第1話 私とあお君
この作品は気分転換の為に書いており、更新速度はかなり遅くなります。
私は地味だ。
どれ位地味かと言うと、地味中の地味、モブオブモブ、地味コンテストがあれば最優秀賞を頂ける位に地味だ。
私の昔のアダ名は地味メガネ、当然好意的なアダ名では無い。あっ! メガネってあだ名もある。そう、ただのメガネ、地味と言う言葉すら入らないアダ名。
でもこちらのあだ名、メガネってあだ名は悪意無く言われて居たあだ名? だ。
当然今も地味で、コンビニ何かでは店員に地味メガネって言われているかも知れない。
高校からはその様な言われ方はしなくなって、普通に美月って言われる様になった。
私の名前は大月美月、名前に二つも月が入っている。それなのにあだ名がメガネに地味メガネ……
名前は地味では無いが、私自体が地味な為、完全に名前負けしている。
歳は三十二才、身長は平均身長の一六十センチ、体重は四十六キロ、スリーサイズは胸以外は自慢出来ると思う。そう、胸以外は……
それでも人並みにあるとは思う。多分あるはず。いや、そうであって欲しい。
一応はギリギリBはあるし、形も良いと言ってくれてるし、大きさも平均位はあるって言ってくれてるから、多分平均のはず。もう三十を越えてあまり関係無いって言われたらそれまでだが、あれば嬉しいし、何より言ってくれたら嬉しいものは嬉しい。それが私を贔屓して言ってくれて居たとしても嬉しい。
彼氏である蒼君がそう言ってくれてるから、例え世間の皆様に貧乳と言われても私は気にしないし、気にならない。
私の彼氏の蒼君は二十五才の七つ年下の彼氏で、かなりのイケメンだ。私の贔屓目では無く、本当にカッコ良い。何故私を好きになってくれたのか分からない位に顔が整っている。
あお君は可愛い。そう、私のあお君はカッコ良いし可愛い。それは生まれて此の方、彼氏居ない歴=年齢の私に何故あお君の様な彼氏が? と、言われるだろう。
正直最初は詐欺を疑った。絵画を買わされるか、変なツボを買わされるか、怪しい宝石を買わされるか、高額な英会話教材一式の購入契約をさせられるのか、私はそう思って居た。
あお君に言わせると、『出会いからして流石にそれは無いでしょう』との事らしいが、私は真剣にそう思って居た。
初めてあお君に会った時、あお君を一瞬女の子かと思った位に可愛い整った顔をして居たし、何より当時のあお君は髪が長く、後ろで髪を括って居たと言うのもある。
あお君の背の高さもあり、モデルさんかと一瞬思ってしまった位に可愛いかったし、今でも色んな意味で可愛い。
だけど筋肉質な事もあり、所謂細マッチョなので女の人では無いと気付いた。
あお君は身長が一七八センチと背が高く、中々体つきも良く、一緒に街を歩いて居ると他の人に良く見られる。
二度見どころか三度見してくる人も結構居
る。
そんな素敵なあお君が私と? 詐欺を疑うの当然だ。
私とあお君は不釣り合いだって私だって分かって居る。そんな簡単な事も分からない訳が無いし、私はお花畑な頭では無いのだから。
私達は、いや、私は地味で冴えない。
そして一緒に歩いて居る私を見て、あお君と私を二度三度と見比べる人も多く、最初の頃は慣れなかった。でも今はもう慣れた。私も何と言うか慣れと言うのは恐ろしいと思って居る。あお君が私の側に居て、周りから色々言われても、あお君が気にするなと言ってくれてるし、私が世界一可愛いって言ってくれるから周りの人の事が気にならなくなった。
