第1章~やっと探し当てた居酒屋
このお話は、どのくらい前になるかは不明ですが、居酒屋の個室ブームの前あたりと言えば分かるでしょうか。
なので、恐らくは2000年より数年前になると思います。
一昔前の居酒屋には、基本的に仕切りが無い所が多くて、隣の席で大騒ぎされると目の前にいる人との会話もままならない状況でした。
その対策として、とにかく早い時間に入店して窓際の席(他のお客さんと両隣にならない席)を取るしかありませんでした。
しかし、安くて人気の居酒屋だと、なかなかそんな席に着ける事は容易ではありませんでした。
それに、人気の居酒屋だと時間予約が出来ない所もあったので、どうしても行きたいなら早くから並ぶしかなかったのです。
その日は、いつもの男3人で飲み会をする事になっていました。
ただ、肝心な営業時間をちゃんと検索していなかった為、無駄な時間を過ごす事になってしまいました。
その辺りの経緯も含めて、今回のお話を進めて行こうと思います。
このお話は、1997年(平成9年)辺りの出来事だったと思います。
時期的には夏の終わり頃で、長年いつも一緒に飲んでいる3人が集まる事になっていました。
その3人とは、同僚の矢沢君と吉村君と自分(天野)でした。
確か、飲み会の場所はJR飯田橋駅の周辺だったと思います。
この当時の居酒屋は、個室がある所は高級な店と相場が決まっていました。
ほとんどの居酒屋はテーブル間の仕切りが無い為、空いた席には他のお客さんと共有で荷物置き場とする事も屡々ありました。
酒の席ではありがちな事ですが、隣のテーブルの人達が大騒ぎをすると、一気に興醒めしてしまうので、それがうちらにとってとにかく嫌な事でした。
それを、少しでも回避したいなら、開店時間から飲み始めるしかありませんでした。
この日も、当然のように居酒屋に一番乗りをするつもりでした。
しかし、同じ居酒屋チェーンにも関わらず、東口店から西口店に変えた為に開店時間が1時間遅かったのです。
しかも、西口店の前にはお客さんが入店待ち出来そうな場所がありませんでした。
吉村「なんだよ、西口店はまだやってないじゃん!」
天野「どうする?東口店に行く?」
矢沢「でも、今から東口店に移動すると一番乗りは出来ないけどな」
あれやこれやと話し合った末、西口店に一番乗りする為にどこかで時間を潰す事にしました。
3人は当所も無く坂道を下って行くと、何本もの幟が見えてきました。
更に進んで行くと、そこには東京大神宮がありました。
東京大神宮とは、東京のお伊勢さまと称される縁結びに御利益のある神社として知られ、良縁を願う人が多く訪れます。
初詣の時期を除き、参拝者は若い女性が多く、真ん中にある賽銭箱だけは長い列になっていました。
何故なら、一人一人の女性が時間をかけて熱心にお祈りをしていたからでした。(真ん中の列が特に御利益があるのかは残念ながら存じ上げません)
3人は、ここの境内で時間を潰そうと思い、空いている左側の賽銭箱の列に並び手早くお参りを済ませました。(賽銭箱は中央と左右にあります)
参拝を終えてからそそくさと左側に行くと、絵馬が大量に掛けてある所(絵馬掛所)があり、その先が参拝者用の休憩所になっていました。(今でも休憩所があるかは不明ですが…)
そこには、若い女性が数人ずつ椅子に座っていました。
多くの参拝者は、お参りが終わるとすぐに帰って行くのですが、夕方とはいえまだまだ暑い休憩所に留まり続けているのは何らかの思惑があっての事だったのでしょう。
ただ、うちら3人のように、居酒屋の入店待ちで休憩所に来た人はそうそういなかったと思います。
矢沢君が腕時計を見ると、待ち時間は35分位ありました。
その間けっこう退屈でしたが、あまりこの場で話してしまうと飲みの席でのネタが無くなってしまうので、当たり障りの無い会話をしていました。
そのうち、自分はあちらこちらから視線を感じ始めました。
どうやら、ここの椅子に座って待つ事により、出会いの切っ掛けにしたいと考えていた方々が少なからずいたのでしょう。
ふと、辺りを見回すと、うちら3人以外で休憩所の椅子に座っていた方のほとんどが若い女性でした。
更には、休憩所の周辺には椅子待ちをしている女性も数組いました。
いや~、こりゃー参ったなぁ、何も考えずに休憩所に来ちゃったけど、ここに居る女性に一言二言でも話し掛けないと気まずい雰囲気なのかも…。
とりあえず、自分は2人に席を取っておいて貰うように頼むと果敢にも休憩所を一周しました。
すると、短い間にも関わらず何人もの女性と目が合いました。
ここでちょっと声を掛けたら、うちらの飲み会に来てくれる方はいるのだろうか?
いや、こんな神聖な場所で気軽に話し掛けるのは気が引けるな…。
まあ、何はともあれ暇なんだよな…。
とりあえず、うちらと同じ3人で来ている女性を探してみると意外にも2組いたのです。
マジか…、何も期待していなかったけど、これは何かの縁かもしれないな。
もし、2人の同意が得られれば飲み会にお誘いしよう。
願わくば3対3の合コンだったらいいのにな。
その時、自分はこんな事を考えていました。