最初の村
第一村人を発見するべく、ウキウキで村に向かっていたが、村に近づくにつれておかしいことに気づいた。村周辺の地面の至る所に地割れが見て取れるのだ。
よく見回すと草原に隠れて見えていなかったが、至る所で地割れが見え隠れしている。そのため、村の家屋の至る所に修繕の跡が見受けられる。
そして村をぐるっと遠目から一周してみると、森の方角から見えない位置にたくさんのお墓が立っていた。それも10や20ではない、ざっと見ただけで50以上はある。村の家屋の数から考えると異常な数だ。
この村では何かが起こっている気がする。恐らく猪のような動物はそれを感じ取っていたのだろう。ここは慎重に村を調べていく必要がありそうだ。
まず外周の家屋から順番に探索していく。どうやら外周にある12の家屋のうち、半分は馬小屋や農作物を入れておく倉のようだ。そして残りは人が住んでいたと思われる家だった。
俺の体は空気になっているので、家の壁の隙間から容易に入ることができたが、人や馬の気配がまったくない。しかし、どの家にも最近まで人が生活していた形跡があった。
明らかにおかしい。俺はどんどんと怖くなっていくのを感じていた。どうやらこんな体にはなったが、恐怖心は消えていないようだ。
少しでも情報が欲しいところだが、文字と思われるものがどこにも見当たらない。この世界は識字率が低いのかもしれない。
次に、村の内周へ向かって少しずつ移動し、外周と内周の中間にある6軒の長屋を探索していく。どうやら長屋は大家族が住む家のようだ。
比較的広いリビングのような部屋や大きな調理場があり、子供が生活していたであろう小さな部屋がたくさんあった。しかしこちらも外周の家と同じく、人の住んでいた形跡があるのに、人の気配がない。
どうなっているのだろうか。内周にある家屋に向かって俺は恐る恐る移動することにした。
内周にある家屋に近づくと、虫が大量に飛んでいるのが見えた。それを見て、どういう状況になっているのかいくつかの憶測が頭をよぎる。
どうしようか迷っていると、村の中心の方からカラカラカラっと何かが回っているような音が聞こえた。この村に来て初めて人の気配を感じた。
俺はほふく前進するように地面に体を擦り付け、その状態で内周の家屋の壁に沿ってゆっくりと音がする方へ移動し始めた。
家屋の壁からひょっこりと体を出し、音がした方向を見上げると、そこには村の中心の家屋の脇にある井戸で水を汲んでいる青年らしき男性が見えた。
やっと第一村人発見! と思ったが、いい心地はしない。それよりも状況を確認しないといけない。俺は青年男性を観察することにした。
青年は井戸から汲んだ水を木の桶に移し、その桶を持って村の中心にある家屋へ入っていった。少し待ってみたが動きがまったくない。
このままだと埒が明かないと思った俺は、村の中心にある家屋に細心の注意を払いながら、村の内周にある大きな3軒の家屋を探索することにした。
案の定というか、そこには大勢の遺体があった。どうやら内周にある家屋は商店と酒場を兼ねている店舗のようだ。
木箱には野菜が残ってはいるが、虫が大量に集っていて食べられそうにない。棚にはお酒らしい瓶がいくつも並んでいるのが見える。
そして大小様々なテーブルと椅子が置かれているが、テーブルの上には遺体が置いてある。遺体の額には布がかけてあるのを見て、俺はピンときた。この光景に見覚えがある…。
まさか…そんなことが…
俺は恐る恐る遺体の一つに近づいた。この体でよかったと思う。匂いはしないし、吐き気も催さない。遺体の確認したところ、目立った外傷ない。そして体はやせ細り、衰弱しているように見える。額の布には濡れた形跡がある。
間違いない、なんらかの感染症、流行り病で亡くなったのだ。皮肉すぎるだろ…。最初に見つけた村が俺の亡くなった原因と似たような原因で崩壊しているなんて…。
俺は他の遺体も確認してみた。みんな同じような症状で亡くなっている。ただ気になるのは年老いた大人がほとんどで、若い大人と子どもが見当たらないのだ。
もしかして…。そう思った時、村の中心にある家屋の扉が開く音がした。
村の中心にある家屋から出てきたのは先ほどの青年だ。家屋に立てかけてある農機具のうち、スコップのような形をした道具を手に村の外れにあったお墓のある方へ歩き始めた。
その足取りは重たそうに見える…。どうやらあのお墓を作ったのはあの青年のようだ。青年が見えなくなった頃、俺はこの隙にとばかりに村の中心にある家屋へ向かった。
俺は村の中心にある家屋の壁の隙間から中に入った。咳き込む音がたくさん聞こえる。そこには若い大人が五人、子供が八人寝込んでいた。
見た感じ、中等度から重度の状態で非常に息苦しそうにしている。皆の額には濡れた布がかけられている。恐らく青年はここにいる全員の看病をしているに違いない。俺はふと疑問に思った。
なぜ彼だけが普通に動けているのか。そうこうしているうちに子供の一人の咳が酷くなり、軽い呼吸困難を起こしていた。
ど、ど、ど、どうしよう、今の俺に何が出来るか考える。あれ? 今のこの体は空気だから人工呼吸できるんじゃね?
