表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/49

正体が判明す

俺は遥か遠くに見える山々へ向かって移動している最中だったが、嫌な出来事が今まさに起きていた。

 下の方には涎を垂らしながらバウバウと吠えている狼が俺に食らいつこうと飛び跳ねている。尻尾が二つある以外はテレビでよく見る狼と変わらなかった。

 そして上からは鷹のような猛禽類が時折急降下して攻撃を仕掛けてくる。まあ、この体が空気だから素通りするんだけど、恐怖心と疲労感は高まるばかりだった。


どうやら、この世界の動物にとって俺は格好の獲物みたいだ。最初に出会った猪もそうだったし、村では馬も涎を垂らしていた。俺は高級食材か何かかな? 山々の麓に広大な森が見えてきた。

 あそこまで行くのに、ずっとこの状態なのかなと憂鬱になっていると、俺を取り巻いている動物たちが一斉にビクッと体を硬直させて怯え始めた。そして森とは違う方向に一目散に逃げていった。

 俺は恐る恐る森の方角へ視線を向けると、そこには翡翠の色合いをした神々しい鳥の形をした何かがこちらを見据えていた。


 鳥の形をした何かが、ゆっくりとこちらに近付いてくる。なんか威圧感を感じる! 動物たちが逃げるのも頷ける存在感だ。その鳥の形をした何かは俺に向かって何やら話しかけてきた。

 え、喋れるの⁉ でも、ごめん、英語じゃないし全然分からない。俺は体を左右に振って分からないアピールをしてみた。相手に伝わっているか分からないけど、無反応よりはマシだろう。

 どうやらこちらの意図が伝わったのか、鳥の形をした何かは考え込むように右の翼を嘴に合わせ、ずっとこちらを観察するように見始めた。


 すると左の翼を差し出して、ゆっくりと上下させてきた。これは翼に触れろってことなのかな? 俺は恐る恐る差し出された左の翼に触れてみた。

 ……何も 起きない。どうすればいいのだろうと思っていると、頭の中に直接「あなたはこの星とは別のところから来た人間だったのですね」と日本語の声で聞こえてきた。俺は肯定するように体を上下に動かした。喋りたいけど喋れないのだから行動で表すしかない。

 それを察した鳥の形をした何かは翼の羽を一つ差し出し、俺の体内に入れてきた。すると、羽はすぅっと溶けて消えてしまった。途端に俺の体は最初のころより大きくなり、疲労感も無くなった。

 すごい! と驚いていると、「それで喋れるような体に形を変えることが出来るでしょう。イメージすれば出来るはずですよ」と語りかけてきた。


 俺は元居た世界の体をイメージしてみた。すると体がたちまち人の形を取り始めた。だけど、子供の姿になってしまった。どうやら、体の大きさが足りなかったらしい。次に喋れるか試してみた。


