第4話 ぢごくの夜明けは甘露とお味噌汁で
「あー…… う~……」
「あっ、ゾンビだ、ゾンビが居る。みーがゾンビになっちゃった」
「ァ~~ う~……」
う~~ きぼぢわるい~ 飲み過ぎちゃった…… 二日酔いだよ、完全に二日酔いだ。
久々だなぁ、二日酔いになるまで飲んだのって。昨日はあお君とご飯食べに行ったけど、ホルモン焼きが美味し過ぎて飲み過ぎてしまった。
う~ あのホルモン焼き、串に刺してあるんだもん。珍しかったと言うのもあるけど、本当に美味しかった、うん、美味し過ぎたんだよね。
お酒が進む事進む事。本当に美味しかったし、しかも滅茶苦茶安かった。ビックリしちゃったよ。
「もうちょっとで味噌汁出来るから、飲んだら胃薬飲んだ方が良いよ」
「うん……」
「水もう一杯飲む?」
「うん…… 欲しいかも」
あー お水が美味しい。酔い醒めの水は甘露の味って言うけど正にそうだよ、身体に染み渡る気がする。
「大丈夫、みー?」
「うーん、大丈夫じゃ無いかも」
「もー だから言ったのに、あんだけ飲んだらそうなるよ」
「あ~…… う~…… 言葉もありません、ゴメンねあお君」
「もう、帰りも大変だったんだよ。家に帰らずにお泊まりしようって言って」
そう言えば私、そんな事言ってゴネてた気が……
「ゴメンあお君…… 奢って貰った上に…… 家まで連れて帰るの大変だったでしょ?」
「奢るのは別に良いよ。ただ、乗り換えの時が大変だったし、駅から家まで連れて帰るのが大変だったよ。今にして思えば俺の家の方が近かったから、俺ん家に帰れば良かったんだけどね」
そう言えばあそこからなら私の家より、あお君の家の方が近いね。うー 確か駅から家まで私って、あお君におんぶして貰って帰って来たんだよね? もう本当ゴメンだよ。
「私、あお君におんぶされて帰って来たんだよね? 重かったでしょ? ありがとうあお君」
「みーは軽いからそこは大丈夫だったけど、俺も結構飲んだから、ちょっとだけきつかったかな」
「ゴメンねあお君、本当ありがとう。何て言うか…… オェ…… う~~~ 気持ち悪い……」
「良いよ良いよ。それより味噌汁飲みなよ、きついだろうけど味噌汁飲めばマシになるし、無理してでも少しお腹に入れた方が良いと思うよ」
「うん…… 飲む……」
う~ あお君の優しさが染みる。あぁ…… お味噌汁の良い匂いが…… 私の為に作ってくれたんだね。あぁ…… 幸せの香りだよ。
「はい、具はスライサーで細かくしたから飲みやすいと思う。うん、良い感じに溶けてるね。食べやすいと思うから、これなら大丈夫と思う。玉ねぎと大根、それと絹ごし豆腐を細かく賽の目に切ったの入れたから」
「うん、ありがとうあお君」
玉ねぎと大根をスライサーでカットしてくれる何て、手間掛かっただろうなぁ。あっ、大根は縦に幾つか切目入れてからスライスしてくれたんだ。箸で摘まむとポロポロ崩れるけど食べやすい。
玉ねぎも溶けかけで食べやすいや。豆腐も小さく切ってあるから食べやすい。それにお出汁が利いてて美味しい。
何時もより味を濃くしてくれたんだ。う~ 美味しいよぉ、これならお腹に入れても負担が少ないし、何より口に出来る。
普通はこれだけ気持ち悪いと、口にするのは無理なのに、これなら大丈夫だ。
「お風呂も沸かしたから、食べたら入った方が良いよ。辛いだろうけど入る前にもう一回水飲んで入れば、汗かいて少し楽になると思うし」
「うん、そうする」
ん? アレ? 私着替えてるよね? と言うか昨日お風呂入って無いよね? ヒェ~ そのまま寝ちゃったんだ。昨日のあの状態なら当たり前だけど、何か嫌だなぁ。あお君ゴメンなさい、汚い女でゴメンなさい。
う~…… パジャマに着替えてるし、コレもあお君が着替えさせてくれたんだろうなぁ。
大変だっただろうなぁ。と言うかリアル着せ替え人形だったんだ私。うん、あお君に身体を見られたからってどうって事は無い、いや、身体とか以前にあの醜態を見られた事が問題なんだけど。
ダメだ。身体を見られたのは今更だけど、恥じらいを忘れたらダメだね。
「みー もう一杯飲む?」
「うーん…… 正直、一杯で大丈夫だけど、飲んだらちょっと楽になったからもう一杯飲む。だけど具は少なめが良いかも」
「うん、分かった、入れてくるよ」
あお君の優しさと思いやりが身体に染み渡るよ~ 天使だ、天使が居る。この二日酔い地獄に天使が居る~ 本当、夢じゃ無いよね? 夢なら永遠に醒めたくないよ。
「みー? 昼ご飯どうする? 食べられるなら味噌汁にそうめん入れてにゅうめんにするけど?」
「うーん、今はまだ分からないかな。気持ち悪さが抜けないと無理かも」
「あー…… だよね。味噌汁は多めに作ったから、何なら味噌汁だけ飲んでも良いし」
「うん、何かお腹に入れないと余計辛くなるから。ねえあお君、あお君は二日酔い大丈夫なの?」
「俺? 俺は大丈夫。確かに昨日は何時もよりは飲んだけど、寝たら酒は抜けちゃった。それよりみーは酒弱い訳でも無いのにかなり辛そう。どれだけ酒に強くても、やっぱ飲む量って限度越えたらそうなっちゃうよね」
