても分からなかったんだけど、茸の妖精が生まれやすい場所なら知っているって言ってくれて、其れに賭けて教えてもらった場所に行ってみたの。そこで見つけたのがピナコなのよ」


 ピナコはとても臆病で人見知りだったせいか、連れて帰るのに難儀したらしい。

 でも一刻も早く連れて帰らないとリンが危なかったため、怯えて逃げ回るピナコを魔法で眠らせ、やっとの思いで連れ帰ったんだそうだ。


「あの時は大変だったわ、ピナコは胞子をまき散らしながら逃げ回るから、全然見えなくてすごい手間がかかったの…」


 ピナコは起きたあと、かなり動揺していたそうだ。でも苦しんでいるリンを見て、怯えながら原因の茸を特定して、解毒効果のある茸を作ってくれたんだそうだ。

 ラピスはリンのことがホント好きなんだな~と思うと顔がにやけてくる。

 俺の顔をみたラピスは「ニヤニヤして気持ちが悪い」と汚物を見るような目で言ってきた。いやいや、俺以外が聞いても似たような反応すると思うよ? 絶対!

 その後、エンデが地下室を作り、ピナコがそこに住むことになったんだそうだ。


「そういえば、リンとマシロ以外のエルフはいないのか? 他に家族とかは?」


 それを聞いた途端、ラピスの顔が今まで見たことないくらい冷めた顔になった。そして物凄い威圧感を体全体から放ち始めた。どうやら怒りで魔力が洩れているみたいだ。


「…ここを少し行ったところに、リンやマシロが生まれたエルフの里があるわ。でもリンとマシロのことがあって、今は交流していないわ。絶縁状態なの…」


 どうやら聞いてはいけないことを聞こうとしてみたいだったのだが、リンとマシロに何かあったのか、俺にも知ってもらいたいということでラピスは落ち着いて魔力を整えた後、詳しく教えてくれた。

 まずはリンのことだ。エルフ全員が今までは金髪に碧眼だったらしいのだが、ある時、黄緑色の髪、そして左目は青、右目が髪と同じ黄緑色の子供が生まれたんだそうだ。それがリンだという。

 エルフの里では前代未聞で不吉の前触れではないかと、里は大騒ぎになったんだそうだ。だがエルフは仲間意識が強く、赤ん坊をどうすることもできず、独り立ちが出来る15歳まで育てることにした。

 リンは歩けるようになると、温厚と言われているエルフとは思えないほど、活発でお転婆な女の子に育っていったんだそうだ。

 しかも、幼いにも関わらず、大人のエルフと変わらないほどの魔力を持っていて、家族ですら手に負えなくなり、周りのエルフ達もドン引きしていたらしい。

 それで抑えることのできる魔力をもつエルフの里長の家族の養子になり、15歳になるまで育てられたんだそうだ。その頃には里長の家族は皆、疲労困憊で窶れていってしまったんだとか。

 リンが15歳になったとき、エルフの里の外れにいたエンデにリンを預けることになったらしい。

 その後、エルフの里で悪戯をしていたラピスがエルフの里の者たちに捕まり、悪戯をしたいならいい相手がいるぞと言うことで、ラピスもエンデのところに来たらしい。

 そこで初めてリンとあったそうだ。そしてラピスはリンに対して色々悪戯を仕掛けるも、リンはニコニコと受け入れてくれて、悪戯をするよりもリンと一緒にいるのが楽しくなったラピスは、悪戯をやめて一緒に仲良く暮らすことになったんだそうだ。…なるほど、そこで母性が爆発したのか…。


「まあ、リンの場合はまだ許容出来たんだけど、マシロのことがあってエルフの里とはもう交流をしていないの…」


 リンが17歳の頃、ある日、エンデに突然叩き起こされることがあったそうだ。

 エンデに叩き起こされるなんて今までなかったので、何があったのか入口へ向かうと、生後幼いマシロが捨てられていたんだそうだ。

 しかもエルフの子供を産むところとなるとエルフの里しかない。

 リンは制止も聞かず、エルフの里へ乗り込んでいき、マシロの家族を見つけるや否や、怒りに任せて怒鳴り散らし、捨てた理由を問い質したんだそうだ。

 すると、マシロは赤ん坊にも拘らず、魔力が大人以上あり、リンの一件もあったせいか、家族どころか、里長まで育てることを拒否し、リンのところへ捨てに行ったらしい。

 俺は聞いてるだけで嫌な気持ちになったが、同情する気持ちもあった。元の世界では生まれつき障害が生まれてくる子もいるのだ。障害によっては人生の大半を子供に使わなくてもいけない。でも今回は障害ではないから話は別だなと思った俺はマシロの家族に同情することをやめた。

 それ以降、マシロのためにリンが母乳と取りにいくだけの交流があったのだが、マシロが離乳食を食べれる頃にエルフの里との交流をやめ、それ以降、エルフの里とは絶縁状態なんだそうだ。


「だから今後はエルフの里のことは一切口にしないで、いいわね?」


「あぁ、肝に銘じるよ」


 かなり話し込んでしまっていたみたいだ。気づいたら周りが段々と明るくなっていくのが分かる。


「もう朝ね、朝食用の野菜を取って家に戻るわよ。リンは朝も早いから本当に大変なのよ」


 俺とラピスは適当に野菜を見繕って取っていると、「ソラー、ラピスー、どこにいるの~?」とリンが呼んでいる声が聞こえた。


「リン~、今帰るから待ってて~、そしたら朝食にしましょ~」


 俺とラピスは野菜を抱えて家に帰ると、そこには仁王立ちして待っていたリンがいた。それを見て俺はここで暮らすことを決意するのだった。

ピナコは怒らせるとやばそうです。

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