竈を作ろう
アニソンを何曲か口ずさんでいたら、徐々に空が明るくなってきた。家の方から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
「ソラ~。どこにいるの~?」
どうやら、リンが起きたらしい。リンにはフェリーゼのことを伏せることにする。聞きつけたら、大騒ぎしそうだからだ。俺はフェリーゼの眷属にはなっているみたいだが、フェリーゼのいる方角何てわからない。会いたいと言われても出来ないのだ。俺は何事もなかったように家に戻ることにした。
「リン、そんなに大きな声で呼ばなくてもいいよ。マシロやラピスが起きちゃうでしょ?」
リンはキッチンの方へ顎で指す。マシロは既に起きていて、朝食の準備をしているところだった。マシロの頭には寝ぼけたラピスが垂れている。頭の上にぬいぐるみが乗っているみたいな状態だ。度し難い。俺は両手をニギニギして、羨ましさを我慢する。
「それと、リン。昨日ラピスと話し合ったんだけど、鳥の卵を探しに行くのは効率が悪いだろ? 雌の鳥を生け捕りにして飼育小屋で飼えば、いちいち探さなくても良くなるから、今度から生け捕るように」
「えぇ~。鳥の卵探しに行くの楽しいじゃない! それに雄と雌の区別なんて分からないわ」
リンは頬を膨らましながらぶつくさ言っている。鳥肉には余裕があるし、それに近くの鳥を乱獲すると、ドンドン遠出しないといけなくなる。リンに丁寧に説明しても話を聞くまい。俺はリンが納得するような提案をする。
「雄と雌は違う柄の鳥が多いから大半は区別がつくよ。それに魔力感知を使えば尚更だ。飼育する鳥に関しては、リンのペットにしてもいいってラピスとも話は付いている。言葉は通じ合わないけど、家族が増えて楽しくなるぞ」
リンは腕を組みながら悩んでいる。もう一押しいかな? 俺はペイっともう少し餌を投げてみる。
「鳥の種類によってはとても大きくなる。そうなれば乗ったり、足に捕まったりすれば空を飛べるかもしれないぞ?」
「そうなの! じゃあ、今度からちゃんと生け捕らないとね!」
どうやらリンはやる気になったようだ。ラピスとの昨日の話し合いで、今回はラピスが同行する。そうすれば、眠り魔法で、傷つけずに捕獲できるはずだ。そして、俺はマシロと初めての留守番だ。美少女エルフとの二人っきりに心が躍る。リンも見た目は可愛いんだけど、性格がアレなせいか。可愛いと思ったのは出会ったときだけだからね。
そう思っていると、マシロが「朝食が出来たよ~」とテーブルに食事を並べている。今回の朝食は鳥肉入りの野菜スープみたいだ。スープの上には油が浮いているのが見える。油や柑橘系の果汁が入っているのか、皆の食べるペースが速い。
「これ油を絡めて、野菜に火を入れてるのね。野菜の触感が変わって美味しいわ! あ、あたし鳥肉はいらないからね」
「じゃあ、も~らい! ん~、美味しい~!」
「リンお姉ちゃん取らないでよ。ラピスがいらなくても私のなんだからね!」
俺もこの輪に入ってみたいが、食べれないし、嗅覚もないから入れない…。いや、俺以外にもピナコは地下で食事を取っているはずだ。輪に入れない同士仲良くなれる時がくればいいな~。まあ、この光景が見れるだけ、俺の方が得な気がする。
俺は皆が食べている間に今日の予定を確認することにした。
「今日は、リンとラピスが鳥と卵の調達。俺とマシロは家の畑で火を使う竈や燻製箱、そして飼育小屋の作成だ。時間が余ったら料理の準備や油で洗剤を作ったりする。分かった?」
皆が「はーい」と返事をする頃には、食事はもう終わっていた。食べるのはやっ! これ食事の量増やした方がいいんじゃない? どうみてもリンとマシロは成長期だし、食材に余裕があったらマシロに進言しておくか。食材の管理はマシロがしてるだろうからね。
「じゃあ、行ってくるね。ラピス~、早く行くわよ~」
「待ちなさい、リン。いつも言ってるでしょ~」
いつものやり取りをしながら、リンとラピスは家を飛び出して、鳥と卵の調達へ行ってしまった。俺はそれを見届けたあと、マシロの方へ向き直る。
「じゃあ、俺たちは畑へ行こうか。ラピスに思考を読ませて作ることも考えたんだけど、ラピスには燻製箱と飼育小屋は作れても竈は作れないって言われたし、負担が大きすぎるって文句を言われたんだよね。マシロなら聞けば作れると思うって言ってたから、今回はマシロにお願いするね」
「うん、分かった。じゃあ、畑へ行きましょ」
