第2話 クイーン・ビーと地味女
「ねえお兄さんってば~」
「だから無理です。大体俺の方が年上だと思いますよ」
「えー 年幾つ?」
「関係無いですよね? さっきから言ってるけど俺、彼女居るし、今彼女と待ち合わせなんで」
「えー 良いじゃん~ 私と~ 一緒に飲もうよ」
「だから…… はぁ…… あんまりしつこいと大声出しますよ」
「えっ、何それ? ウケる~」
父上様、母上様、私美月は今、物陰…… 柱の陰からあお君が逆ナンされて居るのを見ております。
嗚呼…… 我ながら情けない…… あお君が彼女と待ち合わせって言ってるんだから、ここから出て行き、あお君の前に行けばそれで済む話なのに……
でも出て行く勇気がありません。だってあの人無茶苦茶美人なんだもん。
それに私みたいな地味な冴えない女が出て行けば、あお君が恥を掻くのではなんて思ってしまって…… うーん、そんな事言ったらあお君に叱られちゃう。
と言うかあお君が付いて行かないか、そしてあの人に揺らぐんじゃないかって思ったり…… あーもう! 自分自身のこの自信の無さが情けない。
あお君は筋金入りの地味女好きなのを分かって居るのに、もしかしてとか、実はとか、そんな後ろ向きな事を考えてしまう。
あお君が私を好きで居てくれてるのに、私ってば本当、自分に自信が持てない。
今の状況って何か私、あお君のストーカーみたいだよ。
「俺はちっとも笑えないんですけどね。裁判所の判例で、女が男に対する痴漢だとか、しつこく言い寄るって事案について、女性側に非あり、つまり迷惑行為が認められたって事があるんだけど。本当、迷惑なんで止めて貰って良いですかね。彼女に見られて誤解されたら困るんですけど」
「えー ちょっと位良いじゃん」
「ダメです、迷惑です、いい加減にして下さい」
「もう…… 分かった。ならコレ」
「何ですか?」
「私のスマホの。連絡先渡すのなら、コレなら良いでしょ?」
「ダメに決まってるでしょ、無理です、彼女の事が大事なんで、誤解を招く様な事はしたくありません」
「あーあ、固いなぁ。良い男なのに勿体無い。仕方ない、又今度ね~」
「今度もありません、二度と会わない事を神に祈ります」
「何それ~ ウケる~ まぁいいわ、じゃあねー」
あ~~ あお君が私の事を大事って言ってくれた。幸せ過ぎるんだけど~ トキメキが止まらない、おっと! さぁあお君の元に行こう。ん? アレ?
「お兄さんもしかして待ち合わせかな?」
「そうですけど」
「んー…… なら、私とご飯食べない? 美味しいお店知ってるの。トルコ料理なんだけどね、どうかな?」
「結構です、待ち合わせだし、今彼女を待って居るし、今が待ち合わせじゃ無くっても、彼女を裏切る様な事したくないんで」
「一途だなぁ。良いなぁ、益々君と一緒に食事したいなぁ。どうかな? 今とは言わないけど、後日にでも? 当然私がご馳走するけど」
「無理です、彼女が大事なんで、彼女を悲しませる様な事はしたくないです、ごめんなさい」
「ありゃりゃ、そっかぁ、そうなるよね。良いなぁ彼女さん大事にされてて、羨ましいよ。彼女さん凄い美人さんなんだろうね」
「当然です、世界一美人だし可愛いです」
ヒェ~ ごめんない ごめんなさい。地味でごめんなさい、世間的には美人じゃ無いのにごめんなさい。あお君だけです、そんな事言ってくれるのは。
と言うかあお君、ハードル上げるの止めて~ 益々出て行きにくくなっちゃう。多分今あお君の言葉を聞いた人達は、私の事を絶世の美女だって思ってる。
ごめんなさい、只の地味な女です、ザ地味女なんです。て…… どうしょう? 私、出て行ったら、世間の皆様が失笑しそうなんだけど……
「そっかぁ、ごめんね、声掛けちゃって」
「良いとは言いませんが貴女は常識的な方なんでまぁ…… とは言え彼女に誤解されたくないんでごめんなさい」
「うん、彼女さんと楽しんでね、それじゃあねお兄さん」
うー…… 今の人も美人だったなぁ、清楚系の美人だった、無茶苦茶美人だった。あお君は見向きもしなかったけど、普通は付いて行っちゃうよ。
それにしてもこの短時間で二人に逆ナンされるとは何と言うか…… しかも二人共、無茶苦茶美人だった。
待ち合わせを駅にしたのは間違いだったかな? あお君が少し嫌がってたけど、理由は逆ナンかな? でもここで待ち合わせが一番近いんだよねえ。それに分かりやすいし、あお君も行く店の事を考えたらここが一番近いし、行くのに便利だからって言ってたけど…… あっ!