そう思った俺は咳き込んでいる子供の頭の上まで移動した。まずは額に体を押し付け顎をあげて気道を確保できるか試してみる。
う~~~~~~ん、無理!!
どうやら体が軽すぎて押す力が足りないみたいだ。次に直接口に空気を送ってみる。
ふぅうううううう、うん、鼻から抜けてく! ですよね~。
なら口と鼻を体で塞いで、口に向かって空気を送ってみる。
ふぅううううううううう、やった!! 肺が膨らんで胸が上下に動いている。鼻から少し空気が抜けてるみたいだがなんとかいけてるみたいだ。
俺は子供の呼吸が安定するまで繰り返し行った。どれくらい時間が経っただろう、あまり時間が経ってはいないと思うんだが、子供の顔が見る見る良くなっていく。
なぜ人工呼吸をしているだけでこんなに症状が緩和していくんだろう? ただ、それに比例して疲労感みたいな感覚を覚えた。
こんな体になっても疲労感はあるんだなと思っていると、あれ? 俺の体少し小さくなってない⁉ そう思っていると、ふと扉が開き、青年が入ってきた。
青年は入ってきた瞬間、持っていた農機具をこっちに向けてきた。どうやら彼は俺のことが見えるらしい。それよりも驚いたことがある。
彼が喋った言葉だ。英語を喋っている⁉ 所々の単語は分からないが【Monster】の単語だけははっきりと分かった。
彼は農機具を震えながら構えて更に色々と喋っている。全ては分からないが英語を喋っているのだけは確実だ。
あ~~~、英語の専攻しとくんだった~~~。英語苦手なんだよ~~~と心の中でがっくりしていると、彼は農機具を構えながらこっちに走ってきた。
どうするっと思った瞬間、「Wait」と横から聞こえた。さっき助けた子供が止めてくれたのだ。まだ回復していないだろうに……。
子供はたどたどしい喋り方でどうやら助けてもらったのでやめてと訴えているみたいだった。所々分かる単語でなんとなくだが分かった。
子供のおかげで彼は農機具を置いて落ち着いてくれたみたいだ。そして子供はこっちを見て
「Help everyone」
と、他の皆も助けて欲しいと言ったあと、意識を失ってしまった。青年の方もどうやら俺に助けてほしい様な眼差しを向けてくる。
これはやるしかないか……。俺はその後、最初の子供にしたように残った子供から順番に人工呼吸をしていった。若い大人を含む全員が終わった頃には俺の体は半分くらいの大きさになっていた。
疲労感もすごい、体の動きも鈍くなった感じがする。これどうやったら回復するんだ? 今までこの体で眠気は感じなかったし、食事も出来ない。出来るとしたら空気を吸い込むくらいだ。
色々考えているところでどうやら若い大人たちが少しは起きれるくらいまで回復したみたいだ。しかし、青年に向かって若い大人たちが罵声を浴びせ始めた。
詳しい内容は分からないが、どうやら最初に症状が出たのが青年の彼みたいだ。それで納得がいった。
彼が一番最初に症状がでて回復したから彼だけ動けていたのだ。子供たちも見て見ぬふりで彼を助けようともしない。この疲労感の中、罵声を聞いてると更にどっと疲れてくる。
俺は家の壁の隙間から出て罵声の届かない外周にある馬小屋まで移動し、馬が寝ていたであろう藁床に休憩することにした。その頃には外はすっかり薄暗くなっていた。俺の今の心境みたいだ。
キャラ同士が喋れないとこんなに書くのが難しいなんて…。早く会話させてみたい。