「あいうえお、かきくけこ、さしすせそ」


 お~、喋れた~と感動していた所、「人間の姿はやめなさい」と厳しい口調で言われた。俺はまず最初に「貴方は何者なんですか?」と問いかけてみた。


「私は風の上位精霊フェリーゼ、貴方こそ、元人間がなぜ風の未精霊になどになっているのです?」


 ちょっとまって! 今何て言った? 風の未精霊? どういうことだ。俺はフェリーゼに問いかけた。


「質問を質問で返すようで悪いのですが、未精霊というのはなんですか?」


 フェリーゼは淡々と「生後間もない、自我がまだ芽生えていない精霊のことですよ」と言った。だが、それからはこちらの質問を許さず、俺の身に起きた出来事を語らせられた。

 元居た世界で病気で亡くなったこと。気づいたらこちらの世界に生まれ変わっていたこと。そしてこれまでどう過ごしてきたのか根掘り葉掘り聞かれた。


「おかしいですね、今人間が住んでいる地域は魔素が薄くて、妖精や精霊は生まれるはずがないのです。何かおかしな点は御座いましたか?」


「う~ん、そういえば、生まれた場所は深い森で最初に着いた村周辺では地割れが起きていたり、なんらかの感染症が発生していたくらいですかね」


 フェリーゼは納得がいったように「なるほど」と頷いていた。


「最近、人間の住む地域で地震が起こっていて、地震が起こった場所では比較的濃い魔素が出てくるようなのです」


 恐らくそのせいで、人間の住む地域で未精霊が生まれ、俺は転生したらしい。


「そうですね、貴方のことを詳しく聞かせて貰った礼に、答えられる範囲であれば答えましょう」


 俺はう~ん、と悩みながら、まず最初になぜ、人間の姿はだめなのか聞いてみた。


「およそ千年前に、人間が妖精や精霊を含む他種族に戦争を仕掛け、大規模な争いが起きたのですよ」


 フェリーゼは千年前のことを詳しく教えてくれた。千年前、人間が他種族に争いを仕掛け、のちに【人外大戦】と呼ばれる大規模な戦争が起きたらしい。

 その最前線で指揮を執っていた人間が俺と同じく別の世界の出身だったこと。その人間が英語を広めたこと。【人外大戦】で人間側が敗北したが妖精や精霊を含む他種族にも甚大な被害が出て全種族に嫌われていること。


「千年前の話はこれくらいですかね。他に何か聞きたいことはありますか?」


 俺はなぜフェリーゼが日本語を喋れるのか聞いてみた。なんと、俺の思考を読んで即座に理解したらしい…。なにそのチートスキル、欲しいんだけど!

 俺はそれの反対が出来ないかお願いしてみたが、却下された。どうやら俺が千年前の争いを起こした人間と同じように別の世界から来たせいか警戒しているのでダメとのことだった。残念である。


「もうこのくらいでいいでしょう。私にはやることがあります。貴方が私たちに敵対しない限りは貴方に危害を加えません。それで構いませんか?」


 俺はフェリーゼに「…分かりました。有難うございました」としか答えれなかった…。そしてフェリーゼは最後に「そうそう、自我のある妖精や精霊の体には精魔石と呼ばれる核ができます。それを破壊されると消滅するので気を付けるように」と言い、森とは反対方向へ飛び去って行った。

 そんなこと言われても体の中にそんなもの見えなかった気がするんだけど…。俺は手を体の中に突っ込んで色々な所を探ってみた。すると心臓の位置に石の様な形をしたものがあった。どうやら体の色と同じで分からなかったみたいだ。これが精魔石に違いない。


 そして人間の形はダメと言われたので、俺は耳をエルフみたいに長く、背中に妖精の様な蝶々の羽を生やしてみた。

 服はどうするか迷ったが、恥部はないし、どうせ作っても透けて見えるだろうから作らないでおいた。俺はフェリーゼが飛んで行った方向へ一瞥した後、森の方へ移動を再開した。


 森に着く前に辺りが暗くなってしまった。俺は何もない草原で野営することにした。野営すると言っても寝具も火起こす道具も何もないんだけどね。この機会に俺は現状の整理をすることにした。

 フェリーゼに会った瞬間は驚きと動揺で考えが全然纏まらなかった。まず、俺の体は空気ではなく、風の未精霊ってことが分かったのが大きい。

 人間の形が取れたせいか触覚の感度が上がっているのが手に取るように分かった。触ったものが何か分かるのだ。嗅覚と味覚は依然として無かったが、この体では空腹にはなったことがないのでなくても大丈夫だろう。


 あとは聞けなかったが魔素のことだ、この世界には魔素があるってことは魔力もある、つまり魔法が使えるかもしれないってことだ。そう思うとワクワクが止まらない。

 まあ、辺りが暗いので魔法が使えるか試すのは後日にしよう。そして考えることややることの無くなった俺は、草を敷布団代わりに寝転がり、日が昇るのを待った。


 日が昇り、辺りが明るくなってくると、俺は森へ向かって移動を再開した。最初は飛んで行こうかと思ったが、飛ぶと体から何かが抜けてる感じがしたので止めた。

 恐らく空気か魔力が消費されているのだと思う。なので俺は歩いて移動することにした。この体に慣れるためでもある。

 森に段々と近づいていくと広大でかなり深い森だということが分かってきた。森の外側にある樹でさえ、俺の背丈の20倍はあるのだ。俺は辺りを気にしながら森へと足を踏み入れていった。


主人公の正体が判明しました。早くキャラ同士の会話をさせてみたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