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誤入金狂想曲  作者: サエキ タケヒコ(旧 馬鹿之介)
9/35

9 漁協の組合長

「この海鮮丼おいしいですね」

「そうだろ。何と言っても新鮮だからね」

 涼介は小坂井と漁港の近くの食堂に来ていた。そこの海鮮丼が絶品だということで小坂井が案内してくれたのだ。


 刺し身を口にふくみ、さらに飯を追いかけるようにかきこんだ。

 身がぷりぷりしていて美味しかった。


「ところで、『初恋』に行ったんだね」

「どうしてそれを」

「サユリからお礼の連絡があったんだよ。いい人を紹介してくれたって喜んでいたよ」

「そうでしたか」

「中村さんのことをすごく気に入ったみたいだ」

 涼介は下を向いた。

「さっそく上手くやっているみたいで安心したよ」

 

 店に客が入ってきた。

 いかつい大男で赤銅色に日焼けをしていた。

 

「今日は」

 小坂井が挨拶をした。

「おう」

「そうだ、中村さんにも紹介しておこう。こちらは漁協の組合長の薮本さん」

「初めまして、中村涼介です」

「彼は町の移住プロジェクトで越してきたばかりなんですよ」

「おう、そうか。しっかりやれ」

「は、はい」

 涼介が苦手なタイプだ。

 パワハラ上司だった松江を強化したような風貌だった。

 薮本は奥の席についた。


「中村さん」

 小坂井がささやくような声で言った。

「なんです」

「実は組合長ね。サユリのお父さんなんだよ」

「えっ?」

「ただね、サユリは本妻の娘じゃないんだ」

「というと」

「決まっているじゃないか浮気してできた子だよ」

「そうなんですか」

「サユリも苦労をしていてね。母親を病気で亡くして、今は一人暮らしをしている。同じ町なので、組合長も何かとサユリのことを気にかけて、助けたりはしているらしいけどね」

「いろいろあるんですね」

「ああ、こんな狭い町だけど、いろいろあるよ。そうそう僕がこのことを君に話したことは内緒にしておいてくれ。親のことを話されるのをサユリは嫌がるから」

「わかりました」

 

 会計を済ませて、漁港の横の食堂を出るとスマホに着信がきた。

 小坂井はそれを見て「じゃあ、ここで」と言って別れた。

 涼介は電話に出た。


「もしもし、中村さんですか」

「はい」

「町役場の斎藤といいます。至急、会ってお話したいことがあります」

 涼介は周囲を見回し、小坂井が去ったのを確認した。

「あの、今、運転中なので後でかけ直します」

 そう言って電話を切った。


 連絡の内容は聞かなくても分かった。5000万円を誤って振り込んだので返金して欲しいということだろう。

 だが、涼介はまだお金を返したくなかった。


 町役場に電話をかけ直すことなく、その夜、涼介は初恋に行った。

 そして、サユリにまた赤スパを連発した。



[現在の給付金の残金4975万円]

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