未精霊達で実験
今日の出来事の余韻に浸っていたが、それで暇を潰せるわけはなかった。リンとマシロからは寝息が聞こえている。どうやら二人とも完全に寝てしまったようだ。ラピスとレイ、それにみーにゃも一緒に眠ったみたいだ。俺はやることがないので夜風に当たろうと、家の外に出た。外に出るとエンデに声をかけられた。
「ソラか。一人で遠くまで出歩く出ないぞ。ワシの目の届く範囲なら構わぬが…」
「やあ、エンデ。起きてたのか。夜風に当たりたいのと、家の周りを見回るだけだ。大丈夫。一人でどっか行ったりしないよ」
エンデは「そうか」と言ったあと、また眠ってしまった。エンデは良く寝ている印象だが、眠りが浅いのか、何かあると起きてしまうみたいだ。人間が高齢になると眠りが浅くなると聞いたことがあるが、どうやらトレントもそうらしい。俺は物音をあまり立てない様に、畑まで移動することにした。
畑に移動し、飼育小屋を確認してみると、黒い鳥と白い鳥が首を曲げて背中に頭を突っ込みながらスヤスヤと寝ていた。どうやらここの環境に慣れてきたみたいだ。捕まった当初はあんなにビクビク怯えていたのに。
飼育小屋を後にし、畑の脇にある切り株に腰を掛ける。一人だとやることがない…。どうしようか悩んでいたところ、ふと自分の体を見て見ると、体が少し大きくなっていることに気づいた。そういえば魔素を吸収して精魔石が大きくなれば、魔力も多くなるとか言ってた気がする。
俺は心を落ち着かせ、魔力探知を少しずつ広げてみた。魔素の流れを感じる。そして呼吸する度に魔素が少しずつだが体に吸収されていくのを感じる。この体で呼吸する必要があるのか疑問に思ったが、酸素を取り込むというよりは魔素を取り込んでいるんだと思う。息を吐くときは少し魔素が出ていっているな。人間の時の酸素みたいな感じかな? 確か全ての酸素を取り込めず、少しは酸素を吐き戻していたはずだ。
これ、呼吸を体全体で行い、吐くときに魔素の出ていく量が少なくなれば、もっと効率的に魔力が多くすることが出来そうだ。この体なら出来そうな気がする。俺は体全体で空気を取り込み、魔素が吸収できないか色々試してみた。結果、魔力探知の逆をすることで体全体から空気を取り込み、魔素を吸収することに成功した。そして息を吐くときは口からだけにして、魔素の排出を出来る限り抑える様にしてみる。すると、体内の魔力がドンドンと多くなっていくのを感じる。良し、このままドンドン魔力を多くしてみようとしたところ、エンデに止められた。
「ソラ。そんなに魔素を集めて、魔力を圧縮するのはやめなさい。そこの鳥達を見て見ろ。起きて怯えてしまっているじゃないか。魔素を集めすぎると周辺の魔素が減少して周りの迷惑になるのだ。やるなら影響の少ない空地などで行うことだが、お主を一人で行動させるわけにはいかん。ワシが見極めをしてやるから、周辺に影響が出ない範囲でやるように」
エンデにまた叱られてしまった。飼育小屋に視線を移すと、鳥たちが起きてブルブルと震えている。白い鳥の方は卵を生み出す始末だ。エンデの言う通り、怯えているようだ。魔素は人間で言うと酸素の様なもので、薄くなると息苦しくなるみたいだ。それに理由も分からずに魔力を圧縮して魔力を溜めている存在は、周りにしてみたら危険でしかないみたいだ。
「ごめん、エンデ。一人だとやることがないから、体を大きくするには魔力を多くしたらいいのかな~って思って、魔素を出来るだけ吸収出来ないか試してみたんだ。じゃあ、周りに影響が出ないくらいの見極めをお願いしてもいいか?」
「あぁ…。それと何かやるときはワシかマシロ、ラピスに聞きなさい。おちおち寝てもいられない」
魔法の一件以降、俺は危険人物に認定されてしまったようだ。たぶんだけど、リンと同じ扱いをされている気がする。エンデがこなれている感じがするのだ。
俺は先ほどの要領で魔素を吸収し、魔力を圧縮していく。そこから徐々に集める魔素と魔力の圧縮をエンデが良いと言うまで減らしていく。結果、最初の頃の1割程度に落ち着いた。どうやらかなり周辺の魔素を吸収していたみたいだ。怒られるわけだ。
エンデからは「ワシやマシロ、ラピスが良いと言うまでそれ以上は行わぬように」と念を押され、エンデはまたもや眠ってしまった。辺りを見回すと、徐々にだが、空が明るくなって来ている。俺は飼育小屋から卵を回収して、家に戻ることにした。
