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まだ寝てる

 俺とマシロが家に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。


「ただいま~、今回は色々と交換出来たよ~」


「おかえり~、リンはまだ不貞寝しているわ。まあ、作り置きの料理はしっかり食べてたけどね」


 リンは相変わらず不貞寝を決め込んでいるらしい。俺はラピスに鉄製の万力を作ってもらう為に、木製の万力を渡したことを話したら、「しょうがないわね。また作ってあげるわ」と快く答えてくれた。でも、めんどくさそうな顔を隠しきれていない。リンのお守で少し疲れているようだ。

 マシロは棚の空いているスペースにベッドのシーツや衣類を入れたあと、夕食の準備を始める為、キッチンに向かっていった。俺は鍋とフライパンをキッチンにいるマシロに渡したら、日課となっている妖精の蛹が付いている花と未精霊に水をあげることにした。すると、妖精の蛹がもこもこと時折動いているのに気づいた。


「ラピス。妖精の蛹が動いてるんだけど、これ、生まれそうなのか?」


「見せて見なさい。本当に動いているわね。これなら今日中に生まれるかも知れないわ」


 それを聞いたのか、今まで不貞寝をしていたリンがベッドから飛び起きてきた。


「ホント! 私にも見せて見せて。生まれる瞬間をこの目で見て見たいわ!」


 さっきまで不貞寝をしていたのに、リンは興味のあることが起きると気分がリセットされるみたいだ。マシロはクスクスと笑いながら料理を続け、ラピスは額に手を当てて、「いつも通りのリンね」と呟いていた。

 リンは妖精の蛹の前に陣取り、妖精が生まれるのを見るために待ち続けるつもりみたいだ。椅子を持ってきて逆向きに座り、背もたれに腕と顔を乗せて、鼻歌を歌いだした。みーにゃもリンの頭の上まで移動して「んにゃ~んにゃ~」とリンの鼻歌に合わせて歌いだしている。これは妖精が生まれるまで梃子でも動かなそうだな。すると、カタカタと床の方から物音がする。音がする方へ視線を向けると、ピノコと目が合った。どうやらピノコも妖精が生まれる瞬間が気になっているらしい。俺と目が合っても気にせず、妖精の蛹に視線を移動させている。妖精が生まれる瞬間はかなり珍しいみたいだ。


「リンお姉ちゃん、もうすぐ夕食が出来るよ。椅子を直して食べよ」


「いや! 生まれる瞬間を見て見たいの!」


 マシロが夕食をテーブルに並べていくが、リンはテーブルで食べる気はなさそうだ。マシロも早々に諦めて、リンにサラダの入った皿とフォークを渡してあげている。リンは妖精の蛹を見ながらサラダを食べ進めていく。行儀は悪いが、まあ、リンだから仕方ない。

 今日の夕食はドレッシングのかかったサラダに、油で炒めた茸のステーキと鳥肉が入ったスープみたいだ。マシロとラピスは定位置で夕食を食べ進めていく。

 リンがサラダを食べ終わると、次は茸のステーキ、それが食べ終わると鳥肉の入ったスープをマシロが渡していく。夕食が終わる頃には妖精の蛹の動きが活発になってきた。もう少しで生まれそうだ。リンが地団太を踏んで、今か今かと待ちきれない様子でソワソワしている。マシロも気になっているのか、いつもより食器の片づけが早くなっている。ラピスは見たことがあるのか、興味なさそうにマシロの頭の上で覆いかぶさりながらのんびりと寛いでいる。

 パキパキパキと何かがひび割れていく音が部屋に響いてきた。どうやら、妖精が生まれるみたいだ。リンは興奮しているのか顔が赤く染まり、鼻息も荒くなっている。マシロも片づけが終わったのか、リンの隣に移動して、妖精の誕生を今か今かと心待ちにしている。

 モゾモゾと音がするなと思って振り返ると、そこにはおかっぱ頭の斑点模様の服装をした座敷童みたいな女の子がいた。これってもしかしてピナコか? 目だけしかみたことがなかったが、可愛らしい女の子の様な姿をしていた。人間でいうと幼稚園児くらいの背丈だと思う。