「ねえねえ、どこの店の人?」
「はぁ?」
「えっ、ホストかボーイズバーの人じゃないの?」
「違いますけど」
「そうなんだぁ、ねえ、ならさぁ、飲みに行かね? 遊びに行こーよ」
「無理です、今彼女と待ち合わせしてるし、待ち合わせで無かったとしても、彼女居るから行かないし、行く気が無いんで」
「なら~ 明日とかどう?」
「さっき彼女居るって言ったよね?」
「別に良いっしょ。ウチ気にしないし」
「いや、俺が気にするんだけど」
「大丈夫っしょ! ウチ上手いよ」
「無理、行かないし、行く気が全く無いんで無理です」
「ウチさぁ、本当上手いし、楽しいよ」
「無理です、ごめんなさい」
「えー ウチ本当に上手いのに~ 分かったよ又ね~」
えっ、えっ? 何が上手いの? ねえ何が上手いの? ぎゃ 逆ナンってだけじゃ無く、お持ち帰り希望? テイクアウトなの? ヒャ~ 肉食過ぎるでしょう。最近の若い子って凄いなぁ……
うわー この考えって我ながらおばさんっぽい思考だなぁ。でも最初からお持ち帰り希望を伝えるのってどうなの? 順番すっ飛ばし所じゃないよ。
ヒッ! 携帯鳴ってる。
『もしもし、みー?』
「ごめんねあお君、直ぐ行くから、本当ごめんね」
と言うか直ぐ側に居ます、距離にして約十メートル以内に居ます。
『あー それは良いよ、仕事終わりの待ち合わせだもん、仕方ないよ』
いえ、確かにそうだけど、半分合ってるけど、出るに出れなかったの、出て行きづらいの。
「い 急いで行くから」
『あー うん。みー あのね、待ち合わせ場所変更したいんだ』
「えっ? 変更?」
『うん、本屋の前の巨大ビジョンの前じゃ無くて、繁華街の出口側に交番があるでしょ? あそこにしよう』
「あー あそこかぁ、うん分かった」
『ごめんね、みー。何かさっきから結構声掛けられて面倒だし、鬱陶しいんだ』
「えーっと…… もしかして逆ナンされちゃったりとかした?」
『そうなんだ、だから交番の前に待ち合わせ変更したいんだ。良いかな?』
「それは勿論」
あお君ちゃんと言ってくれた。
一瞬だけど、逆ナンされた事を黙ってるかなぁって思ってしまったけど、ちゃんと言ってくれた。
ダメだなぁ私って…… あお君の事を信じないといけないのに。私が自分自身に自信が無いからって、自虐的になって勝手に陰に籠っちゃって、結果的にであってもあお君を信じきれてない何て本当に私はバカだよ……
これじゃあ私、あお君を信じてる何て言っても説得力無いよ…… あお君は私の事を本当に想ってくれてて、それで私の事を好きで居てくれて、私を大事に想ってくれて居るのに。
ダメなのは冴えない地味な私じゃ無くって、自虐的で自分自身に自信が無い私の心だよ。
ダメだなぁ、本当、少しずつでも改めて行かないといけないな。ん?
