村でひと時を過ごす
すっかり辺りは暗くなってしまった。すると、村の中心の方から明かりがこちらに向かって来た。しかし、明かりは長屋のところで止まり、消えていった。
どうやら、青年は長屋で寝泊まりしているらしい。そうだろうな、あんなに罵声を浴びせられたら、介抱が必要な状態でも一緒にいるのは難しいだろうな。
俺のこの体じゃ話し相手もできないし、情報も聞き出せないだろうし、何もすることがないので今までに分かったことやこれからどうするか考えを整理することにした。
まずはこの体のことだ。視覚、聴覚、触覚はある。そして嗅覚、味覚がない。恐怖心や疲労感はあるみたいだ。
それと、人に人工呼吸をすると体が小さくなって疲れる。その他の感覚に関しては、今は分からないので置いておこう。
次はこの世界についてだ。人が住んでいることは確認できた。見た目もほとんど俺のいた世界と変わらないみたいだが、見た目は金髪で欧米人に近い容貌をしていた。明らかにアジア系ではない。
あとはこの村だけでなく、他の場所でも流行り病が流行っているかもしれないということくらいか。
う~~~ん、この体のことに関してはある程度分かってきたが、この世界のことはあまりわかってないな~。あっ!! 忘れてた。この世界の人達は英語を喋っていた!!
俺は馬小屋の土の地面に向かって文字が書けるか試してみた。うん…全然書けない…押す力が足りてないみたいだ。
む、む、むと考えているとピンと閃いた!? 体全体でほふく前進すればいいんじゃね? と、俺はさっそく試してみた。やった、書ける!! 俺は「Hello」という単語を書いた。
うん、これでここの村人の人が文字を読めれば筆談ができる!! これで明日やることが決まった。
その後、やることのなくなった俺は星を眺めて前の世界と共通点がないか探したり、眠れるか試したり、空気を吸い込んで体が元に戻らないか試してみた。
結果は星座に詳しくない俺が星を眺めても、月のような衛星が二つあるのしか分からなかったし、眠れないし、体は元に戻るどころか、何の変化もなかった。残念である。
そうこうしているうちに段々と辺りは明るくなってきた。いつの間にそんなに時間が経ったのだろうか。いや、地理的に夜が短い場所なのかもしれない。
辺りが明るくなってきたので俺は、青年が入っていった長屋へ移動した。
扉の前に「Hello」と文字を書いて、向かいの長屋の屋根まで飛んで、青年が出てくるまで屋根から見える風景を見て、村を出たらどの方向へ行くか考えることにした。
この世界にも太陽と同じような恒星がある。確か元の世界の英雄譚でイスカンダル? だったか、太陽に向かって東に遠征したんだったな。この世界でも似たようなことをする人はいるだろう。
それに太陽の昇る方角には標高が高そうな山々が見える。この体なら山頂まで行くことも容易だろう。そう考えていると長屋の扉が開く音がした。
青年が出てきた! 俺はドキドキしながら彼を観察することにした。彼は「Hello」の文字周辺をぐるぐると周っている……。
結果は微妙なことになった。どう見ても読めていないのだ。だがアルファベットのOを「Zero」と読んでいたあたり、文字は読めなくても数字は読めるみたいだった。
数字が読めても筆談はできないんだよな~とがっくりしていると、彼がこちらに気づいて右手をあげて手を振ってきた。ありがたいけど、この体だと上手く反応ができないんだよね。
彼はこちらの反応がないと見ると、立て掛けてあったスコップを手にし、墓地の方角へと歩いていった。どうやらお墓作りの続きをしに行くみたいだ。まだまだ遺体はあるから大変そうだ。
俺は彼を見送ると、村の中心にある家に向かった。青年以外の人達が文字を読めるか確認するためだ。淡い期待を抱きながら向かっていると、家の煙突から煙が出ているのが見える。どうやら、誰か料理をしているみたいだ。俺は家の前の地面に「Hello」と文字を書いた後、壁の隙間から家の中へ入った。
家の中に入ると、若い大人の女性が時折咳き込みながら、料理をしていた。俺は辺りを見渡しながら何を作っているのか料理を作っている彼女の元へ向かった。
彼女以外はまだ眠っているみたいだが、症状が安定しているのが見て取れる。どうやらみな峠は越えたみたいだ。
そうこうしているうちに彼女の隣まで移動すると、彼女が俺に気づいて一瞬ビクッと身構えたが、助けてもらったせいか、お礼を言ったあとは料理の続きを始めた。
俺は何を作っているのか確認すると、彼女が鍋で沸騰した水の中に麦を入れて塩を振っているのが見えた。どうやら麦のお粥的なものを作っているみたいだ。まだ病み上がりの人たちには最適な料理だ。
きっとこの子はいいお嫁さんになるだろうと感心していると、匂いに釣られたのか、子供たちが次々と起きてきた。今は成長期だから余程お腹が空いているに違いない。
