帰宅
日が傾く前に家に着くと、エンデが快く出迎えてくれた。
「よくやってくれた、お主達。これで当分は安全じゃろう。ラピスとレイはピナコと一緒に中で待っておるはずだ。顔を見せてあげると云い」
家の中に入ると、みーにゃが「んにゃ~」と泣き叫びながらリンに飛びついてきた。家の中を見回すと、ピナコが未精霊に追いかけられているところを、ラピスとレイが見守っている状態だった。俺達が帰ってきたことにラピスとレイが気づくと、直ぐに近寄ってきて後ろに隠れだした。未精霊達もこちらに気づくと、ピナコを追いかけるのをやめて、「パパー」と言いながらこっちに近付いてきた。
俺が「待て」と言うと、未精霊達はピタっと止まった。未精霊達は俺の魔素を与えていたせいか眷属に近い状態になっていると思って命令してみたのだが、どうやら眷属と同じ扱いになっているみたいだ。続いて「三回回ってワンと鳴いてみて」と言うと、未精霊達はくるくると三回回った後に「ワン」と鳴いた。フェリーゼの言っていたことはこれのことらしい。確かに俺の言うことを聞いている。まあ、ただ拒否をしていない場合もありそうだが、そこは追々調べることにしよう。
「未精霊達、少しの間木箱に入って大人しくしといてくれ。後で相手をしてあげるからな」
「はーい、パパー」と返事が返ってくると、木箱に戻って大人しくし始めた。ピナコがぜぇぜぇ息を絶やしながら、「有難う。それとお帰りなさい」と疲れた顔を隠せないまま、精一杯の笑顔で迎えてくれる。ラピスとレイも「おかえり~」と迎えてくれているが、「なんで貴方の言うことは聞くのよ!」と驚いている。
俺はフェリーゼが言っていたことを伝えることにした。眷属は上位の存在の命令を拒否することが出来ないこと。俺はなぜかフェリーゼの命令を拒否出来たことを簡潔に話した。
「やっぱり、貴方って普通の精霊とは違うのね。それにこの子達には貴方の魔素を与えていたでしょう? その影響があるかも知れないって思うと、頭が痛くなってくるわ」
ラピスは額に手を当てて、首を左右に振りながら溜息を吐いている。確かに、未精霊達も俺の影響を何か受けているかも知れないな。懸念材料として覚えておこう。丁度ピナコもいることだし、アルコールの強いお酒なんかがないか聞いてみるか…。
「ピナコ。アルコールの強いお酒ってあったりしないか? 出来るだけ早く欲しいんだけど…」
「ふぇ~、今強いお酒はないと思うよ…。二日くらいかければより強いお酒が作れると思うけど、どうする?」
「分かった。それでいいからよろしく頼む。いやぁ、ピナコがいてくれて本当に良かった。これでなんとかなりそうだ」
俺はピナコの頭を撫でてあげると、顔が茹蛸の様に真っ赤になって、モジモジし始めた。かなり照れているみたいだ。可愛いと思って顔が自然とにやけてくる。すると、ピナコは俺の顔を見るや否やビクッと驚いた後、すぐさま地下に戻ってしまった。どうやらにやけ顔が気持ち悪かったらしい。両手で顔をパンパンと叩き、にやけ顔を解していく。
「それでソラ。ドワーフの村へ行くのは二日後でいいのよね? その間何かすることはある?」
「人間達がいつ来てもいいように、準備は色々しておいた方がいいかもな。俺達は何の準備もせずにドワーフの村へいっただろう? 鳥を逃がすか、捌くかしたり、荷物を纏めたり、やれることはあると思うんだ」
「鳥はいざって時に逃がしましょう。マヨネーズが食べられないなんて嫌だもん。荷物はマシロにお願いするね。私より必要なもの分かってるし、忘れないもの!」
キリッとした顔で堂々と胸を張っているが、ほぼ丸投げだからね? 俺とマシロは揃って溜息を吐く。リンにも何か出来ることはないか少し考えてみたが。悪い方向へ行く気がしてやめた。リンにはいつも通りの生活を送ってもらおう。
「リン、そろそろ夕食の時間だろう? 畑に行って適当に野菜と卵を取ってきたらどうだ? 鳥達の様子も気になるし…」
「分かったわ。じゃあ、畑に行ってくるわね」と走りながら、家を出ていった。相変わらず落ち着きがないこと。マシロはその間に、万が一に備えての荷造りを終えていた。革で出来たリュックがパンパンに膨れている。上には戦利品のテントが括り付けてある。よくキャンパーが背負っているリュックのイメージのまんまだった。ぷぷっと思わず、思い出し笑いをしてしまった。マシロはそんな俺を気にも留めずに、夕飯の仕度を始めると、玄関のドアがバァーンと開いてリンが大騒ぎで入ってきた。