『ねえ美月、聞いてるの?』
「聞いてるよ」
『蒼君は何時、家に連れて来るの? ねえ美月、もしかして蒼君は今流行りの妄想彼氏じゃないわよね?』
「いや、お母さん、何? 今流行りの妄想彼氏って? あお君は私の妄想の中に生きてる空想上の人間じゃ無いからね。あお君は実在してるし、本当に私の彼氏だから」
『なら良いけど…… もしかしてお金払って恋人になって貰ってたりしない?』
「あのねえお母さん、あお君はレンタル彼氏でも無いし、それにあお君が私にお金払えなんて今まで一言も言った事は無いからね。寧ろあお君がよくご飯奢ってくれてる位なんだよ」
『それなら良いけど…… でもあんなカッコ良い子が美月とねえ…… 本当に何かの契約とかさせられて無いのよね?』
「だからお母さん、本当に本当~に! そんな事無いから。だから大丈夫だよ」
お母さんの言いたい事は分かる。確かに私も最初は疑ってたし、付き合ってからも正直お母さんが言った様な事を疑っても居た。でもある時からその疑念、疑惑は解消された。
あお君を本当に心から信用出来る様になったのはある事がきっかけで、そのきっかけはあお君の実家にお邪魔しに行った時。
あお君はこっちで大学入学の時から一人暮らしをし始めたが、とあるイベントがあお君の地元であり、その時にあお君の両親が地元に帰って来るなら顔見せしに来る様に言われ、そして私を連れて実家に行く事になった。
私を見たあお君の両親は何故か頷き、そして最初から私に対して好意的だった。
私は最初理由が分からなかったが、地味な私を見て真面目そうだと思われたかと思い勝手に自分で納得した。
そして話の流れであお君のお母さんがあお君の子供の頃の写真を見せてくれる流れとなり、生まれた時から実家を出る迄の写真を見せて貰い、楽しくお喋りしながら写真を見て居た時だった。
あお君は昔から可愛く、そしてカッコ良く、良い目の保養になった。
だけど五冊目のアルバムを見て居た時、突然あお君のお母さんがめくったページを凄い勢いで閉じ、そして突然しどろもどろになってしまった。
その様子に違和感を感じたが、私は何も言えなかった。一瞬私が何か粗相をしてしまったかと思ったが、一緒にアルバムを見て居ただけなので心当たりも無く、何故だろうと思い、悩んで居たがそんな私を見たあお君が私達の方に来て、何で隠しているかをお母さんに聞いたけど、お母さんは『不味い、これはダメ』と言うばかりで、アルバムのページを押さえた手を決して離そうとはしなかった。
だがあお君が、『隠すと余計に怪しいし、俺しか写っていないんだから手をどけて。みーに対して俺は隠し事は無いから』と言いお母さんを説得して手をどけさせた。
お母さんはそれでも抵抗して居たが、最後はしぶしぶ手をどけて、あお君がページをめくった。
私は見た瞬間に理解した。何故お母さんがページをめくるのをあれ程までに抵抗して居たかを……
そのページから先はあお君の歴代の彼女達、そう、元カノ達がアルバムには納まっていた。
私はそれを見て嫌な気持ち何かは全く無かったし、寧ろ妙な納得と、安心、そして心からホッとした。
何故ならアルバムに写っていた元カノ達の八割、いや、九割が私と同じ様な地味で、そしてメガネを掛けた子達だったから。
