燻製箱と竈の試運転
朝食が終わると、ラピスはレイを連れて出かけていった。恐らく、いつもの空き地に行って色々教えているに違いない。
リンは待ちきれないのか既に畑に行ってしまった。俺とマシロは鍋やフライパン、燻製に使う薪に鳥のハムや卵など、調理器具と食材を準備している。こっちはいそいそと支度しているのに、リンは畑から「ま~だ~?」などと時折叫んでいる。叫ぶくらいならこっちの手伝いをしてほしいものだ。いや、リンに任せると碌なことがない気がする。マシロは分かりきっているのか、リンに頼む様子を見たことがない。俺は溜息を吐きながら、準備の続きをした。
俺とマシロが畑に調理器具や食材を運び込んでいる最中、リンは飼育小屋の鳥達に適当に畑から取った野菜をあげていた。みーにゃにしろ、鳥にしろ、動物の世話はするんだよな。まあ、妖精には嫌がられているが、なんか憎めないんだよね。こういう天然っぽいところは、リンの個性かもしれないな。
「よっし、これで一通りの準備は出来たかな? 燻製には時間がかかるから、先に燻製箱の試運転から始めようか」
「うん。燻製に使う薪ってどうしたらいいの? このまま使うわけじゃないんでしょ?」
「あぁ、燃えやすいように指先くらいの大きさのチップにして、燃やすんだ。燃やした状態で燻製箱に入れると、箱の中の酸素がなくなって火が消える。そして煙で香と風味を出すんだ。俺も知識としては知ってるけど、やったことはないからどうなるかは楽しみだ」
「はいは~い、火ってどうやってつけるの? あとは酸素? がなくなるとなんで燃えなくなるの?」
リンが目を輝かせながら俺に質問をしてくるが、授業で習ったくらいの知識だからざっくりとしか教えられないんだよね。火のつけ方に関してはどうしようか、今日は曇っているからマシロに収れん現象を起こしてもらえないし、枯れ葉を砕いて火種に出来ないか試してみるか。
「リン、まずは先に火を起こせるか試してみようか。枯れ葉を集めて来てくれるか? 出来るだけ濡れてないのがいいな。握ったら粉々になるくらいの探しいて来てね」
「ラジャ! 取ってくるね~」
リンが元気よく返事をすると、枯れ葉を探しに森の中へ走っていった。おおぅ、リンが言うことを聞いた! 俺はマシロに視線を向けると、どうしてくれたのかというようなひきつった顔で見られた。あぁ、道草を食べたり、変なもの持ってきそうよね。マシロに「ごめんなさい」と謝っておく。
マシロはリンがいなくなった状況をポジティブに捉えたのか、「今のうちに準備しましょ」と言ってテキパキと準備を始めた。まずは燻製箱の中にある簀の子に鳥のハム、卵、畑で採れる適当な野菜を入れていく。畑は基本夜にしか行かなかったせいでよく見えていなかったが、色とりどりの野菜が見て取れる。元居た世界の野菜と似ているのもあるが、見たこともない野菜ばかりだった。燻製箱には紫色をしたトマトの様なものと真っ青な長芋の様なものが入っている。
次に竈の準備をする。まずは鍋を蔓で吊るし、長さを調節する。調節が終わると、鍋の下に薪を三角に立つように組み上げて、少し隙間を開けておく。この隙間に火種を入れて燃やすのだ。元居た世界では地面の上で直焼きをやってはダメだったが、こっちの世界では気にしなくてもいいだろう。
そういえば、リンに火の起こし方を見せてもいいのだろうか。マシロに聞いてみるか。
「マシロ。リンに火の起こし方がバレれると思うんだけど、大丈夫かな?」
「う~ん、畑周辺なら大丈夫じゃないかな? エンデにも聞いてみようか」
エンデにも聞いたみたところ、「何れバレることになるだろうから、早くても遅くても変わらないだろ。みなで気を付けるように」とのことだった。まあ、エンデの言う通りか。なるようになるしかないな。
次は火おこしの道具が必要だな。俺はマシロに樹魔法で薪を燻製用のチップ、火起こし用の木の板と木の棒を作ってもらう。そして木の板には凹みも入れてもらう。この凹みに落ち葉を入れ、木の棒で火を起こすのだ。
あー、火種を覆う、繊維質の植物が必要だったな。代用できそうなものはあるかな? マシロに繊維質の植物はないか聞いてみると、「これなんかいいんじゃない?」とある野菜を渡された。これ、色は赤いけどトウモロコシだ! トウモロコシの先端にはひげが大量にあった。よし、これを代用品にしよう。ついでにトウモロコシはあとでフライパンで焼きトウモロコシにしてやろう。ポップコーンが出来たらラッキーだ。俺は食べれないけど…。
