玩具でマジになり過ぎ
ドワーフの村へ着くと、子供から大人まで竹とんぼで遊んでいた。誰が作った竹とんぼが一番長く飛んでいるか競っているみたいだ。ガイアスが負け時と先頭に立って竹とんぼを飛ばしているのが見える。大人げない気もするが、老若男女に楽しんでもらえて何よりだ。
リンとマシロはお酒の入った樽を置くと、腕を上げて背伸びをしたり、肩を回してストレッチをしている。それが終わると、リンは猛然とガイアスの所に向かって走りだし、「私も混ぜて混ぜて~」と、ガイアスが何本も作っている竹とんぼから一本借りて輪の中に入っていく。リンは出禁を食らっていたんじゃないのか? 周りはそんなことを気にする素振りも見せず、竹とんぼに夢中になっている。どうやら娯楽の前ではそんなもの無いに等しいみたいだな。俺は皆が楽しそうに竹とんぼをしている光景を見ていたら、自然と笑みが零れて細かいことを気にするのをやめた。
マシロは「ミカおばさんの所に行ってくるね」と言い残して、酒場に向かってしまった。俺が一人取り残されていると、ガイアスが近寄ってきた。
「ガッハッハッハ。ソラ。やっと戻ってきたか。この竹とんぼ? とかいうのは凄いな。これほどシンプルなのにあんなに高く、そして長く飛んでいられるんだ。職人達は挙って竹とんぼを作って飛行時間を競い合っているぞ。他は何か面白いものはないのか?」
俺はお酒の入った樽を持てなかったので、ラピスに作ってもらった将棋とオセロを見せた。
「ん? これはどうやって遊ぶんだ? 竹とんぼとは違うようだが…、それに見慣れぬ文字が刻まれているな。これはソラがいた世界の文字か? 興味深い…」
ガイアスが髭を撫でながら、色々と考え込んでいる。まあ、竹とんぼと違って知育玩具だからね。体ではなく頭を使うのだ。ドワーフはあまり馴染みがないんだろう。
「これは将棋とオセロといって、知育玩具って言うんだ。体ではなく頭を使う玩具だから、ガイアス達に合うか分からないけど、リンとマシロは楽しんでるよ。この文字は漢字と言って、俺のいた世界の文字の一つだよ。あぁ、あとオセロの駒を表と裏で色違いにしないといけないんだ。何か染めるものないかな? 色は木の色以外で」
ガイアスに説明をしていると、「塗料なら一杯ある、誰かに取ってこさせよう。誰か適当な塗料を持ってきてくれ。木の色と被らないやつだ」と請け負ってくれた。そのやり取りを見ていた村の人達が新しい玩具を見に、わらわらと集まってきた。俺は「テーブルがある場所で遊ぶものだから酒場に置いて来るね」と行って酒場に向かおうとするが、竹とんぼを中断してまで皆酒場までついてきた。ちょっと娯楽に飢えすぎじゃないか? 一つずつしか持ってきてないんだけど…。いや、ここでなら直ぐ同じものが作られるだろうから問題ないか。
酒場に着くと、マシロがミカの手伝いでカウンターに立っていた。俺が村の皆を引き連れているのを楽しそうに眺めている。空いてるテーブルに将棋とオセロを置くと、ガイアスが頼んでくれた塗料を子供達が持ってきてくれた。子供達の目がキラキラと光り輝いている。どうやら子供達を先に遊ばせた方が良さそうだ。
俺は持ってきてもらった塗料から黒いのを選んで将棋の駒の文字と、オセロの駒に塗っていく。そして手の形を扇風機みたいに変形させて風を送り、塗料を乾かしていく。塗料が乾いたら完成だ。大人達も子供を優先させたのか遠巻きでお酒を飲みながら見物している。俺は皆に聞こえる様に将棋の駒の動かし方とオセロを含めたルールの説明をする。
説明が終わったら、実際にやってみる。将棋はリンに任せ、俺はオセロで子供達と順番に遊んでいく。リンは容赦を一切せず。完膚なきまでに子供達を叩きのめしていた。俺は適度に負けたり、勝たせようとしたりしているので、オセロの方が子供達には人気だった。
辺りを見回すとドワーフの職人達がいないことに気づいた。今残っている大人達は女性ばっかりだ。すると、ガイアスを筆頭に職人達が戻ってきた。その手には将棋とオセロと思われる木の板と駒があった…。まあ、シンプルだから見ればすぐ出来るよね。空いているテーブルに次々と将棋とオセロが置かれ、大人達も酒を飲みながらやり始めた。昼間っからお酒飲み過ぎじゃないか? ミカとマシロはお酒とおつまみの注文が引っ切り無しで大忙しだ。
そういえば、遊びに夢中になっていたが、主旨を忘れていた。俺はガイアスに近寄り「飛行船の話をしたいんだけど…」と話を切り出す。
