第7章~はつのりさんの苦い過去
(以下、はつのりさんのセリフ→話始めると皆さんが固唾を呑んで見守る)
「今から2年位前、俺はけっこう太ってたんだけど、その時の出来事なんだけどね」
「最初に入った会社では社員食堂が無かったので、近くに座っていた若い女の人に声を掛けたんですよ」
「この辺りは土地勘が無いから一緒にランチに行きませんか?ってね」
「そうしたら、全く見向きもされなかったんで、何とか誤魔化して会社の近くでランチを済ませたんですよ」
「まあ、食べられたからいいやと思って職場に戻ると、社内メールが来ていたんで開いたら、さっき俺が声を掛けた女性からだったんです」
「それで、何が書いてあるかと思ったら“仕事以外では金輪際私に話掛けないで下さい”だってよ…」
「さすがにショックを受けたんで、そっから俺は凄く減量したんです」
「それから、しばらく女性とは交流していなかったんですが、1年位前に友達の彼女から女友達を紹介されたんです」
「期待はしていなかったんですが、図らずもうまくいったんですよ」
「その後、何回かデートを重ねたので、あ~、俺にもやっと彼女が出来たのか~、と思ったんだけど、今思い出しても胸糞が悪くなる出来事があったんですよ」
「それは、彼女と交際して半年が経った頃に、中伊豆にある旅館に1泊2日で行く事になったんですよ」
「その為に、日頃から貯めていた有り金を叩いて、綿密に計画を立てたんですよ」
「最初のプランでは、伊豆箱根鉄道駿豆線で修善寺駅まで行って、周辺を観光してから中伊豆の旅館に向かうっていうのを考えたんだけど、彼女が海を見たいって言うんですよ」
「それで、急遽変更プランを練り上げたんですよ」
「結局、特急踊り子号でJR伊東駅に行ってから、レンタカーを借りて周辺を観光しながら中伊豆に向かう事にしたんですよ」
「伊東駅に着いたのは昼前だったんだけど、あれこれ観光をしていたら旅館に着いたのが18時頃になっちゃったんですよ」
「でも、それからは夕食を摂って温泉に入るだけだったから、やっと寛げるな~と思っていたんだよね」
「それが、彼女が部屋に案内されてすぐに帰りたいと言い出したんですよ」
「仕方がないから、別の部屋を取るからって言って何とか彼女を宥めようと思ったんだけど、どうしても帰るって聞かないんですよ」
「だから、部屋に荷物を数分置いただけで、すぐにフロントに戻って会計を申し出たんですよ」
「そうしたら、フロント係の方が焦っちゃって当館に何か不備があっての事なのかと何回も聞いてくるんだよね」
「それは、こちら側の勝手な都合なんで、満額お支払いしますのでどうかお気を静めて下さいって言って何度も謝ったんですよ」
「そうしたら、支配人まで出て来ちゃって、お互いずっと謝っているって時間がしばらく続いたんですよ」
「結局、かなり安くしてもらって帰ったんだけど、楽しみにしていた温泉と食事は台無しになったんです」
「それに、レンタカーを借りていたから急いで伊東駅まで引き返したんですよ」
「そうしたら、レンタカー屋の営業が終わっていたんですよ…」
「だから、俺は彼女用に買っていた帰りの踊り子号の切符を、駅の窓口で日付変更してもらってから見送ったんですよ」
「時間的に東京駅迄直通で行ける特急が無かったけど、乗り換えで帰ってもらったんだよね」
「俺はレンタカー屋に車を返さなきゃいけなかったから、伊東駅周辺で車中泊をしてから踊り子号で帰ったんですよ」
「今思うと、あの時無理やり宿代の精算をしなければ良かったかなと…」
「俺も焦っていたから仕方ないけど、レンタカー屋が閉まっている事が分かっていたら、温泉くらいは入れたんじゃないかってね」
「俺からの話はこれでおしまい」
それを聞いて、皆さんは甚く同情しました。
けいすけ「それはヤバいな、トラウマもんでしょう!」
ひでゆき「よくその状況に堪えられたな…、それにしてもお前の処理能力は凄いと思うよ」
しげあき「そんな奴、修善寺駅から1人で帰らせればよかったじゃないか!」
ある「そうですよ、いい大人がそこまでしてもらってお礼の一つもあったの?」
はつのり「いや、一言も無かったよ…」
ひでゆき「じゃあ、何でそこまでしたんだよ」
はつのり「まあ、友達の彼女からの紹介だったからかな…」
はるみ「やるのが嫌なんだったら、最初から行かなきゃいいのにね」
きらり「あ~、それ、私が泊まりたかったわ~」
ある「ちょっと~、きーちゃん何言ってんの!」
きらり「えへへへ~」
まさき「でもさ、俺もはっちゃん程ではないにしても、女性からのすっぽかしは多々あったよ」
はつのり「まっさんはその時どう思ったの?」
まさき「俺の容姿がダメなんじゃないかと思って、何かで顔を隠そうって思ったよ」
かなえ「だから、まさき君は前髪が長めなの?」
まさき「そうかも知れませんね、普段は帽子を被っている事も多いですし…」
そこまで話したところで、居酒屋の入り口から誰かが急いで入って来ました。