情報収集
蠍型の兵器の両腕には大きな鋏があり、移動する為の足が合計八本、そして尻尾は針ではなく火炎放射器の様に火を出している。どうやらあの尻尾で森を燃やしているみたいだ。俺は兵器の性能を見極めるため、少し距離を置いたところで観察することにした。
蠍の口付近にはガラスで覆われているコックピットがあった。上段に二人、下段に二人、計四人で操縦しているように見える。あれだけの大きさだ。一人では操縦するのが難しいのだろう。
鋏で樹を挟むと見る見るうちに樹が枯れていく。どうやらあの鋏に魔力を吸い取る装置が付いているみたいだ。そして枯れた樹が倒れたところを尻尾の火炎放射器で燃やしていく。その繰り返しでジリジリと森を壊しながら進んでいるみたいだ。移動や回頭スピードはかなり遅いが、倒れてきた樹がぶつかっても平気そうなところを見ると、装甲はそれなりの強度がありそうだ。トレントの攻撃を防ぐくらいの堅さはあるのかな? 若しくはあの尻尾の火炎放射器で返り討ちに合ったのかもしれない。これは撤退したトレントに聞けばわかるだろう。
ぱっと見20機以上は見える。それに森を東西に分けて攻めているみたいだ。遠くの森でも火災が発生しているのが見える。つまり反対側にも同じくらいの数の兵器がいるってことだ。相当な数が森を攻めるために投入されているらしい。何が目的なのだろう? これ以上観察していても新しい情報は手に入らなそうだ。俺はドワーフの村に向かって移動することにした。
ドワーフの村の上空まで移動すると、かなりの数のトレントが避難しているのが見えた。背丈は大体5~15mと様々だが、ざっと50体以上はいるみたいだ。ドワーフの大半も戦闘に参加するためか、武器や防具を装着して木箱を運んだり、食料を運んでいるのが見える。そして一際目立つドワーフの隣にリンが立っている。恐らくあの目立つドワーフはガイアスだろう。俺はガイアスやリンがいる付近目掛けて、高度を下げていく。
リンは俺に気づいたのか、「ソラ~。ここよここ~」と両手を振りながら叫んでいる。やはり隣にいるのはガイアスだった。俺が地面に降り立ったら直ぐに状況の確認をしてきた。
「ソラ。奴等に関して分かったことを教えてくれ。それを元に奴等を迎え撃つ!」
俺はガイアス達に蠍型の兵器を見て分かったことを教えた。鋏から魔力を吸収すること。口の辺りに人間が乗っているコクピットがあること。尻尾から火炎放射器みたいに火を吐くこと。移動するスピードは遅いが、堅い装甲に覆われていることなど、現状分かっていることを話していく。
「むぅ、堅いとはどれくらいだ? トレント族で分かるものはおるか?」
所々燃えた跡があるトレントが前に出てきて、「私たちが殴ってもビクともしない堅さだったぞ、それに近付くと尻尾の火のせいでこの有り様だ」と焦げている箇所を見せてくれる。
「俺からも聞きたいことがあるんだけど、どの箇所を殴ったんだ? コクピットは殴ってないのか?」
「殴ったのは主に背中だな。人間が操縦している箇所は鋏に邪魔されて攻撃出来なかったんだ。尻尾を掴んで火を避けていた者もおったのだが、他の奴等の攻撃を受けてやられてしまった。どうやら奴等お互いをカバーできる距離を保っているようで、攻撃を仕掛けるといつの間にか包囲されてしまうんだ」
なるほどなるほど、トレントの攻撃では歯が立たず、戦略的にもあっちの方が上手みたいだ。あの大きい巨体で攻撃してもダメならドワーフ達でも歯が立たなそうだな…。俺は戦闘に参加するであろうドワーフ達を見渡すと、ちらほら女性の姿も見える。どうやら力自慢の女性達も戦闘に参加する気みたいだ。皆目が血走っていて興奮しているようにも見える。この状況で戦っても勝てる気がしないな…。俺の考えを察してか、ガイアスが話かけてきた。
「ソラ。ワシ達じゃ奴らに敵わないと思っているみたいだな? お主ならなんか打開策でもあるのか?」
「打開策は考えてあります。以前トレント族に岩を集めてほしいとお願いをしていました。岩の大きさや重さによっては容易に敵を倒せると思いますよ。トレントでお願いしていた岩の場所を知っている方はいますか? そこまで案内してください」
戦闘に参加出来そうにない年配のトレントが「ワシが案内してやろう、ついてこい」と言いながら、ゆっくりと移動し始めた。俺はガイアスとリンを伴ってトレントの後をついていくことにする。暗い森の中を進んでいくと、所々樹々が生えていない場所に着いた。どうやらここはトレントがいくつか用意してある居住スペースらしい。まあ、居住スペースて言ってもトレント自体が家みたいなものだけどね。
