風船を作ろう
ドワーフの職人達が落ち込んでいるところに、ミカを筆頭に女性陣が昼食を持ってきてくれた。男性陣達はそれぞれ昼食を受け取り、適当に地べたに座って昼食を取っている。昼食を食べている時の話題は、金属製の部品をどのようにして作るかだった。全部金属で作ってもいいが、その分重量が重くなって飛びづらくなるのだ。俺は日本刀が確か、周りが堅い金属で切れ味が良く、内側が柔らかい金属で折れにくくなっていることを思い出した。シャフトの中心は柔らかい金属か木で作り、周りを金属で覆ってみてはどうか提案すると、ドワーフの職人達は皆驚いた顔をしていた。そこからは話が早かった。部品は多くなるが、歯車も外と内側は金属にして、中心は木を使うことで軽量することになった。これで耐久力がぐーんと上がるはずだ。
「ソラ。よくそんなことを知っているな。あちらでは職人だったのか?」
ガイアスは興味深そうに質問をしてきた。
「いや、見たり聞いたりした話の中にそういう話があっただけだよ。実際に作ったり見たことはないから、実際に試してみるまでは分からないよ」
俺は軽く首を左右に振って、これ以上はよく分からないんだという姿勢を示す。実際にその通りなので深堀されても何も分からないのだ。これ以上は試行錯誤していく中で確認していくしかない。
「飛行機は時間がかかりそうだから、昼食が終わったら、ガスを試してみないか? ガスの原理が分かれば、飛行機を小さな飛行船として作れるかも知れない。そうしたら金属で重くなっても以前より飛びやすくなると思うよ」
そういうと、リンを含むドワーフの職人達の目がキラキラと輝きを取り戻し始めた。皆の食事のペースが上がっていく。俺は脇で眺めて居るトレントの中からユングを見つけ出し、昨日預かってもらったお酒を持ってきてくれるようにお願いする。ユングは快く引き受けてくれた。トレント達はやることもなくなったのでユングを筆頭にトレント達が休んでいる場所まで帰っていく。
皆の昼食が終わる頃、ユングがお酒の入った樽を持ってきてくれた。ドワーフ達は男性も女性も樽の中に入っているお酒に興味津々のようで、樽を取り囲んでいく。
「ソラ。これはお酒か? 少し飲んでも構わないか!」
女性陣がいる前でよくそんなことが言えるな…。俺は女性陣を見回してミカに目が合うと、ミカが溜息を吐きながら頷いているのが見えた。どうやら酒場を出禁にしただけで、飲酒は禁止にしていないようだった。まあ、それならいいんだけどね。俺は樽からお猪口一杯分くらいのお酒を振舞ってあげる。女性陣もちゃっかり並んで貰っていく。皆お酒飲みたいだけじゃん! そしてガイアスが音頭を取る。
「かんぱ~い」
皆がお酒を飲み干すと、渋い、辛い、まずいと険しい顔をして大騒ぎし始めた。まあ、そんな予感はしたんだよね。俺がピナコに頼んだのは美味しいお酒ではなく、アルコールの高いお酒だからね。味は度外視になっていると思っていたのだ。一通り大騒ぎをした後、皆が俺を睨みつけてきた。まあ、そうなるよね。
「これはアルコールの高いお酒で、美味しいお酒なんて一言も言ってないよ。試しに飲みたいって言ったのはそっちでしょ? 俺を睨むのは筋違いなんじゃないのかな?」
そういうと、皆ばつが悪い顔をして、俺から目を逸らし始めた。そんな中ミカがパンパンと手を叩いて、「はいはい。お酒で痛い目を見たわけだし、ガスとやらの研究をするんだろ? 他に何か用意するものはあるかい?」とその場を収めてくれた。
「革袋か何かあるかな? 飛行船では大量の布に漆や樹脂を塗って作る予定なんだけど、そっちの方はどうなってる?」
