幸は人によっては不幸である。
真っ白い部屋に少年が一人で何か本を読みながら目の前にある台を見ていた。
その台はシミひとつない部屋には似つかわしくない見た目をしていた。そんな誰でも違和感を覚える台の装飾を気にする事なく少年は本を読み進めていた。
「えーと、手をここに乗せて、魔力?を注入……と。」
一人の少年が禍々しい刺刺した土台には手形があり、そこに手を乗せた。
「グッ!」
その瞬間、手形から鋭い棘が無数に生えて乗せていた手を突き刺した。
ただ、反射的に痛いと思ったが、意外と痛くなかった。
棘が刺さっている感触は手のひらから手の甲にかけて感じるが、自然と痛くなかった。
痛みがないわけではない。
普通なら激痛で汗が出て顔を顰め苦悶の声を上げるだろう痛みを涼しげな痛みに感じていた。
少年はよく分からないけどまぁいっかと呑気に作業を再開した。
「頼む。フクロウ。せめてヘビとかが良い。」
少年がやっている儀式は召喚の儀。通称ガチャ。
このガチャは使用者の深層心理、経験、育った環境等から使用者と相性の良い者をピックアップする。
つまり、確率が上がるのである。
そして、この少年は所謂、隠キャ。よく言ってシャイである。
まだ、人より動物の方が幾分マシな為、その中でも好きな動物を思い浮かべて魔力?を注いでいた。
「人間は嫌だ。人間は嫌だ。人間は嫌だ!!!」
ぶつぶつと小声のような大声で器用に、狂気に呟いていた。
「うわっ!」
土台がキラッと光ったと思うと、召喚の土台から煙が溢れて生物の気配がし始めていた。
「お初にお目にかかります。我が主。マルク・イスカー及びセスタ聖國第四騎士団参上致しました。」
「……………………終わった。」
THE女騎士の姿をした女性が膝をついて少年に傅いていた。
その後ろには似た格好をした騎士達が同じポーズで静止していた。
それを見た少年は膝をついてこの世の終わりのような絶望した表情で項垂れていた。
「ねぇ………ねぇ…」
「なんだ。サーシャ。まだ主からの返答がないのだ。その前に話すなど不忠だ。」
「いや、マルク団長。その我が主が絶望した表情でこちらを怯えたように見ているのだが?」
「え?!」
マルクは自分の忠誠を受け取ってもらう言葉を待っていたのだが、一向に返答が来ないことに疑問を思っていたが、それを自分達の忠誠を試していると思い、何時間でも待つつもりだった。
ただ、馬鹿正直に待っていたのは団長だけだった他の隊員は我慢できずにチラリと視線を上に上げて少年を見た。
そこには自分達の事を怯えた小動物が肉食獣を見るような目で見ていることに気がついた。
その事を団長に訴えたのだ。
「はぁ、終わった。転生して二時間。短い人生だったな。」
「落ち着いてください。我が主よ。私達は主人を取って食うような外道ではありません!」
絶望の表情をしながらうつらうつらとうわ言を話す少年にマルクは必死に弁明していた。
「と、取り敢えず落ち着いて………う?あれ?触れない?」
もう何を話しても聞こえないと判断したマルクは聴覚が無理なら触覚だと肩を揺さぶろうと思ったのだが、何か少年の身体をなぞるように大きな壁がある事に気がついた。
「ほ、本当だ。私の全力でもびくともしない。」
「凄いわね。壁を持つと主ごと浮くのね。」
「いや!何をしているのだ!?」
何も反応しない少年に騎士達が群がり、色々試していた。
剣技に自信のある騎士は壁が邪魔だと斬ろうとしたが、傷一つもつかない壁に驚いていた。
少年の腕を持つようにパワーに自信がある騎士が壁を掴んで剥がそうとしたが、壁と一緒に少年も持ち上がった事に壁ではなく鎧のように思えた。
自分達の主になる少年に好き勝手にする部下達に驚いて急いで注意しながら少年の周りから追い払った。
「はぁぁぁぁぁぁ、神は死んだ………」
「そんな嫌そうにしないでください。」
あまりにも凄いため息を吐かれてマルクもどうしたら良いのだ。と困っていた。
「フクロウが良かった。」
「我等は鳥以下ですか。」
少年がいるのは部屋の真ん中の筈なのだが、暗い雰囲気とミジンコのような縮こまり具合にまるで部屋の隅に座っているような幻覚をマルク達は見ていた。
実質、鳥以下と言われたマルクは流石に落ち込み、いつになったら少年が蘇るのかわからない状態が続いていた。