「ねぇねぇ、聞いて聞いて! 鳥達を分けてた板が壊されていて、黒い鳥と白い鳥が卵を取ろうとすると、威嚇してくるの! どうしたらいいと思う?」
「まずは、抱えている野菜を置いたらどうだ? マシロ、俺が見てくるから夕飯の仕度を続けてくれ。たぶん、有精卵だから守っているだけだと思うんだ」
「有精卵? 何それ? 同じ鳥なのに卵に種類があるの?」
マシロにも聞かせた方がいいか。俺は簡単に無精卵と有精卵の説明をする。
「雌だけでも卵を産んでいただろ? 雌だけの時に産む卵は無精卵といって、どんなに温めても雛が生まれることはないんだ。有精卵というのは雄と雌が一緒にいると出来る卵で、温めると何れ雛が孵るんだよ。威嚇するってことは何れ雛…子供が生まれてくるってことだ。分かったか?」
「そうなんだ! じゃあ、鳥がいっぱい増えたら卵料理がたくさん出来るかも知れないし、もっと賑やかになるかも知れないわね。いいこと尽くしじゃない!」
いやいや、世話は誰がやるんだよ…。喜んでいるのはリンだけだぞ。マシロは聞き流しながら料理の仕度をしているから表情が分からないが、ラピスとレイは呆れた顔をしている。
「じゃあ、リンが世話をするのか? 出来るのか?」
「大丈夫よ! ソラにラピス、それにマシロが手伝ってくれるもの。 私に任せなさい!」
リンは胸を張って威張り散らしているが、ラピスとマシロからは溜息を吐く音が聞こえてくる。これはもう確定コースかな…。リンの我儘は今に始まったことじゃないので、俺達は受け入れるしかなさそうだ。
「卵を見ても、外見では有精卵か無精卵か分からないと思うけど、確認してみるか…。いくぞ、リン」
俺とリンは家を出て、畑に向かう。リンの言った通り、飼育小屋で仕分けていた板が壊され、黒い鳥と白い鳥が一緒にいた。両方の鳥のお腹辺りからちらほらと卵が顔を出している。俺が鳥達に向かって手を伸ばすと、黒い鳥がガァアアアガァアアアと泣き叫びながら嘴で攻撃をしてきた。明らかに卵を守っている。卵は有精卵の可能性が高そうだ。俺は畑から適当な野菜を取って黒い鳥に差し出すと、警戒しながら野菜を嘴で挟み、飼育小屋にいる白い鳥と一緒に食べ始めた。警戒はされているけど、餌はあげれるみたいだ。
「餌はあげれるみたいだから、このまま様子見で良いと思う。リンは鳥を捕まえてきたから、どうだろうな…。リンも餌を与えてみてくれ」
リンが畑から適当に野菜を取って、鳥達に差し出すと、ガァアアアガァアアアと泣き叫んで餌を拒否された。試しに鳥達に向かって野菜を投げ込んでもらうが、嘴で弾かれてしまった。どうやらリンの餌やりは絶望的みたいだ。そう思っていると、リンが膝から崩れ落ち、「なんで私だけ…」と呟いていた。捕まえたとき乱暴に扱っていたみたいだから、日頃の行いだと思う。そんなリンを宥めながら、家に戻ると、夕食の仕度が整っていた。
夕食が終わることには辺りはすっかりと暗くなり、リンとマシロが揃って欠伸をして、眠たそうになっていた。ラピスとレイに視線を移すと、こちらも瞼が重たくてしょうがない顔をしている。
「俺が辺りを見ているから、皆は寝たらどうだ? 昨日と今朝は色々あって疲れがまだ抜けきってないんだろう」
俺が見回りを買って出ると、皆がそれぞれのベッドに潜り込み、すぐ寝息を立て始めた。家にも帰ってきたし、緊張が解けてドッと疲れが押し寄せてきたに違いない。俺は玄関のドアを音が鳴らない様に出来るだけ静かに開けて、家を出る。エンデから「ソラ、どうした? どこか出かけるのか?」と声をかけられた。
「あぁ。今日は見張りをした方が良いだろうって、買って出たんだ。他の皆は疲れたのか寝てる。エンデの天辺で見張りをしてもいいか? ここら辺じゃ一番高いだろう?」
「あぁ。そういうことか…。良いだろう。見張りはお主に任せる。何かあったら起こしてくれ…」
会話が終わった後、俺は空を飛んでエンデの天辺に止まり、皆が起きるまで魔力感知をしながら辺りの警戒をすることにした。
家に帰ってきました。未精霊達は眷属になって命令を聞くようになりました。そして鳥達の家族が増えそうです。どんどん賑やかになりそう。




