思考停止
「はぁ………気持ちいい〜」
「本当ですね。程よく冷たくて良いですね。」
マルク達は泉に浸かって和んでいた。
ダイスロールで削れたSAN値が癒される様に感じていた。心が安らいでいた。
「此処なら問題なく中継地点にもなるわね。」
「そうね。これだけの水源があるなら此処で農作もできるかもしれないわね。」
拠点周りは建造物ガチャで新しく建造物が増える可能性が高い。その上、折角作った畑が建造物に埋もれるかもしれないが、もしかしたら、そういうところは避けてくれるかもしれないが、そんな事は一言も書かれていなかった。
なので、可能性は高いのである。
この水源は今のままでもトラブルがなければ1日歩けば着く距離である。
これから舗装して乗り物も手に入ったら余裕で往復出来る範囲だった。
「でも、材料がないわよね〜」
「それが問題だ。何をするにしても木材も石材も足りない。」
資源不足。
それがこのアヨニ達に最も足りない物である。
砂漠という資源の乏しい初期地点である為、例え何か資源を見つけても運搬の問題も出てくる。
だから、今回の遠征ではラクダの様な砂漠の運搬に最適な生物を見つけたいと思っていた。
「何もいませんし、来ませんね。」
「あぁ、この泉にいたら何か飲みに来ると思っていたんだかな……」
マルク達がずっとこのオアシスで休憩しているのは心を癒すためだけではなく、飲み水の近くにいたら生物がやってくると踏んでいたからだ。
自分達を警戒して近寄ってこないことも考えられたが、その場合、コチラからも視認できる距離にいるはずだ。
それなのに何もいないこの砂漠にマルク達は奇妙な違和感を感じた。
「アゥ!」
「思考しすぎ……」
「あぁ、助かる。サーフィ。ありがとう。」
この隊で1番のクレバーな女サーフィが狂気に陥りそうな人達に水をかけて思考を停止させた。
この世界に来てから思考しすぎたり、気づきしすぎるとこの様な狂気に陥る事があった。
その時は一番冷静な人がどんな方法を使っても思考や視界を塞ぐ事を決めていた。
それもあって大体がサーフィか、マルクがこの役目を負う事が多かった。
「ヴムもミミズ以外の生物の痕跡も、実体も確認できなかったと言っていたな。」
「一応、探索の範囲をこのオアシス周辺に絞ってもらっているけどこの様子だとこの辺りにはミミズ以外の生物がいないかもしれないわね。」
生物が乏しいと思っていたマルク達だったが、こんなに捜索したりしているのに見つからないとなるとこの砂漠にはいないのではと思わせた。
「もしかしたら、そんな矮小な範囲じゃないかもしれないわ。」
「どういう事だ?ヘェイ。」
ヘェイが深刻そうな表情で呟いたのをマルクは聞き逃さなかった。
「砂漠だとしてもミミズだけしか生物がいないなんておかしいわ。」
「そうね。でも、植物もなかった文字通り枯れた砂漠なのだから。そんなに変かしら?」
虫が生きるには食糧が必要である。
それなのに、この砂漠には自分達とミミズ以外生物がいないのである。
マルク達はこの時点で変だと気がつくべきだったのだ。
あの肉食性のミミズは何を食べて生きて来たのか?
これを考えるべきだったのである。
「アヨニ様が誕生したこの世界は滅んだ世界なのでないかしら?」
「つまり、あのミミズはこの滅んだ世界の唯一の生き残りでもうこの世界は死の星と化してると言いたいわけね。」
ヘェイの見解はこれだった。
広大なこの砂漠にミミズしかいない乏しいこの生態系を見てこの星は滅ぶ一歩手前の世界ではないのかと考えたのである。
よく見たらこのオアシスに生えている草の形は枯れ草によく似ていた。
「このオアシスにある草も枯れ草が変化した植物の可能性があるわ。」
「あまり憶測で皆の不安を煽るな。ヘェイ。それは後でヴムに聞けば分かる事だ。この場で議論しても意味がない事だ。」
饒舌に語り出そうとしているヘェイにマルクは待ったを掛けた。
ヘェイの気づいた事はこの場では不安を煽る物でしかなかった。それにオアシスに生えている草が枯れ草に似ているのも偶然である可能性がある。
「………そうね。ごめんなさい。私も冷静じゃなかった様だわ。」
ヘェイは思考や気づきが高い為、狂気に陥りやすい面がある一方で誰よりもこの未知の世界を理解しやすい面もあった。
「この世界で生きて来て分かっただろう。中には気が付かない方が良い物もあるんだ。」
アヨニよってこの世界に召喚されたマルク達はずっと目を逸らしている事実は幾らでもあった。
それを認識したらダメだと本能が絶叫しているのである。
「そうだ!昔みたいに競争しようよ!」
気分が暗くなっている皆を見てコリーが元気づけようと提案した。
こんな皆が暗い気持ちになっている時は決まってコリーが盛り上げようとするのである。
「そうね。天気も良いし泳ぎましょうか。」
「よーし!負けないぞー!」
「僕に勝てるわけがない。」
「あら?やってみないと分からないでしょう?」
マルクが許可すると各々が泉の岸に行ってレースの準備を始め出した。
雲一つない赤く燃えた様な快晴を背に皆は泉を泳いでいた。