ミカが女性陣を見渡しながら答えてくれる。
「大量の布は今随時作ってるけど、この人数じゃ全然足りないだろうね。昼食の片付けがてら皆の家から革袋をありったけ集めてくるよ。少し待ってな」
女性陣達は昼食の後片付けをした後、それぞれの家に帰っていく。女性陣が返ってくる間に、お酒を沸騰させる為の竈を職人達に作ってもらう。土魔法で難なく土台は完成し、お酒を温める鍋を吊るす道具を竈の上に設置したら完成だ。畑でも作ったことがあるので、すぐに出来た。竈が出来上がる頃、女性陣がちらほらと革袋を持参して戻ってきた。村人全員に行き渡るくらいの革袋が集まった。職人だけでなく女性陣も興味があるようでほとんどの村人が集まっているようだった。少し注目されてやりづらいが、仕方ない。
俺は鍋にお酒を注ぎ、ロートの形をした蓋を鍋の上に乗せる。そしてロートの先を革袋の口に差し込み、ロープで口の周りを縛れるようにする。あとは竈に火をつけ、鍋を温めてお酒を沸騰させていく。すると、革袋が徐々に膨らみ、浮き上がってくる。それを見たドワーフ達は驚きを隠せない顔をして、騒ぎ始めた。
「革袋が浮いている! どうなっているんだ?」
「これがガスなのか? どういう原理なのか早く教えろ!」
ガイアスが前に出てきて革袋をツンツンと指で突いて反応を見ている。軽く突いただけで革袋がすっとんでいくのだ。ロープで括り付けていなければどこかに行ってしまう程の挙動に驚いた顔をしている。それを見た他のドワーフ達も浮いた革袋を触ろうと、じりじりと詰め寄ってくる。俺が「皆の分も出来ると思うから、待ってくれ」と制止すると、俺の前には長蛇の列が出来てしまった。お祭りやイベントで風船を配るスタッフの気分だ。俺は次々に革袋を膨らましていく。全員に配り終える頃には大樽一個分のお酒が無くなっていた…。
「ソラ。これがガスか、なぜ浮いているのは分かって入るんだろう? どういう原理だ?」
俺も理科の実験とかでしか知らないから分かる範囲で説明してみる。
「俺達は息を吸うだろう? これを空気っていうんだけど、それは分かるよね? その中にも酸素やガス、他にも色々あるんだけど、それぞれに重さがあるんだ。ガスは空気より軽いから上に浮き上がっていくんだ。これはその習性を生かした風船っていうものなんだ」
ガイアスは腕を組みながら「う~ん、分かったような分からないような~」とあまりスッキリとしない顔で悩んでいる。
「俺も詳しくは分からないんだ。あとはそっちで分かるまで調べればいいんじゃないか? 楽しいと思うぞ」
職人達も「そりゃそうか! 自分達で調べればいいんだな!」とそれぞれ納得した顔をしていく。俺は辺りを見回して風船を楽しんでいる面々を眺めて居ると、リンが不審な行動をしているのが目に入ってきた。風船を皆から貰い集めているのだ。なんか嫌な予感がする…。リンが女性陣から一気に沢山の風船を掻き集めると、体が徐々に浮き始め、風に流されていってしまった。
「リンお姉ちゃ~ん。何やってるの~?」
マシロが大きな声でリンを呼ぶがもう遅かった。リンは風にドンドンと流されて直ぐに米粒の様な大きさになってしまった。皆が唖然とした顔でリンを眺めて居る。俺は助けに行こうか迷ったが、あの風の速さじゃ追い付くのは大変そうだ。どうせ飽きたら戻ってくるだろう。皆もそう思っていたのか、リンのことを気にせず、日が暮れるまで飛行機の話とガスの話で盛り上がっていた。
だけど、日が暮れて夕食の時間になっても、リンは戻ってこなかった…。
風船を作ったら、リンが掻き集めて空に飛んでいってしまいました。やりたい気持ちはわかるけどね…。




