第5話 お花畑へお花摘みに
「あお君…… 私もうダメかも……」
「みー、ダメだよ諦めたら」
何でこんな事になってるの? 楽しい休日だったのに。あお君とお出かけして、楽しい一日になるはずだったのに。楽しい楽しいデートのはずだったのに……
うう~…… 朝九時に起きて麦茶がぶ飲みして、おっきいマグカップでコーヒー二杯飲んで、シャワー浴びて又、一杯飲んで、十時に家を出てハンバーガー屋さんで朝のセットのコーヒー飲んで……
ああ…… 私は何でハンバーガー屋さんでトイレに行かなかったんだろう? 家を出掛けに行ったから大丈夫って思った私の失敗だよ。
あお君も同じ位飲んでたし、電車で一時間位なら大丈夫って思っちゃった私を過去に戻ってこんこんとお説教したい。
あーもう! 昨日の夜からあお君が泊まりに来て、前日の夜から楽しみだったのに。何でこうなるの?
電車で一時間の距離なんだよ。臨海アウトレットモールにあお君と行くの楽しみにしてたのに。時間も中途半端だったから朝ワックのセットしか食べてないのに。
理由は分かってるの、ほとんど食べずに水分取り過ぎたのが原因だよ。でもまさか電車が止まる何て思いもしなかった。
「みー、大丈夫?」
「あお君、私ダメかも……」
「だからワックでトイレ行っといたらって言ったのに……」
「おっしゃる通りです」
「朝起きて麦茶がぶ飲みして、コーヒーも三杯飲んだよね? で、ワックでもコーヒー飲んでたし、トイレに行って無いならそりゃそうなるよ」
「今更もう遅いってやつだね、ハハッ……」
電車に乗ったのが十時四十分頃で、現在十五時ちょっと。電車はもう四時間位止まっちゃってる。
何かの不調で止まってるらしいけど私にとってはそんな事どうでもいい。私にとって問題は尿意がアレで、大変な事になってるから。
「しかしツイてないね、まさか踏切事故と電圧器の複数箇所の故障と、総合指令室の機械の故障が重なるなんて」
「そうだね……」
うん、本当に勘弁して貰いたいよ、何で今日なの? 今日に限って何で止まるのかな? 止まるなら私の尿意を止めて。本当お願いします。
じゃないとあお君の前で粗相しちゃうよ。しかも良い歳して周りに大勢人が居る状況でお漏らししちゃうじゃない。この歳でそれは嫌だ~! しかもあお君の前で何て絶対嫌だ。
「ここもそうだけどネットでも無茶苦茶怒ってる人が多いね、又か? って」
うん、それには私も同意だ。しょっちゅう止まるよね、この会社の電車。
今この車内でも、電車会社に対しての不満を言ってる人は多い。昔から体質が変わらないとか、お役所仕事みたいだとかを言って居る。
私も同じ気持ちだけどもう一つ言いたい事がある。
何で電車にトイレが付いて無いの?
特急ならトイレ位付けといてよー
もうヤダ…… 何で休みの日にこんな目に合わないといけないの? 私、日頃の行いそんな悪くないよね? 何でなの~?
「ねえ、みー? 顔色悪くなって来てるけど…… 汗も出始めてない?」
「冷や汗かな? お腹減り過ぎた上にお手洗いに行きたさ限界ギリギリだから……」
「今日起きてから朝にワックでマフィン一個しか食べてないからね、俺もペコペコだよ。トイレは…… 頑張れとしか言えない」
「あっ あお君? もし、もし、もしね、もら…… 粗相しちゃったとしてもお願いだから嫌いにならないで。私、粗相してあお君に嫌われちゃったらもう生きて行けないよ」
「そんなので嫌いになったりしないよ、状況が状況だし。もう無理そう?」
「無理だけど頑張る。この歳でおもら…… 粗相したく無いし、頑張る。限界はとっくに突破しちゃってるけど頑張る」
良かった。良かったよ…… あお君は本当に天使だよ。何か安心しちゃった……
「はうん、やっやっ……」
「みー、どうしたの? 大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ、安心したら気が抜けて危ない所だったけど大丈夫。ダメだね、気を抜いたら危ないかも」
今のは本当に危なかった。安心した途端に気が抜けて、やらかしてしまうトコだったよ。
こりゃ一瞬たりとも気が抜けない。抜いた瞬間決壊しちゃうよ、ダメだ私! 気合い入れなきゃ。
それにしても…… 車内では皆イライラしてる。
そりゃそうだね、四時間以上止まってるんだし、不機嫌にもなるよ。
それに、下半身をモジモジさせてる人も結構居るなぁ……
皆トイレ我慢してるんだろうね、まぁ私もなんだけど。ん?・・・
「ねえあお君、あお君はお手洗い大丈夫?」
「俺? 俺もちょっと行きたいけど、まだ我慢出来るかな? でも行きたいって言えば行きたいかな」
「この電車に乗ってる人も行きたい人結構多いよね? なら動き出して駅に止まったらトイレ混むんじゃ……」
「・・・」