俺はトウモロコシのひげで鳥の巣の様な器を作り、そこに火種を入れることにした。これで準備万端じゃない? そして良いタイミングでリンが戻ってきた。茸を山盛り抱えながら……。
「ただいま~、枯れ葉のついでに茸も取ってきたわ。すごいでしょ~、うふふ~ん」
「ありがとう、リン。でも茸はマシロかピナコに確認してもらわないといけないな」
マシロはリンが取ってきた茸を選別していく。
「リンお姉ちゃん、凄いね。珍しく全部食べれるものじゃない。えらいえらい」
どうやら、マシロでも分かる茸だったらしく、リンを褒め称えている。リンは鼻に人差し指を擦りながら、「私だってやるときはやるのよ」と胸を張っている。いや、これが普通だからね? 俺は口に出さずに心の中でそう思っておくことにした。
「大丈夫そうなら、茸も燻製にしてみるか。入りきらないのはスープにしたり、炒めたりしよう」
燻製箱に茸も追加して、いざ、火起こし。
まずは、木の板の凹みに枯れ葉を入れていく。そして木の棒を突き刺し、右手をミキサーの要領で高速回転させていく。ギュルギュルと音を立てながら、徐々に煙が出てきた。上手く摩擦熱が発生しているみたいだ。リンのテンションも上がっているのかピョンピョンと飛び跳ねている。俺はリンを無視して、右手の回転量を徐々に上げていく。そして真っ赤な火種が発生した。俺はすぐに火種をトウモロコシのひげに包み、腕を大きくブンブンと回す。すると、トウモロコシのひげがボワッと燃えた。
俺はすぐさま、燻製チップに火をつけて、燻製箱の下の引き出しに燻製チップを入れて引き出しを閉める。すると、燻製箱の隙間から煙が少しだけ洩れているみたいだが、これくらいの漏れ具合なら燻製は出来そうだ。あとは時間を置いて、中身の食材を取り出せばいい。
「ねぇねぇ、ソラ! 燻製はそれで終わりなの? なんで火が消えるの~教えて教えて~」
「じゃあ、分かる範囲で。魔素みたいに空気中に酸素っていう物質があって、火はそれがないと燃えないんだ。だから燻製箱の中にある酸素が燃えてなくなると火は燃えることが出来なくて消えるんだよ」
「う~ん、なんとなくわかった気がするわ。それより次は私にやらせなさい。ソラと同じ方法は出来ないわね。どうすればいい?」
「リンは俺みたいに手を回すことが出来ないから、こうやって手を交互に動かすと同時に少しずつ下に力を加えるんだ。試してみな」
リンにお手本を見せると、リンが「やってみるわ」と意気揚々に木の板の凹みに枯れ葉を入れていく。そして木の棒を突き刺し、手を交互に動かすと同時に下に力を加えていく。リンの身体能力が高いせいか、ギャリギャリと音を立てながら煙がモクモクと上がっていく。木の板が割れるんじゃないかとハラハラしながら見ていたが、俺より早くも火種が発生したことに驚いてしまった。
次にリンは火種をトウモロコシのひげで包み、腕を大きくブンブン回すと、あっけなく火が付いた。リンの付けた火は竈に設置した薪に放り込んでもらう。パチパチッと音を立てて薪が燃え始めた。これで適度に薪を追加すれば燃え続けるし、風の送り具合で火力も調節出来るだろう。俺はリンを褒めつつ注意をする。
「リン、すごいじゃないか。俺より早く火が付いたぞ。でもリン、火を使うときは気をつけろよ。ここ以外の場所ではやらないように」
「わかってるわ、ソラ。私だってそれくらいの分別はついてるわよ!」
火起こしは新鮮な体験だったのか、満面の笑みでブーブーと文句を垂れている。顔と口が合っていないことに笑いが堪えられず、盛大に笑ってしまったが、周りを見て見るとマシロもニコニコと笑っている。二人とも楽しめたようで何よりだ。
燻製箱は放置するとして、竈に火が付いた。鍋を使って調理開始だ。
俺はまず、鍋に植物油を引いていく。油が温まるまでに、畑で取れた野菜をマシロに一口大の大きさに切ってもらう。油がパチパチと湯気が出るくらいまでに温まったら、切った野菜を投入していく。そして野菜の表面に焦げ目がつくまで木べらで混ぜてもらう。その間にリンに水を汲んできてほしいとお願いしておく。
野菜の表面に焦げ目がついてきたら、マシロが「いい匂い」と呟いた。俺は嗅覚がないのでそう言ってもらえると助かる。リンに汲んできてもらった水を少しずつ入れながら野菜を混ぜ合わせていく。トマトみたいな野菜がドロドロに溶けたせいか、紫色のスープになってしまった…。見た目は魔法使いのお婆さんが大きな鍋でぐつぐつと何かを混ぜているような色合いだ。正直、食欲はそそられないと思っていたが、リンとマシロは涎が出るのを我慢した顔になっている。見た目は悪いが匂いは効果抜群のようだ。