俺とマシロは家を出て、裏にある畑に向かった。俺は地面に竈や燻製箱、飼育小屋の簡単な設計図を書いていく。竈は土属性が使えるマシロなら簡単に作れると思う。土をブロック状にしたら、あとは交互に重ねていくだけだからね。燻製箱や飼育小屋も箱に蓋を付ければ完成だから、出来るだろう。
ざっくりだけど、設計図が完成した! さっそくマシロに頼む。最初は竈用の土だ。それさえ作ってくれれば俺も手伝える。マシロは地面に手をついて魔力を集めていく。土魔法を使っているのだろう、ボコボコと地面が波立ってきた。そして徐々に波が落ち着き、長方形の形になっていく。畑の横に一面の長方形の形をしたブロック状の土が完成した。
「ソラ。これでいい? 量も足りそう?」
「あ、あぁ。これだけあれば十分だよ。次は燻製箱と飼育小屋をお願いね」
すごい…。ほとんどの属性が使えるだけのことはある。マシロは続いて燻製箱や飼育小屋にも取り掛かる。俺はその間に竈を作ることにした。
今回作る竈は簡単だ。コの字にブロックを積み重ねて、両脇に三本の木の棒を交差させて蔓で縛り、三脚の様に立てる。そして最後に鍋を吊るすための棒を三脚の上に設置すれば完成だ。ブロックは土のまんまだけど、火を使っている間にレンガみたいになるだろう。あとは火を仰ぐ団扇か火吹き棒がいるくらいか。
竈が完成したのでマシロの進捗を確認してみる。立派な燻製箱と飼育小屋が完成している。いやいや、設計図書いたけど、俺の知識は曖昧よ? 見たことはあっても作ったことないからね。そういえば、将棋でもマシロはめちゃくちゃ強かった。非常に頭が良いんだろう。俺は深く考えることをやめた。
「ねぇソラ。確認してみて? これで出来てるんだと思うんだけど」
「わかった。確認してみるね」
俺は完成した燻製箱と飼育小屋を確認する。燻製箱の下には燻製チップを入れる引き出しがあり、上の棚を開けると燻製する食材を置く簀の子がある。
飼育小屋はリンとマシロが入ってもまだ余裕のある十分な大きさになっている。でないと、リンが飛べるくらいの鳥は入らないからね。扉の外には閂が設置してあり、扉を閉めることが出来る様にもなっている。完璧じゃない? 俺は文句のつけようがなかった。
「マシロ。完璧だよ! あとは、使ってみてから試行錯誤しよう」
「ソラ、お疲れ様。じゃあ、私は昼食の準備をするね。準備が終わってもリンお姉ちゃんとラピスが戻ってこなかったら、油が取れる食材を取りにいきましょ」
「あぁ、そうだな。あと聞きたいことがあるんだけどいいか? 今の料理の量で足りているのか? 成長期なんだからもう少し多く食べてもいいと思うんだけど。まぁ、食材に余裕があれば、だけどね」
「う~ん。私は少し物足りなくなってきたかなー。リンお姉ちゃんはどうなんだろ? 食いしん坊だから足りてないかも? 帰ってみたら聞いてみるね。ソラはこの後どうするの?」
「油に余裕があるなら洗剤でも作るかな、その方がマシロもいいだろ?」
「うん! それで行きましょ」
俺とマシロは家に戻り、マシロはキッチンで昼食の準備を、俺はテーブルで万力を使いながら油を取りだす。搾りかすの種や実を細かく磨り潰しては粉末状にし、油にいれ、洗剤を大量に作った。これだけあれば食器だけでなく、頭や体を洗うことも出来るはずだ。
俺が洗剤を作り終る頃、マシロも昼食の準備が終わったようだ。昼食は朝のスープの残りに野菜炒めらしい。鳥肉の香草焼きを作って以降、火を躊躇なく使うようにしたみたいだ。
「ソラ。そんなに洗剤作ったら、油の取れる種と実がもうないんじゃない? リンお姉ちゃんとラピスもまだ帰ってこなそうだし、取りに行きましょう」
「そうだな。俺は取れる場所分からないからマシロ教えてくれよ」
「うん。わかった。では行きましょ」
俺とマシロは再度家をでて油が取れる種と実を探しに行くことにした。マシロは畑の方へ行き、畑にある食材から油の取れる種と実を教えてくれた。
「これとこれは油が取れる種と実がなるの。他の食材はあまり取れないからサラダにして食べているわ。畑で取れるのはこれくらいね。じゃあ次は、畑周辺にある植物を教えるね」
マシロは迷いなく森の中を進んでいく。なんかデートをしているみたいだ。そういえば、前の世界では誰とも付き合う前に死んでしまった。リンとではデートというより振り回されっぱなしでそんな雰囲気じゃなかったし、そんなこと考えてる暇もなかった。マシロとこういう感じは悪くないな。うん、悪くない!