「道は教えましたよね? まだ何かあるんですか?」
「そ そ そ その~」
げえ…… 少し考え事してる間に又あお君声掛けられてる~ 凄いな本当。でも道を聞かれて教えてあげただけみたいだけど、うん、それは問題無い。問題は道を聞いたのが地味な女って事。
私と同じ地味な人だ。しかもメガネ装着、メガネ装備の地味な女の人…… あお君が好きそうな地味な女の人だよ。
で、でも私の方が地味だもん。うん、自分で言ってて虚しくなって来た。地味勝負って何の勝負なの? 私は地味マウントを取りたいのかな?
ち ちょっとだけ気になるかな? 地味な女の人相手にあお君がどう言う反応をするのか、少~し気になる。
うん、これは信じてないとかでは無くて、興味と言うか、素朴な疑問と言うか。
言い訳だよね、でもあお君の反応が気になるのは本当だもん。だってあの子地味なんだもん。
ごめんなさい、ごめんなさい。私ダメな女です。
「まだ何か? 教えた道順が分かりにくかったですか?」
「いえ、その~…… お お一人ですよね? もし良かったら、少しお話とか何て思ったんですけど…… よ よ 良かったら、パフェでも食べながらお話出来たらなぁって、その~……」
ナンパだよ、逆ナンだよ。あの子凄い…… 逆ナン出来る何て……
そんな積極性が合ったら彼氏出来るよ。同じ地味でも私はそんな根性無い、だから私のあお君をナンパするのは止めて~
「あー…… 今彼女と待ち合わせで、待ち合わせじゃ無かったとしても、行くつもりは無いので、なのでごめんなさい。彼女を悲しませる様な事はしたく無いから」
「いえ、その…… 私みたいな女が厚かましくも誘っちゃってすいません。本当、普段こんな事しないのに……」
「美人のお誘いは嬉しいけど、彼女が居るし、彼女を裏切る様な事をしたく無いから、だからごめんね」
「えっ? 美人?」
「うん、美人さんのお誘いは嬉しいけど、彼女居るからごめんなさい」
あっ…… ダメだこりゃ。あお君はその気が無くっても相手の子が勘違いする。
「あ あお君ごめんね遅くなっちゃって」
うん、もう周りの目とか気にしてられない。私が絶世の美女って思われてるとかそんなの気にしてられないし、気にしたらダメだ。
だってあの子あお君の言葉に呆然としてる。多分嘘偽りの無い本当の事だって、あお君が本当の事を言ってるって分かっちゃってる。
「あっ、みー」
「いや~ 改札側から急いで来たらあお君が居て。どうしたの? その人あお君の知り合い?」
「違うよ、道を聞かれたんだ、それと…… その話は後でするよ」
「そっ、そうなんだ。じゃあ行こうか時間も時間だし、丁度夕食の時間だから混むだろうし、待ち時間が長くなっちゃう」
「そうだね、あの店って予約受け付けて無いから、結構並ばないといけないもんね。じゃあ俺達行きますんで」
「あっあっ……」
同士よ、ごめんね。あお君は私の彼氏だから、誰にも渡したく無い、私の大事な彼氏だから。
大丈夫だよ、私みたいな地味な女でも、あお君みたいな彼氏が出来る奇跡がこの世にはあるんだから。
世の中捨てた物じゃ無いよ。それに逆ナン出来る積極性と根性があれば彼氏は出来ると思う。
「みー どうしたの?」
「何でも無いよあお君。ねえ、手繋ご」
「うん、と言うか言わなくても繋いだのに」
「声に出して言いたい時もあるよ」
「分かった、そんな時もあるか」
うん、本当、世の中捨てた物じゃ無いし、何より生きて居れば良い事もある。
私は幸せだ。