「ピナコで合ってるよな? 見たいなら持ち上げようか?」


「ふへぇ~、ありがとう…、よろしくね~…」


 俺はピナコを持ち上げ、肩の上に乗せて肩車してあげた。俺も生まれるのが見たいから肩車が一番だと思ったからだ。


「ピナコが地下から出てくるなんて珍しいわね。まあ、ソラが来るまではちょくちょく出て来てはマシロと遊んでたものね」


 人見知りのピナコは俺が来てからは上に上がってこなくなったらしいが、上がってきたということは少しは信頼されてきたってことなのかな? 料理関係でぐぐっと好感度があがったみたいだ。料理は偉大だな。そう思っているとリンが「生まれそう~生まれそう~」と叫び出した。

 俺は妖精の蛹に目を向けると、蛹のひび割れて、妖精がニュルンと出てきたところだった。妖精が蛹に捕まって羽を広げようとしているところをリンが掴もうとしてラピスにビンタされて止められた。


「馬鹿! 生まれたての時は羽が柔らかくて飛べないんだから触っちゃだめなの。羽が変な形になっちゃうわよ! 飛べるようになるまで待ってなさい!」


 蝉や蜻蛉みたいだな。いや、飛べる昆虫は基本的に蛹から孵った時は柔らかった気がする。どうやらピクシーもそうみたいだ。

 生まれたての妖精は羽を徐々に広げていく。髪の毛と羽の色は黒く、そして羽は油膜の様な虹色の光を放っていた。とても幻想的で神秘的な光景だった。そして妖精は飛び立ち、辺りを見回していると、一目散にマシロの胸に向かって飛びついていた。どうやら、マシロは気にいられたらしい。

 リンが妖精をおもむろに触ろうとすると、パチンッと手で振り払われた。リンを危険人物だと悟ったのか、明らかに怒った顔でリンを睨め付けている。リンはがっくりと肩を落としたが、明らかにリンが悪いよと、その場にいる全員が呆れた顔でリンを見つめていた。


「この子が喋れる様に、あたしが思考を送るわね。マシロ、優しく抱きかかえててね」


「うん、分かった」


 マシロが妖精を優しく抱きかかえながら頭をなでなでしているところを、ラピスが触れて思考を送りこむ。生まれた妖精はラピスと並んでみると一回り小さく見えた。傍から見たらラピスはお姉さんに見える。


「うわー、何これ~。お母さ~ん」


 妖精はどうやら喋れる様になったみたいだ。マシロの胸に顔を埋めながら泣き叫んでいる。マシロはお母さんと言われて恥ずかしいのか少し照れているみたいだ。でも嬉しそうに妖精の頭を撫でながら優しい顔をしている。

 どちらかというとお母さんはマシロじゃなくて、ラピスの方が合ってると思うんだけどな~と思って、ラピスに視線を向けると、ラピスはニヤニヤした顔でマシロと妖精を交互に見ていた。あ、これは思考を送る際に、故意にマシロのことを盛っているな。ラピスは新しく生まれた妖精までの面倒を見たくなかったんだろうなと俺は察した。


「マシロ、あなたがお母さん認定されたんだから、その子の名前はあなたが決めてあげなさい」


「え、私が決めるの! それでいいならいいけど…」


 マシロはリンに視線を向けるが、リンはいつの間にか、またベッドで不貞寝を始めてしまった。生まれた妖精に嫌われたことが相当堪えたらしい。いや、自業自得だけどね。生まれてすぐ掴もうとしてたし。


「そうね、じゃあ、この子の名前はレイよ。レイ、宜しくね」


「僕の名前はレイ? 有難う、お母さん。僕の名前はレイだよ!」


 レイはマシロにお礼を言いながら、マシロの周りを飛び回っている。そして指を指しながら「リン、ラピス、ソラ、ピナコ、みーにゃ、エンデ」とそれぞれの名前を確認している。


「んへぇ~。ソラ~。降ろして~」


 ピナコを降ろすと、ピナコはすぐさま地下に戻ってしまった。そしてマシロが眠そうに欠伸をしながら目を擦っている、ラピスとレイも欠伸をして眠そうな顔をしている。マシロがレイに「一緒に寝る?」と尋ねると、レイは「うん!」と返事をして、マシロとラピスと一緒にマシロのベッドで寝始めてしまった。

 一人になってしまった俺は、照明となっている茸に蓋をかけて部屋を暗くしてあげる。

今日はドワーフの村で色々交換したり、鍛冶の現場も見れた。そしてピナコ姿も見れたし、妖精の誕生も目の当たりにした。今日もたくさん良いことがあったな~と余韻に浸るのだった。

妖精が生まれました。そしてラピスの計らいで、マシロがお母さん認定されました。

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