あお君は私に可愛いとか、綺麗だって言ってくれてたけど、それはお世辞や嘘なんかでは無く、本当にそう思ってくれていたのが分かった。
そう、あお君は筋金入りの地味子好きだった。私みたいな地味な、そしてメガネを掛けた女が好きな人だった。
アルバムには実家に住んで居た高校生の時までの元カノ達だけで無く、一人暮らしをしてからの元カノ達の写真もあった。
あお君に後で話を聞いたけど、お母さんは写真は思い出が詰まった物、その人の歴史と記憶が詰まった大切な物と言う考えらしく、捨てる位なら実家に送ってくる様に毎回耳にタコが出来る程言われて居るらしく。その為あお君は一人暮らしを始めてからの、別れた元カノ達の写真を律儀に実家に送って居たそうだ。
私が見たあの元カノ達の写真は、歴代の元カノ達がほぼ納まっており、その九割が私と同じ地味な、同士と言える地味中の地味ガールで、私はその時からあお君を心から信じ、愛す様になれた。
あお君はカッコ良いから付き合った彼女も多く、かなりの数の元カノ達の写真があったから正直ちょっぴり焼きもち焼いたのはあお君には内緒。
『ねえ美月? アンタ聞いてるの? ねえ?』
「だから聞いてるよお母さん。前にも言ったでしょ? あお君は実家に連れて行かないよ」
『アンタねえ、蒼君が美月の事を騙してるって訳でも無く、本当にこの世に居るのなら連れて来れるでしょ?』
「だからそれも言ったでしょ! 実家に連れて帰ったらお母さん結婚の事とか言うじゃない。それに実家にあお君誘ったら私、結婚焦ってるみたいじゃない。それに結婚を催促してるみたいに思われるのも嫌」
『はぁ…… ため息しか出ないわ。美月? アンタも良い歳なのよ、知らないからね蒼君を逃したら。結婚何て勢いよ、勢い。しちゃったらどうにかなるんだから。蒼君、仕事ちゃんとしてるんでしょ? 売れないとは言え、それでも毎月手取りでまぁまぁの稼ぎはあるみたいだから。作家は安定しないからダメだとか、反対もしないから安心して連れて来なさい。お父さんも蒼君との事を反対してないし、寧ろ美月に彼氏が出来て喜んでるのよ』
「それはまぁ…… 有難いけど……」
『そうよ、アンタ結婚どころか彼氏も出来なさそうってお父さん思ってたから、反対どころか無茶苦茶喜んでたんだからね』
「・・・」
何だろう? 自分でも結婚以前に彼氏すら出来ないとは思ってたけど、人に言われると何か納得出来ないんだけど? 違う、納得したく無いんだこれ。
『ねえ美月、今度のゴールデンウィークにでも連れて来なさいよ。ほら、お寿司取ってあげるから。美月好きでしよ? ね? 一角のお寿司。特上取ってあげるから、ね?』
「もう! 子供じゃ無いんだから。好きだけど、一角のお寿司は好きだけど、あお君は連れてかないよ。お寿司に何かに釣られ無いからねお母さん。ねえ、もう切るよ。夜も遅いんだからお母さんも寝て、じゃあねお休み」
『あっ、ちょっと美月・・・』
もう、本当にもう。あお君を実家に連れて帰ったら絶対お母さんは結婚の話をする。もし、もしあお君に結婚断られたらどうするの。下手したらもうあお君と一緒に居れなくなっちゃう…… そうなったら私生きて行けないよ……
うーん…… 二十二時四十七分か。あお君今日は出てるのかな? 夕方位に連絡くれた時は調子良いって言ってたけど。この時間ならそろそろ連絡あると思うんだけどなぁ?