起きた子たちは俺の存在に気づくとそれぞれが感謝のお礼を言ってきた。悪い気はしないな~と思っていると、料理が完成したみたいだ。子供たちの声が華やいでいく。
俺は邪魔になりそうだから壁の隙間から外へ出て、書いた文字の前で待つことにした。
俺は誰かが出てくるのを待っていると、家の扉が開いた。出てきたのは料理を作っていた彼女だ。俺の期待が高まっていくのを感じる。
彼女は俺の書いた文字に気づいたのか文字の周りを歩き始めた。結果は青年と同じだった…。文字は読めずアルファベットのOを「Zero」と読んだのだ。ガッカリである。
そうこうしているうちに墓地の方から青年が荷車を引きながら歩いてきた。それを見た彼女はいそいそと家の中へ戻ってしまった。家の中からは今は外に出てはいけない感じの会話が聞こえてきた。
俺は墓地から歩いてきた青年を観察することにした。案の定、引いてきた荷車に遺体を乗せ、墓地へ向かっていく。俺は彼の後をつけることにした。墓地が今どうなっているのか気になったからだ。墓地に着くと俺は唖然とした……。
人が寝て入れるような穴が十箇所もあるのだ。昨日と今日合わせたとしても一人で出来るものでもない。彼はどんな体力をしているんだ! そう考えている間にも彼は遺体を穴に丁寧に寝かし、遺体に土を被せていく。それももの凄い速さで、俺は驚愕した。
そう思っているとバギッと音がした。どうやらスコップが折れてしまったらしい。彼がスコップを放り投げた、その先には折れたスコップや農機具がいくつも散乱していた…。
驚きの連続で唖然としてしまった俺は、墓地の傍らで青年の観察を続けた。彼は荷車を引いては遺体を運んで、それを丁寧に穴に寝かして遺体に土を被せていく。
時折、農機具を壊しながらそれを繰り返し行っている。それを彼は苦もなくやっていた。本当にどんな体力をしているんだろう?そう思っているとどうやら、村に残っていた遺体をすべて運び終えたみたいだった。
なのに穴がまだ一箇所残っているのに俺は疑問を感じた。彼はその穴に目をやった後、寝泊りしている長屋へ歩いて行ってしまった。その足取りはとても重く見えた。
しばらくすると、長屋の煙突から煙が上がるのが見えた。俺は空を見上げた、太陽が真上の位置まで昇ってきている。どうやら昼食タイムのようだ。俺は村の中は大体見回ったので、村の周辺を探索してみることにした。
まずは、畑を見つけた、一部麦が残っている、どうやらここら一帯は麦畑みたいだ、麦畑の両隣には土から青々とした葉が生えてるのが見える。土に隠れているから根野菜が埋まっているみたいだった。畑を探索しているとふと視線を感じた。
視線を感じた方へ視線を向けると馬が十頭群れを成してこちらを見ている。どうやらこちらの世界の馬は元いた世界と大差ないみたいだ。恐らく村で飼われていた馬だろう、畑の所々に馬が食べたであろう跡が見て取れた。
そんな馬たちは俺の方へ向かってゆっくりと、確実に近づいて距離を詰めてきていた。涎を垂れ流しながら……。
俺は嫌な予感を感じて、村の方へ急いで戻ろうと出来るだけ早く移動すると、馬たちが走りながら追いかけてきた。
ヒィイイイ、こないで~~~と村まで逃げたあとに振り返ってみると、馬たちはあまり村に近付こうとせず、一定の距離間を保っていた。
恐らくまだ流行り病の病原菌がいるのであろう、馬たちは遠目で村を眺めたあと、畑の方へと帰っていった。
俺は村周辺の探索が終わったので、青年がいるであろう長屋へ向かった。もう煙突から煙が出ていない、昼食タイムは終わったんだろうと、壁の隙間から長屋へ入って彼を探してみた。
しかし、どこにもいない、食器は片づけてあるから、何か別の作業をしているのかな?ここにいても埒が明かないので、次に村の中心にある家に向かった。
家の中に入ると、村人達がお昼寝をしていた、まだ体調が万全でもないし、食事のあとだ、眠くもなるだろう。だが、青年の姿が見えない。俺は村の家を全て探すことにした。
結果、どこにもいない、嫌な予感が頭を過る。そして俺は最後に墓地へ向かった。すると残っていた穴が塞がっている、塞いだ土には農機具が出ているのも見える。
俺はそこになにがあるのか容易に想像ができてしまった。何とも言えない感情が体から込み上げてくる。この体では泣けないし、言葉や嘔吐物を吐くことも出来ない。
どんどんと体にストレスが溜まっていくのを感じる。俺は穴に何があるのか確認もせず、その村を後にすることを決めた。行先は太陽が昇った先に見える山々だ…。
せっかく見つけた村をあとにしました。
う~ん、切実に文章を添削してくれるアプリかなんかが欲しい。いくつか試してみたけど、良いのが見つからない…。