ミミズの方がマシは失礼。
「マルク!助けて!」
「ど、どうしましたか?!主様!まさか曲者ですか?!」
マルク達騎士団一向が拠点に戻ると扉がバーンと開いてアヨニがマルクに抱きついてきたのである。
人見知りなアヨニがこんな事をするとは思っていなくて驚きと動揺で言葉を詰まらせたが、そこは団長、すぐさま冷静さを取り戻してアヨニがこんなにオドオドとしている原因を突き止めようとしていた。
もうすぐでダイスロールが強制発動するくらい驚きと動転していたのは内緒である。
「あ!あれ……」
アヨニも自分がどんな状態か気がついたのか。
顔を上げてマルクと目が合った瞬間、気恥ずかしくなってすぐさま起き上がって拠点の方を指さして小声で伝えた。
「なんですか?アヨニ様?虫でも湧いた?」
万能植物園で植物の世話をしていた筈のアヨニが飛び出してきたと言うことは虫でも出たのではないかとコリーは思って聞いてきた。
「うぅ……ミミズでも出てくれた方がマシだったよ……」
「あれ?このリアクション?何処か既視感を覚えるな?」
アヨニの発言に騎士達はデジャヴを感じていた。
そうこうしていると扉の奥から物音がしてきた。
「何がいる。」
騎士達はアヨニを守る様に前へ出て何が飛び出してきても良いように臨戦態勢をとっていた。
「ミミズの方がマシなんて、私達は虫以下ですか?」
「正直、ショック。」
「あんまりですわ。」
扉から出てきたのはフードを被った女性達だった。
但し、足は植物の根の様に細長い形になっていた。
その足は完全に植物の根みたくなっている訳でもなく、肉肉しい質感が目で見ただけで分かった。
そんな奇妙な足とそれ以外をフードで隠しているのに女性であることは直感的に理解出来た。
そんな異常な生物を見て騎士団はダイスロールが発動される事はなかった。
「た、耐えた………」
「えぇ、さっきの経験がなかったら危なかったですね。」
何とかダイスロールが発動しないように耐えたのである。
元々、精神力が高いのもあるが、SAN値を僅かに回復できていたのもあった。
「私達を見て、耐えた、危なかったって失礼じゃない?」
「そう。失礼。」
「カラッカラに搾り取ってあげようかしら?」
凄く物騒な事を言っているが、確かに失礼だったとマルクは謝った。
「確かに部下達が失礼な事を言った。すまない。」
「ふふ、正直者は好きですよ。それに他の者とは違って私達を見ても一切臆することのないあなたの精神力に免じて今回は許しましょう。」
感謝するとマルクは礼を言った。
それよりこの三人は何なんだとマルクは思った。
もしかしたら、アヨニ様がガチャを回したのか?と考えたが、それはあり得ないと断定した。
アヨニとはまだ1日の関係だが、一人が安心すると言っている人が自分から必要じゃないのに人が増えるかもしれない手段を取るとは思えなかった。
「この人達は植物園から突然、産まれた。」
「植物園から?」
アヨニが言うには植物園で植物の手入れや枯れ草を刈っては解しを繰り返して糸を作る繊維作りをしていた。
植物園は勝手に放置していてもちゃんと育つが、生育を邪魔する雑草や病気は発生する。因みにこの病気は収穫するとなくなる。
それを見つけては雑草を取ったり、植物園に備え付けてある薬を適切に使う事によって通常より良く生育するのである。
その上、その人が望む方向に品種改良してくれるのである。
アヨニは丁寧に雑草を取り、マニュアルを見ながら薬を投与していた。
平穏に一人を満喫していると後ろから声をかけられた。
マルク達が帰ってきたのかと振り向くと知らない女性が立っていたのである。
「それに驚いて急いで外に出てきたと……」
「えぐっ!ぐすっ……」
アヨニはもう涙目になっていた。
いや、そんなに怖がる事か?と思いながら騎士達はアヨニを慰めていた。
「話が一向に進みそうにないので言いますが、私達はドライアドです。」
アヨニに説明させていたらもっと時間がかかりそうだと判断した女性は自分たちの正体を言った。
「ドライアド?確か?愛された豊かな土地に産まれる妖精だったわね。」
植物園の説明書にも愛情深く大切に使っていけばドライアドが育つと書いてあった。
でも、そんなのはずっと先の事だと詳細は読み飛ばしていたのである。
「流石に嘘じゃない?こんなに早く産まれるわけがない。」
ちゃんと読んでいたわけではないが、それでも1日やそこらで出来るほど早くないだろうとマヤは思った。
だから、この3人はアヨニを騙そうとしている原生の人型生物だと推測した。
「多分、この3人が言っていることは本当……」
「え?」
そんな仮説を思いもしないところから否定されてマヤは驚いていた。
それはさっきまで涙目で泣きそうになっていたアヨニだった。