「ソラ、聞いてる? ここにある植物も油が取れる種と実が取れるからね」
変なことを考えていたせいで、まったく聞いていなかった。
「ごめん、考え事してあんまり聞いてなかった。ここの青い花びらでトゲトゲがついてる植物だよね?」
「もう~、ソラ。しっかりしてよ~」
マシロはクスクス笑いながら注意してくれる。なんという飴! 鞭の無い飴がこんなに甘々だとは、また変なこと考えてしまうじゃないか! 俺は頭を左右にブンブンと回して邪念を振り払う。すると、マシロの耳がピクピクと上下に動いた。何かに気づいたらしい。俺は体全体の魔力を集め、魔力感知を強くしていく。何かが物凄い勢いでこっちに向かってくる音がする。そんな存在一人しか思いつかないが…。
「リンお姉ちゃんが帰ってくるね。私たちも家に帰りましょ」
マシロが家に向かって早歩きしていく。リンなら真っ先に走って帰っただろうに、マシロには余裕があり、落ち着きが見られる。リンにも見習ってほしいな~と思いながら、マシロと一緒に家に帰った。
家に着く頃には、リンの声が聞こえてきた。
「ソラ~、マシロ~。 でっかいの捕まえたわよ~!」
リンが両手に1羽ずつ大きな鳥を掴んでいる。大きさはマシロより少し小さいくらいの真っ黒い鳥と真っ白い鳥だった。色以外がほとんど同じなのでどっちかが雄でどっちかが雌なんだろう。ラピスは卵を抱えながらぜぇ~ぜぇ~と疲れ切った息を吐いている。卵を割らずにリンを追いかけてきたんだ。疲れるに決まっている。
「ねえ、ソラ。これどっちが雄でどっちが雌だと思う?」
「卵産むのが雌だからね。飼育小屋を板で分けて飼育すれば、どっちか卵を産むかで雄と雌の区別が出来るよ。ラピス、板くらいならお願いできる? 卵は俺がマヨネーズにしとくから」
「わかったわ。はい、卵。リン、飼育小屋に鳥を入れにいくわよ」
俺はラピスから卵を受け取った。ラピスは深い溜息を吐きながら畑にある飼育小屋に向かっていく。リンは鼻歌を歌いながらラピスについていく。相変わらず、すごい体力をしている。俺は昨日の要領でマヨネーズを作って、野菜炒めの上にマヨネーズをかけていく。これで更に美味しくなるはずだ。マシロは待ちきれないのか味見をしだした。頬に手をあて「美味しい~」と唸っている。マヨネーズ最高!
リンとラピスが戻ってきた。そしたら皆( 俺とピナコを除く)で昼食だ。リンは初めて見る野菜炒めに目を輝かせている。更にマヨネーズがかかっているんだから尚更だろう。傍から見ても涎が零れそうになってるのがわかる。ラピスも興味津々のようだ。基本は生か茹でてある野菜だから火で炒める野菜がどんな味になるのか想像もできないんだろう。二人とも我さきと食べ始めた。
「これも美味しい! 火で炒めるとこんな味になるの? すごいすごい!」
「本当に美味しいわね。これ生で食べるより全然甘いんだけど! どうなってるのよ」
「この世界ではどうかしらないけど、火を通すと甘くなる食材が前の世界にはあったから同じ原理だと思うよ。俺は教えてないからマシロの功績だね」
マシロを褒めると、マシロの真っ白なほっぺが紅色に染まっていく。どうやら照れているようだ。可愛い。リンとラピスからもすごいすごいと褒められている。
食事が終わったところ、リンに今の食事量が足りているかマシロの変わりに聞いてみることにした。
「リン。今の食事量で足りてる? 成長期なんだから食材に余裕があるなら食べた方がいいよ」
「全然、足りてないわよ。でもお腹一杯になるまで食べたらマシロが大変そうだから、黙っていたの」
リンはマシロに対してだけは、少しは甘いらしい。恥ずかしいのか両手の人差し指でモジモジしながら語っている。うぉ、ちょっとキュンとした! これはいわゆるギャップ萌えというやつか。マシロは「これからは倍量にするね」と嬉しそうに微笑みながら言っている。はうぁ、尊さが渋滞している。無意識に吐息が荒くなっていたのかラピスからは「ソラ。気持ち悪い」と言われてしまった。恥ずかしい。以後気を付けよう。
昼食が終わったあと、リンが帰りに見つけた茸が気になっていたらしく、再度出かけてしまった。嫌な予感がする。ラピスもそれを悟ったのか大急ぎでリンを追いかけていった。
俺はマシロに「ピナコにこのことを伝えて」とお願いした。リンは今度はどんな茸を見つけてくるのやら、俺とマシロは深い、深~い溜息を吐いた。
畑で竈と燻製箱、飼育箱を作りました。これで更に食の幅が広がります。茸を取りに行くリン、嫌な予感しかしない。