おっしゃる通りです、はい、あお君は笑って居る。苦笑してる。責め立てられてる訳じゃ無いけど、私ってば良い歳してあんなベロベロになるまで飲んじゃうなんて……
醜態だよ醜態。気を付けないといけないなぁ、こんなんだと私、あお君に呆れられちゃうよ。
「みー 無理なら残して良いからね」
「大丈夫だよ、この位の量なら飲めるから、それに美味しいから」
とは言えお腹がタプタプになり始めて来たかも。お風呂に入る前にお水飲めるかなぁ? うん、水は無理しても飲もう。その方が汗かいて楽になるしね。
「みーがお風呂に入ってる間にベッドのシーツも洗濯しとくから、それと服とかも洗っとくからゆっくり入ってね」
「ありがとう、何から何までしてくれて……」
「別に良いよその位」
私のあお君が素敵過ぎるんですけど~ 嗚呼ありがたや、ありがたや。お言葉に甘えてゆっくり入らせて貰おう。
「ふう~ 気持ち良い」
とは言え気持ち悪さは当然あるけど、お風呂に入ったらちょっとだけマシになった気がする。
それにしても昨日は調子に乗って飲み過ぎちゃったな。美味しかったとは言え、日本酒を飲み過ぎた。
ホルモン焼きに日本酒って合うんだなぁ。アブラも美味しかったし、ビールも進んだもんね。
アブラは旨味の塊って言うけど本当だよ。ハラミ焼きも美味しかったし、あの店は当たりだね。
安かったけどあれだけ飲み食いしたら結構な料金になっただろうなぁ…… 最近あお君にごちそうになってる割合が増えて来てるから、今度私がごちそうしなきゃ。
うん、それにしても昨日は帰り道であお君に迷惑掛けちゃったな…… 微かに覚えてる部分だけでもあお君に結構手間掛けさせちゃったよ……
結構ベタベタくっ付いて、大きな声出してた記憶がある訳だけど……
『私~ 大月美月はぁ~ 新高~ 蒼君がぁ~ だいちゅきれ~す。私の~ 彼氏のぉ~ あお君がぁ大大大好きなのれ~す♪ ウヘヘ…… あお君~ ちゅ~しょ♪』
「・・・」
ヒェ~ あんな人通りの多い所で…… 世間の皆様が居らっしゃる所で私ってば……
いやまぁ、あお君の事は本当に好きだし、それについては間違い無いんだけど、流石にあんな大きな声で、しかもあんな街中でアレは無いわ。知り合いに見られてたら何て言われるか……
と言うか私、あお君におんぶされてる時、あお君のほっぺにチューしてたよね? うん、してたわ。
しかも高速チューしてた様な気が……
チュチュチュチュチュチュ。チュ~~~ チュポンってした記憶が……
ほっぺに高速チューして、最後吸い付いてたよね? チュポンって音が出る程してた様な記憶が微かにだけどあるんだけど……
ヒェ~ ゴメンねあお君、鬱血するんじゃないかって程チユー、いや、吸い付いてゴメンなさい。高速チューしてゴメンなさい。
うぅ~ 酔っぱらった私をおんぶして、そんな事されたら大変だっただろうなぁ……
あお君ゴメンなさい。はしたない女でゴメンなさい。酔っぱらってあんなにはしゃいじゃってゴメンなさい。
う~ しかも朝っぱらからゾンビになっちゃってるし…… ん? 私、あお君に着替えさせてもらって、パジャマに着替えてたけど、化粧は落として無かったよね?
ちょっと待って! 化粧を落とす以前の問題として、化粧がかなり崩れてたんだけど……
しかもしかも、飲み過ぎて顔もパンパンになって、目も腫れてたよね?
「・・・」
うわ~~ うわ~~ ウヒャ~~~ あうう……
あお君は何も言わなかったけど、私のその顔を見てたんだよね? と言うか見られてるよね?
もう、もうもう! 只でさえ地味女なのに、パッとしない顔なのに、そんな姿を見られて、いや、晒して……
私ってば今気付く何て本当…… うう…… お酒は考えて飲もう、うん、気を付けて飲もう。
酒は飲んでも飲まれるな、か。昔の人はそう言ってたけど、ちゃんと意味があるんだなぁ。
うっわ~ 思い出したら何かあお君と顔合わせづらくなって来たよ。うん、多分、いや、間違い無くあお君は何も言わないだろうけど……
それ以前の問題として顔の腫れ、特に目の腫れを少しでもマシにしなきゃ。お風呂に入る前に無理して水を多めに飲んだから、脱水症状にならないとは思うけど、少し長めに入っておこう。
吐きそうになる程に水を飲んだけど、結果オーライだね。とは言え身体にお酒が残ってるから限度はある。その辺りも気を付けながら浸かろう。
最悪水道水を飲むと言う手もあるけど、無理はしない様にしなければ。うん、お風呂でのぼせたりしたら、二日連続で醜態を晒す事になっちゃう。
「みー 結構入ってたね、何か飲む?」
「うん、気持ちよ過ぎて」
あお君が言う様に確かに少し長過ぎたかも。お風呂から上がる前に鏡を見たけど、結局顔の腫れがマシになるまで入っちゃったよ。
勿論お風呂が気持ち良かったってのもあるけど、ぬるくなってあんまり苦に感じなかったんだよね。
それで腫れが引くまでって思ってついつい長くなっちゃった。
「どうするみー? トマトジュースにする? それともスポドリにする?」
「あー トマトジュースにする」
「ん、持って来るね」
あお君が本当に優しい件について。
私は何て幸せなんだろう。うん、二日酔いでまだしんどいけど、あお君が私の側に居てくれるから、私は幸せだ。
教訓、お酒は考えて飲もう。