「この拠点はある程度防衛機能が搭載しないか、一年という期限付きで外敵を入れない仕組みになっているから……この3人が言っていることは本当だと思う……」
まさかの真実である。
そう言うことは先に言って欲しいと思ったマルク達だった。
「僕もマルク達が行ってから気がついたの……」
そんな目線を感じたアヨニは弁明し始めた。
アヨニも拠点機能の全てを把握しているわけではないので、マルク達が出かけている間に調べてみたら拠点の説明書を見つけたのだ。
そこにこの機能の事も書かれていた。
「分かりました。後で私たちにもその説明書を見せて下さい。」
あまりにも怯えるのでこれ以上何も言うまいとマルク達は目線を外した。
元から攻めるつもりなどなかったが、アヨニ自身を守る為にも教えて欲しいと思っていたのである。
「これで分かってくれたと思いますが、私達は正真正銘のドライアドです。」
「それにしても早くに産まれたのよねーこんなに早いものなのー?」
この者達がドライアドというのは分かったが、こんなに早く産まれるのかと皆が疑問に思っていた。
説明書の文的に年単位は必要だとヘェイは分析していたのである。
だからこそ、今は重要ではないと飛ばしていたのである。
「はい、そもそも年単位で大切に扱ってもその人達に植物に対する愛情が一定水準なければ私達は産まれません。仮に産まれたとしても一人が限界でしょう。それ以上産まれる為には我々が自発的に繁殖行為を行うか、より長く深い愛情が必要なのです。」
「ちょっと待て、人達?まるで一人では無理なのような言い回しだけど?」
ヘェイはドライアドの説明に違和感を持ち、その部分を尋ねる事にした。
「その通りです。私達は一人の愛情では到底産まれる栄養としては足りません。私達が産まれるにはこの植物園でも100人単位の人からの愛情が必要なのです。」
他の土地とは違ってこの植物園ではドライアドが発生しやすくはなっていた。
それでも100人は最低人数として必要な筈なのである。
「だから、私たちも驚きました。まさか1日足らずの1人だけの愛情で3人も我々が産まれるなどあり得ない事なのです。」
ドライアド達も産まれた当初は驚きを隠せなかった。
「長女という立ち位置にいる私はずっと植物園が産まれた時から意識はありました。それは植物園の管理する為の精神が必要だったからです。」
これがこの植物園でドライアドが一人産まれやすい理由だった。
精神形成への愛情のリソースが要らないのである。
その分を肉体生成に回せる為に産まれるのが早くなるという訳だった。
「私はゆっくりと肉体を作っていく筈でした。ですが、この方が世話し始めた瞬間、リソースが大量に流れ込んできたのです。」
ゆっくりと長い年月を植物園の管理をしながら肉体のデザインを考えようとしていたのに、瞬く間に肉体へのリソースが満タンになった事で自分以外にも二人誕生する事になったのです。
「じゃあ、今はフードで足以外隠しているのは……」
「未だに肉体のデザインが決まっていないからです。」
肉体のデザインはドライアド自身が長い年月をかけて設計しながら作っていくものなので、材料だけ渡されても困る状況になっていた。
「こんな事、あり得ない。」
「異常事態ですわ。」
他の二人は精神が産まれたと同時にさっさと肉体をデザインしろと言われたようなものなので困り果てていた。
その地に二人目以降のドライアドが産まれる場合、前任が残した没案の設計図なのが土地の意識の中に残っているのである。
それを元に自分なりに考える為、二人目以降が産まれる場合、肉体設計は楽に進むはずが、この植物園には一切それがないのである。
一瞬にしてハイテク機械を設計しろ!と理不尽な注文を上からされた様なものである。
「それはゴメン……」
「いえ、マスターが謝る事ではありません。」
アヨニをなんて呼ぼうかなと呑気に悩んでいた時期に産まれてしまったのでこの間も急いで考えていた。
他の二人は長女アドに任せていた。
そんな事にも悩む事も悩みが産まれる前に産まれた二人はそれよりも早く肉体どうしようと悩んでいた。
「なので、まずは名付けをしてもらえないでしょうか?」
名前も長い年月で肉体設計のついでに考えおくのだが、そんな事が出来ている訳もなく、考えるソースを少なくする為にアヨニに考えてもらおうとしていた。
「うーん………」
アヨニは悩んでいた。
そもそも名付けなんてした事がない。
自分にはそんなセンスはない為、自分の知っている植物系を三等分にして付けることした。
「じゃあ、長女はヴム、次女はルー、三女はトゥで良いかな?」
「はい、これより私の名はヴムです。」
「ルー、良い名前。」
「えぇ、ワタクシはトゥですわ!」
それぞれアヨニに付けられた名前に気に入ったのである。