「リン、マシロ。少し味見してみるか? 物足りないなら塩を足した方がいいかもしれないな」
リンとマシロは小皿に少し取り、味見をしていく。
「う~ん♪ 美味しい! 今までのスープと全然違うわ、毎日これを食べたいわ!」
「うん、美味しい! 野菜がこんなに甘くなるなんて不思議…。塩を入れてみたらどうなるか試してみたいね」
どうやら、大好評のようだ。俺は「あとは余熱で温めて塩を少しずつ入れてみようか、味見はマシロに頼んだ」と竈から鍋を外して、鍋の管理をマシロにお願いしておく。
俺はフライパンを用意して、フライパンに油を引いていく。そして竈の火を使ってフライパンを温めていく。次に卵を用意し、卵を割って黄身と白身をかき混ぜる。油から湯気が出てきたら、かき混ぜた卵をフライパンに落とし、へらでゆっくりとかき混ぜながらフライパンを軽く振って卵を丸めていく。これで半熟オムレツの完成だ。少し不格好になってしまったが、素人が作ったにしては上出来だと思う。ソラとマシロが初めてみたのか興味津々で「何それ?」と聞いてきた。
「これは卵を使った料理で、オムレツっていうんだ。触感は良いと思うんだけど、これだけだと淡泊な味だから、燻製した食材と一緒に食べるといいと思うよ、味見してみるか?」
「うん! するする~。マシロも一緒に食べよ」
リンとマシロはスプーンで一口ずつ味見をしていく。
「ん~♪ ふわふわ~、おもしろ~い」
「うん、面白いね。これだけだと味は物足りないけど、燻製した食材と一緒に食べたらいいかも知れないね」
オムレツの評価もまずまずだ。ケチャップとかあればいいんだろうけど、あの紫色のトマトみたいなので出来ないかな? でもケチャップなんて作ったことないし、今は無理か…。俺はオムレツを皿に移し、次はトウモロコシを焼いていく。
トウモロコシは表面をこんがり焼き目が付いたら、焼きトウモロコシの完成だ。ポップコーンは今回は見送ることにした。失敗したら固い粒々のコーンになるからだ。
「ソラ。それは炒めるとどうなるの? 美味しい?」
涎を我慢しながらリンが聞いてくる。俺は「元居た世界の野菜に似てるから焼くことで甘みが出て美味しいぞ」と言うと、リンは無造作に焼きトウモロコシを掴んで、「アチチチ」と直ぐに手を離している。このせっかちさんめ。見れば分かるだろうに。
「リン、端の芯のところを持つんだ、そうすれば熱くないから」
「わかったわ。こんな感じね。本当に熱くないわね。これなら持てそう」
リンは焼きトウモロコシが持てるな否やかぶりついていく。「ん~、あま~い」と唸っている。どうやら元居た世界のトウモロコシとあまり変わらないみたいだ。マシロも焼きトウモロコシを手に取り、「本当に甘いね~。今までは毟ってサラダに散りばめてたのに…」と新しい調理法に感激をしているみたいだった。
まあ、フライパンで作る料理はこれくらいでいいだろう。俺は次に燻製箱に視線を移す。
燻製箱の隙間から煙が上がらなくなってきている。良い頃合いだろうと思っていると、リンが「私があける! いいよね?」と燻製箱の前で体を大の字にして陣取りだした。俺とマシロに譲る気など更々ないみたいだ。俺とマシロは目を見合わせ、少し溜息を吐きながら、「開けていいよ」と許可をだす。
リンは勢いよく燻製箱を開けて、もろに煙を浴びて、顔が煤だらけになってしまった。いや、注意しなかった俺も悪いけど、勢いよく開けるリンも悪いんだからな。俺とマシロはクスクスと笑い合う。
燻製箱の中身を見て見ると、色の濃い野菜以外の食材は小麦色に燻製されているようだった。
「燻製が出来ているかは、味見してみないと分からないな。リン、マシロ。どれでもいいから味見してみてくれないか?」
リンは鶏のハムを、マシロは卵を取って、味見をしていく。卵はどうやら半熟になっているみたいだ。
「う~ん。いつものハムと全然違うわ。獣臭さがまったくないし、味にも深みが出てるみたい! これオムレツに絶対合う。早く他の燻製も食べてみたいわ」
「うわ。オムレツみたいに卵がトロットロ~。匂いも良いし、美味しい! 外にもキッチンを用意した方がいいかも知れないね」
どうやら上手く燻製出来てるみたいだ。三人で成功を祝っていると、ラピスとレイが帰ってきた。
「凄いいい香りがするわね。それが燻製? あたしも食べてみたいわ」
「僕も食べてみたい…。良い?」
俺達はピナコの分を取り分けて、昼食を取ることにした。
上手く燻製が出来たり、火を使った料理が出来ました。調味料が欲しいけど、作り方知らないと全然作れないです。