「ん? そういえば、そんな話だったな。だが、今のこの光景を見ろ。ここまで賑やかなことは滅多にない。今日は無理だろう。明日じゃダメか?」
ガイアスが視線を向けた先には、和気あいあいと将棋とオセロを楽しんでいる人達の姿があった。確かに、この光景に水を差す様で気まずい。俺は「明日でもいい…」と返事をするしかなかった…。
俺は一人トボトボとお酒の入った樽が置かれた場所まで戻った。酒場に置いてもらってもいいのだが、ドワーフ達に飲まれそうなので、置き場所に困っていた。すると、年配のトレントが挨拶にきた。
「やあ、ソラ。戻ってきたのか…。それで、人間達を攻める為に必要なものは揃ったのか?」
「量はないけど、揃ったと言えば揃ったかな…。なあ、トレントならこの樽は持ち上げられるか? 俺じゃ持ち上がらないんだ」
トレントはひょいっと軽々とお酒の入った樽を持ち上げた。
「これはお酒か? 何か匂いが強い気もするが、これをどうするつもりだ?」
「これの置き場所に困ってたん。ドワーフ達に管理させたら飲まれそうだろ? トレント達が休んでいる場所で置いてもらえないかな?」
「確かに…。ドワーフ達なら飲みそうだな…。いいじゃろう。ワシらが管理しよう」
「そういえば、貴方の名前を聞いていなかったな。名前は何て言うんだ?」
「ワシか? ワシの名前はユングじゃ。これからよろしく頼むぞ。ソラ」
ユングは両手に樽を持つと、トレントの休んでいる場所まで運んでくれた。辺りを見回すと他のトレント達はほとんどが立ったまま寝ていた。戦闘では大活躍だったからかなり疲れが溜まっていたのだろう。宴が終わってからずっと寝ているらしい。ユングは戦闘に出ていなかったので、ドワーフとの話合いはユングが引き受けているみたいだ。
「ここは静かで落ち着くな。さっきまでドワーフ達の相手をしていたから、少し寛いでから戻ろうかな」
「昨日からまた何か騒いでいるみたいだったが、あれはお主が教えたのではないのか?」
「元々は今日教えるつもりだったんだ。それをリンが教えたみたいでいつの間にかお祭り騒ぎになっているし、ここまで熱中しているとは思わなかったんだ」
俺は首を横に振って、想定外だったことを強調しておく。ユングは溜息を吐きながら、「ああのエルフの子か…」と呟いていた。
「あの子が森の中を走り回っているのを見かけたことはあるが、見ているだけで疲れそうな子だったな。エルフにあんな活発な子がいるとは思わなんだ。世の中はまだまだ知らないことが多すぎる。今回の人間達にしてもそうだ。あそこまでの兵器を人間が作り出していようとはな…」
ユングが俺を見て語り掛けてくる。俺が元人間だと知って、返答を待っているみたいだ。
「人間は寿命が短い分、技術力を発展させる意欲が高い傾向にあるんだ。だからあんな兵器なんかも作れるんだよ。俺のいた世界ではあれより危ないものが一杯あったよ…」
驚くのも疲れたのか、「そうか…」と返事をした後、ユングは寝てしまった。村の人達が俺を探しにここに来ると、トレント達を起こしてしまうかもしれないので、俺はこの場を後にして酒場に向かうことにした。
酒場に近付くにつれて、騒ぎ声が次第に大きくなってくる。この騒ぎ方はなんか殺伐としているような? 俺は物陰から酒場を観察してみると、ドワーフの男達が乱闘騒ぎになっていた。その周りで女性陣や子供達は我関せずと将棋とオセロをしている。俺は遠巻きに酒場のカウンターへと移動して、マシロに何が起こったのか聞いてみることにした。
すると、男性陣は負けそうになると盤をひっくり返したり、駒をずらしたりするせいで乱闘が起きたみたいだ。酒も入っているし、止めようがないのでこの状態らしい。よく横でこんな騒ぎになっているのに女性と子供達は将棋とオセロが出来るな。まあ、あっちの世界でも洪水の中、麻雀をしている強者がいるくらいだ。それと似たようなものかと納得すると、確かにガイアスの言う通り、今日は無理だったな。明日、また来るしかないか…。
マシロと相談し、今日は帰ることになった。ミカにその話をすると、リンとマシロの昼食用の携帯食を作ってくれた。俺達は乱闘している男性陣を放っておいて、家に帰ることにした。
竹とんぼ、将棋、オセロにドワーフ達がメロメロです。そして負けず嫌いが発動して大乱闘です。飛行船はいつできることやら。