今日はゾロ目の日、二月二十二日。イベントの日だし、あお君にとっては稼ぎ時だもんね。
あお君はラノベ作家だ。結構書籍化されてる。とは言え最近は売れ行きはイマイチみたい。
元々は小説家になったれって言う無料小説投稿サイトに小説を投稿していた。あお君がまだ中学生の頃だ。
そこから人気が出て書籍化されたらしく、以降書く小説が全て書籍化されている。
但し最近は鳴かず飛ばずで、一巻だけの打ち切りばっからしい。
たまに二巻以降も出るけど、売り上げはイマイチで、あお君も悩んで居る。
それでも月、二十万から三十万程度は手取りであるからまだマシらしい。
と言ってもその収入の大半は、新しく出した新刊からの収入では無く、一番最初に書籍化された物からの収入で。それもグッズ販売からの売り上げからくるマージン? 著作権からの収入らしい。
その物語は私でも知って居る位に有名な作品で、そのお陰で少ないながらも毎月安定した収入があるとの事だ。
そして最近は書籍化されても鳴かず飛ばずの底辺作家だとあお君は言って居る。
私は所謂オタクでは無い。それでも人並みに漫画やアニメ何かも観るし、世間の皆が知っている程度の物は大体分かる。そしてそれらのサブカルチャーと言われているものは一応楽しんでは居る程度の女でしかない。
その事を人に言うと時折。『地味なのに?』と、首をかしげられるが、私はどちらかと言うとファッションやコスメ何かの世間の女性が好む物に興味を持って居る。だけどその事を言うと『地味なのに?』と言われ首をかしげられる。
地味って関係あるのかな? うん、あるんだろうね。人は結局は見た目が全て。だって心の中は見えないけど、見た目は見えるのだから。
せめてもう少し私に華があれば。そうならあお君と少しは釣り合いがとれるんだけどなぁ…… でもそうなったらあお君の好みから外れるし、何より出会った後、あお君は私に興味を持たなかったから結果的に良かったし、このままでも良いのかな? ん?……
「もしもし」
『みー ゴメンね、遅くなっちゃって』
「うん、良いよ。終わった?」
『うん、換金所に無茶苦茶並んでてね、そんで遅くなっちゃった』
「あー 勝ったんだね?」
『うん、バカ勝ちした。丁度換金出来る時間ギリギリに終われたから換金して来たんだ。ねえ、みー? 夕飯食べちゃったよね? お腹は減って無い?』
「うん、お腹は減って無いかな」
『あーそりゃそうだよね。あのね、万枚に少し届かなかったけど九千枚以上勝って、二十万ちょい分勝ったんだ。そんでね、あの店に貯メダルが三万枚以上あるから、今日の勝ち分端数以外は全部換金したんだ。それでね、みーお腹は減って無くても飲めるよね?』
「飲むのは大丈夫だよ、それよりあお君そんなに勝ったの?」
『うん、ツイてた。だからみーにも幸運のお裾分け。ねえ、みー 肉食べに行こうか? 焼き肉、生真面目屋。それか寿司にする? 天の川。みー天の川のお寿司好きでしょ?』
「天の川のお寿司は好きだけど、回ってないお寿司だよ、高くつくよ。生真面目屋もそこそこ値段するし……」
『天の川は言う程高く無いでしょ? 生真面目屋もまぁまぁ安い店だし。その割に両方共美味しいんだから。それにこれだけ勝ったんだから、ね。』
「んー…… 本当に良いのあお君?」
『良いの良いの、幸運のお裾分け。あぶく銭だし、何でも好きに飲み食いして良いから、ね。それに四連休の三日目なのにみーを一人にしたんだし、お詫びも含めてご馳走させてよ』
「気にしなくて良いのに……」
『俺が気にするよ。それか明日の夜にする? 明日ならお腹も減ってるだろうし、思う存分飲み食い出来るよ』
「んー…… でも次の日が…… 顔がパンパンに腫れちゃう。うん、今日ご馳走になる。本当に良いんだよねあお君?」
『もちろん。ただね、みー シャワーは浴びさせて欲しいかな。良いかな?』
「うん良いよ、じゃあ待ってるね」
『うん今からそっちに行くから、急いで行くよ』
「気を付けて帰って来てね」
『了解、みー』
気を付けて帰って来てか…… 何だか不思議だ。極自然に帰って来てねって言えるって。
あお君も私もそれぞれ家があって、別に同棲してる訳でも無いのに帰って来てって言えるって、不思議な気分だ。でも悪く無いなぁ…… 寧ろ心地好い。うん、私は幸せだ。
この幸せがずーっと続けば。私は、私の人生は幸せなまま終える事が出来るんだろうね。そうなりたいなぁ……
とりあえず。軽くお化粧しなきゃ。すっぴんのままだとあお君が笑われちゃう。あお君は私のすっぴんでも可愛いって言ってくれるだろうけど、私は地味だから、少しでも良く見える様に努力しなくっちゃ。
あお君がここに帰って来るまで後少し。もう少しで大好きな大好きなあお君が帰って来る。
うん、私は幸せだ。とってもとっても幸せだ。