あお君、困った顔しないで~ そうだよねトイレ混むよね? それで無くとも女子トイレって混むのに、こんな状況なら間違いなく混むに決まってる。
ましてや全線止まってるし、動き出して駅に着いたとしても、他の電車からも人が降りるから絶対混むよね。
この電車だけでも結構な人が乗ってるのに、他の電車に乗ってる人達も一斉に駅でトイレに駆け込んだら……
アレ? これってかなり不味くない? 私もしかして粗相する運命なの? えっ? 嘘……
「みー、動き出したら次の駅で一旦降りよう」
「でもあお君、駅のトイレ多分間違いなく混んでると思うよ」
「だろうね。だから改札を出て外に行こう、そして飲食店に入ってそこでトイレに行こう。特急が停まる駅だから、周りもそこそこ栄えてると思う。飲食店や何かも多いはずだし、その方が確実だよ」
「臨海アウトレットモールまでここからなら、後三十分以上掛かっちゃうもんね。でもあお君、アウトレットモールの方がトイレ多くない?」
「うん、でも後三十分以上掛かるし、向こうも向こうでトイレは混んでる可能性も高いよ。休日は女子トイレ結構混んでるし。ただ向こうはトイレの数も多いし、トイレ自体も広くって、便座も多いから列待ちが多くても進みも早いね…… 賭けだね。次の駅で一旦降りて外に出るにしてもどれだけ時間が掛かるか分からないから、どっちが早くトイレに行けるかある意味危険な賭けかも」
やな賭けだなぁ…… 確実性を取るか、不確実でも早く行ける方に行くか。う~ん、決められないよ。
「みーが決めて。俺はどっちもどっちだと思うから」
「悩ましいね、でも先ずはこの電車が動き出さないと話しにならないんだよね」
「だね。この会社って電車から乗客を降ろして線路を歩かせる事はしないから、動き出すまでこのまま何だよね」
本当もうこの鉄道会社って…… 融通利かないなぁ。それにしても何時動き出すんだろ? 私、もうかなり厳しいんだけど。
「あっ、やっ、危ない……」
「みー、もしかしてやっちゃった?」
「ち 違うよ。この鉄道会社に対する怒りで意識が持って行かれそうになって、危なかったけど大丈夫だよ」
「うん、気持ちは分かるけど落ち着いて。折角我慢してるのにそんな事でやらかしちゃったら大変だ」
「本当そうだね、気をつける。それにしてもあお君。何でこんな事になってるんだろ? 本当ならとっくに着いてて、お昼ご飯食べて、少しブラブラしつつ買い物もして、それで今頃の時間ならコールドアイアンでアイス食べてる時間だったのに」
「本当そうだね。ツイて無いと言うか…… ねえ、みー? 何か喉渇いたけどみーは大丈夫? 喉渇いてない?」
「私も喉渇いてるけど、今水分取ったら多分粗相しちゃう」
もう、今日は何なの? ツイて無さ過ぎだよ本当。喉も渇いてるしお腹も減ってるよ。一口でも良いから何か飲みたいけど、その一口の水分が私の何かを決壊させる。
お漏らしは本当嫌だ。周りも色々我慢してるけど、まだ、そう、まだ誰も粗相して居ない。
子供ですら我慢してるのに、良い歳した大人が粗相は流石にダメだ。とは言うものの、私の限界はとっくに突破してる訳だけど、色んな意味で耐えなければ……
「みー、何か更に汗掻いてるけど」
「うん、直ぐ拭くね。冷や汗が止まらないけど大丈夫。そう、私は大丈夫……」
そうだ、私は大丈夫だ。自分に暗示を掛けよう、そうすれば耐えれる気がする。気を抜かない様に気を付けてそう思おう。
「ねえみー、何か俺も少し来てる気がする。今水分取ったら不味いかも」
「えっ? あお君も? 大丈夫?」
「まだ大丈夫。でも少し来はじめてるかも知れない」
今、十五時半かぁ。この車両に乗ってる男の人も明らかに我慢してるっぽい人も居るなぁ。
子供何か全身でモジモジさせて我慢してるし、これってそろそろ誰か決壊させるんじゃ……
こんなに混んでる電車でそうなったら酷い事になるんだろうなぁ。私は小さなお花を摘みたいけど、大きなお花を摘みたい人は更に地獄味わってるんだろうね。
いやまぁ私も他人事では無いんだけど、現に今苦しめられて地獄を味わってる訳だし、うん、これってあお君が隣に居てくれなかったら更に苦しかっただろうね。
そう考えたら、今の幸せを考えたら少しマシになって来た気がする。まだ持ちそうだよ。
「みー、俺の手を強く握ってるけど、もう我慢出来そうに無い?」
「あっ、ごめんねあお君、違うの。あお君が一緒に居てくれてるからまだ頑張れそうだって思って、痛かった?」
「大丈夫だよ。俺の手を握って我慢出来るならこれ位平気だよ、みー」
もう、何てカッコイイんだろ…… 優し過ぎるよあお君。うん、あお君が側に居てくれればまだ我慢出来る。だから冷や汗が止まらないけど、尿意が更にきつくなって来たのは気のせいだと思おう。尿意のビックウェーブが来てるけど気のせいだ。
本当に気のせいだったら良かったなぁ……