一夜明けて
朝日が昇り、新しい朝を迎えたアヨニ達は硬い床に枯れ草を引き詰めて寝ていた。
あの後、初日という事で皆が疲れ始めていたので、今日はもうやめて寝ようという事になった。
砂嵐で外はよく見えないが、砂の間から木洩れ出る日差しから朝を感じていた。
「う……うん?……マルク?早起きだね。」
「おはようございます。主様。騎士としても、団長としても、主人より早く起きるのは当然の事です。」
マルクは起きてきたアヨニに挨拶をすると汲んできた水を渡してきた。
「ありがとう。……朝の水は美味しいね。」
「はい、あちらに簡易的な洗面台を用意しておきましたので、どうぞ、顔を洗ってきてください。」
何もかも準備が良い事でマルクは早起き組に指示してアヨニを起こさない様に静かに用意していた。
有能な部下が当たったんだと改めてアヨニは実感していた。
「今日は昨日回せなかったガチャを回すんだよね。」
「はい、午前はその予定です。午後からは晴れていたらこの周辺の砂漠を調査する予定にしています。」
アヨニは予定を組むのが苦手なので、そこら辺はマルク達に全面的に任せていた。
それでも主人として最終確認はする様にしていた。
「僕はその間に植物園で植物をお世話しておくから……」
「はい、それで構いません。アヨニ様の鎧なら大抵の敵対生物がいても大丈夫でしょうが、砂漠は迷いやすいので経験のないアヨニ様には大変でしょう。」
「お前も起きてきたか。早いな。マヤ」
いつも寝坊気味なマヤは起きている時はしっかりした眼鏡女子なのだが、寝起きは緩い人なのだ。
それなのに、起きたてとは思えないキリっとした姿にマルクは違和感を感じていた。
「何故か知らないが、寝起きなのに頭がスッキリしているのだ。」
マヤにも分からないが、柔らかいベッドで十時スッキリ寝た様なスッキリした頭で起きた事に違和感を覚えていた。
「それも僕の恩恵だよ。」
「つまり、太らないのと同じく寝不足にならないという事ですか?」
「多分、そうだと思う。それでも食事と同じで最低限の睡眠は必要だと思うけど……」
食事と同じで寝過ぎはないが、寝不足には限度がある様だ。
それでも、このスッキリ感は戦場などの非常時では凄い恩恵になるとマヤは考えていた。
「他にも恩恵があるのですか?」
「分からない。僕もスキルや体質が多すぎてまだ把握しきれていないから。」
転生してから産まれたスキルが膨大すぎてまだ詳細を把握できていなかった。
中には説明が抽象的で使ってみないと分からないものもあってどの様な恩恵を部下に与えているのかはアヨニも把握できていなかった。
「でも、デメリットしかないものはないよ。それは断言できる。」
それは直感的に確信していたので、断言できた。
それを伝えると顔を洗い忘れていたと簡易洗面所に走って行った。
「アヨニ様って不思議だな。」
「あぁ、人見知りでよく隠れたり、縮こまったらするのに自信なさげではないんだよな。」
昨日の1日でアヨニに感じたのはよく分からないである。
最初は極度のコミュ障なのかと思ったが、実際はオドオドするが、断言的だったりする。
総じて思ったのは何かに怯えているである。
何に怯えているのかは分からないが、今のところそれについて追求するつもりはなかった。
「分かるのはあの人は悪い人ではない事だな。」
「何処か違和感を感じるんだろう。」
マヤの感想にマルクは同調していた。
アヨニの言動に違和感を覚えるが、それでもそれが何なのかは分からずじまいだった。
「な、なんだ?この覗いてはいけないものを見ようとしている様に頭にフィルターがかかっているような感覚は?」
「そうなんだよ。この感覚も恩恵の一つなのか?」
明らかに前世には無かった感覚をアヨニの恩恵だと断定は出来るが、確信は出来ていなかった。
「まぁ、気にしても仕方ない。私達も全員が起きるまで支度を手伝おうではないか。」
「そうだな。……そう言えば、アヨニ様、私達と一緒に寝るのは何も感じていなかったな。」
「そうだな。今だって結構薄着なのにな、女として自信を無くすよ。」
騎士団として召喚されたマルク達には寝巻きは無かった。
枯れ草から布を作ろうにも手作業では時間がかかる為、今すぐには用意はできなかった。
だから、身につけていた鎧の下に着ていた薄着で寝るしかなかった。
寝る場所も20人規模の大所帯なので植物園と最初の部屋に分かれて寝る事になった。
アヨニも部屋の数の少なさから騎士団と一緒に寝ることなったが、その事に対して抵抗感を示さなかった。
人と寝るのは子供の時以来だと緊張はしていたが、異性と寝るドキドキ感の様な興奮は一切伺えなかった。
マヤもマルクも、他の騎士達も傍から見ても美人しかいなかった。
そんな薄着の美女達と一緒に寝たのに、アヨニはその事に対して何も感じていなかった。
アヨニの信頼を勝ち取れるならこの身体を差し出しても良いと思う騎士はマヤ以外にもいたが、アヨニはその誘惑を人に対しての恐怖以外感じていなかった。
「それは仕方ないだろう。主様は食欲も、睡眠欲も娯楽なんだ。性欲も完璧にコントロール出来るんだろう。」
「じゃあ、私達にドキドキしなかったのもそれの副作用かな?」
昨日聞いた発言によればアヨニにとって人間の三大欲求は生存には関係ない為か低いまたは完璧にコントロール出来ている事を感じていた。
自分達にドキドキしなかったのもそれが原因だと仮定した。
「不思議な人が主人になったな。」
「そうだな。」
微笑みあったマルク達は砂漠調査の用意を進める為に植物園に向かった。