家に戻ってみると、リンとマシロ達はまだ寝ているみたいだった。可愛い寝息が聞こえてくる。俺は卵をキッチンの上に置き、脇にある井戸から水を汲み、未精霊達に水をあげようとした。そこでふと思った。この水に魔素を込めたら、未精霊達の自我が早く芽生えるのではないかと。でもさっきエンデに注意されたばっかだし、どうするか迷っていると、物音に気付いたのかリンが起きてきた。
「ソラ。おはよう。何やってるの?」
「未精霊達に水をあげようと思ったんだけど、この水の魔素の濃度を上げたら、未精霊達の自我が早く芽生えるんじゃないかと思ったんだよね。でもさっきエンデに何かするときはエンデかマシロ、ラピスに許可を取れって言われたんだ」
「へぇ~、それなら簡単じゃない。マシロ~、起きなさ~い」
リンはマシロの掛け布団を無造作に取り上げ、マシロとラピス、レイが目を擦りながらゆっくりと起きてきた。いや、簡単っていうか、無理やり起こしてるじゃん。少しは空気読めよ、と内心思ったが、言い出しっぺは俺だったので口には出せなかった。
「リンお姉ちゃん、おはよ~。何? もうお腹が空いたの?」
「リン、起こすならゆっくり起こしなさいっていつも言ってるでしょ。無理やり起こさないでよね!」
レイはリンになんて言ったらいいのか分からないみたいで、マシロの後ろからリンを覗いている。マシロが「こういう時は、おはようっていうんだよ」と教えると、レイが皆に向けて「おはよう」と挨拶をした。俺も「おはよう」と挨拶を返すと、リンがマシロ達を起こした経緯を話す。すると、ラピスは難色を示した。
「未精霊達が早く自我を芽生えるかも知れないけど、あなたの眷属みたいになる可能性があるわ。前例を聞いたことがないから、あたしはお勧めしないからね」
「ラピス、前例がないなら作ればいいじゃん! やってみましょう!」
リンはラピスの話を聞いて逆にやる気が出てしまったみたいだ。ラピスはしまったというように口に手を当てている。これはリンのわがままコースかな? もう決定事項になってる気がする。マシロも顔を顰め、諦めた顔になっている。レイだけは何が何だか分からず、戸惑っている。
「あたしは知らないわ。一応やるなら、エンデにも許可を取りなさいよね」
「分かったわ! エンデ~。やってもい~い~?」
家の中から盛大にエンデを呼んでいると、「わかった…。ただし、ソラ。責任を取って、未精霊達の面倒を見る様に、良いな?」と投げやりな返事が返ってきた。あれ? なんか俺に責任が擦り付けられてないか? リンは俺に期待の眼差しを向けて、早く早くとせがんでくる。もう後には引けないらしい。まあ、全員の許可は得たようなものだし、どうにでもなれ。
俺は水の中に魔素を放出するようにしながら指で混ぜていく。水の中に十分な魔素が行き渡ったみたいだ。ほんのり赤く染まっている。
未精霊達に水をかけると、今までとは比べ物にならないくらい食いつきが良かった。鯉や金魚が餌を食べるみたいに小さい口がパクパクと動いているのだ。正直見た目は良くない。集合体恐怖症の人は鳥肌か止まらなくなりそうだ。この体の俺でさえ寒気を覚えるのだから、相当だと思う。リンは平気みたいだが、マシロとラピス、レイは震えながら体を擦っている。どうやら集合体恐怖症はこちらの世界でもありそうだ。
「ねぇねぇ、ソラ。どんな感じ? 自我が芽生えそう?」
「う~ん。今までにないくらい食いつきがいいのは確かだけど、経過を見ないと分からないかな。ラピスはどう思う?」
「あたしに聞かれたって、精霊のことは良くわからないわ。様子を見守りましょう。」
未精霊達は経過を見ることになった。リンは何も起きなかったことにガッカリしながら、ベッドに戻り、みーにゃとじゃれ始めた。マシロはキッチンで朝食の準備を始め、ラピスはレイに今日の予定を立てている。どうやら、ラピスはレイに魔力のイロハを教えるみたいだ。俺はリンとマシロに今日の予定を聞いて空いてることを確認した。そして俺達は畑にある竈と燻製箱の試運転をすることにした。
未精霊達に魔素を多めにあげ始めました。ソラは暇が出来ると何かやらかしがちです。