「ほら、ここではここに集めておる。他の場所でも同じくらい集めておったはずじゃ」
岩の上にも岩が積んであるので正確な数は分からないが、外から見えるだけで50個以上は見える。かなり集めたな…。大きさは大体小さいもので1m~2m、大きいもので3~4mくらいの直径もある。よくこんな大きな岩をよく持ってこれたなと感心していると、「これで奴等を倒すことが出来るのか? 持つだけで精一杯だぞ」と不思議がられた。
俺はガイアスに小さい岩を両手で持てるくらいの大きさまで小さくして欲しいとお願いすると、どうやらガイアスは岩の魔法が使えるみたいで、ガイアスが岩に触れるとパキパキと音を立てながら岩が変形していき、すぐにスイカみたいな大きさの岩が複数個出来上がった。
俺はリンにこれを普通に投げてくれとお願いする。リンは「よいっしょっ」と両手で持ち上げると、下手投げでフンっと思いっきり投げた。距離にして大体20mくらいまで飛んだ…。いや、力ありすぎじゃない? まあ、魔法のある世界だから仕方ないか。
「今の様に岩を投げて相手にぶつけるのか? 近づかないと届かないだろう?」
「岩を投げて相手にぶつけるのは合ってるけど、近づかなくても遠くに飛ばす方法はあるんだ。リン、樹魔法で蔓を使ってロープを作ってくれないか?」
リンは言われた通り、樹魔法で蔓を操作しロープを作ってくれた。俺はそのロープをさっき投げた岩に何重にも巻き付けていく。振り回しても飛んでいかないように。
よし、これでたぶん大丈夫だろう。俺はリンにハンマー投げのジェスチャーを見せて、やり方を教えていく。そしてリンにロープを括りつけた岩でハンマー投げを実践してもらうことにした。
リンは岩を転がしながら腕を頭の上に上げ、グルングルンと回していく。そして岩が加速していくとブンブンとハンマー投げの形になり、更に加速していく。そして岩を放り投げると、普通に投げた時より遥か遠くの彼方まで飛んでいった。正確な距離は樹々に隠れてしまって分からないが軽く100mは越えていたと思う。ガイアスとトレントは口を開けたまま唖然とした顔をしている。
「普通に投げた時とは全然違うじゃないか? どういう理屈なんだ? 詳しく教えろ!」
「これは遠心力っていって、回すと外側に力が加わるだろ? その力を応用すると普通より遥かに遠くまで飛ばせるようになるんだ。しかもその分威力が増す。俺の予想だとトレントの体を使えばロープいらずで岩がある限り投擲し放題だよ。ここにある岩が当たれば敵も無傷じゃいられないはず。それにさっきは投げたけど、『モーニングスター』の様に回しながら当てるだけでも相当な威力になると思うんだよね」
「モーニングスター? それが何か分からないが。なるほど、そういう理屈か。確かに回すと外側に力が加わるが、こういう使い方は思いつかなかったな。お主、本当に精霊か?」
ガイアスは関心しているみたいだが、逆に怪しまれてしまった。するとリンが「ソラは元々人間だったんだって、生まれ変わったら精霊になってたのよ! 凄いと思わない!!」とさらりと俺の過去を暴露した。ガイアスとトレントは急に警戒心が強くなる。
そりゃそうだよね。今攻めて来てるの人間だし、元人間がここにいたら警戒もするよね。俺はニコニコ笑いながらリンの両頬をつねって「余計なことは言わないの」と叱っておく。
リンは「いひゃいわね、にゃにすのよ」と愚痴を零している。いや、愚痴を零したいのはこっちだからね? この雰囲気どうするのよ…。仕方なく、俺は前世のことを話した。こことは別の世界の人間でここの世界の人間とは違うということを…。ガイアスとトレントはあまりにも信じられないと言わんばかりの困惑顔をしているが、「このことは風の上位精霊も知ってる。フェリーゼっていうんだけど聞いたことはない?」と言うと、「フェリーゼか! 知っているとも。ワシらの村に人間達が不審な動きをしているので注意するようにと忠告してきたぞ!」そしてトレントも頷いている。どうやらトレント族もフェリーゼに同様の忠告を受けていたらしい。
「だから、俺はこの世界の人間に仲間意識はないし、リンやマシロに危害を加えようとするなら、俺は人間とも戦う。これは信用してほしい」
フェリーゼの名前を出したことが功を奏したのか、警戒心が一気になくなった。それにガイアスは俺とマシロが仲良くしているのを見ている。
皆が落ち着いたところで、俺はガイアスに考えた作戦を提案する。
事前に用意していた岩で迎撃準備。魔力で身体強化している分、岩がよく飛びます。




