7 赤スパ
涼介はいい気分になってきた。
だが、会話は苦手だった。
これまで綺麗な若い女の子と二人きりで会話をしたことはなかった。
会話が続かないのでカラオケに逃げた。
「もう一曲歌ってくれないかい」
「何かリクエストはある?」
「特にない。好きな曲を歌ってくれ」
サユリが歌いだした。
その曲も涼介が好きなアニメの主題歌だった。
盛り上がってきた。
こういう展開はリアルでは経験したことはなかったけど、Vチューバーのライブ配信では経験があった。
涼介はプリンセス・ライブ、通称プリラブのバーチャルアイドルのマリーヌが推しだった。
金がなかった涼介は推しに対して1000円しかスパチャができなかった。
だが、今日は違うぞと思った。
酔っ払って気が大きくなっていた。
懐の封筒から1万円札を引き抜いた。
(人生初の赤スパだ)
サユリが歌い終わって席に戻ってきた。
「素晴らしかったよ」
「ありがとう」
「これ」
「何?」
涼介が差し出した1万円札を訝しげにサユリは見た。
「今の歌に赤スパだよ」
赤スパという言葉にサユリの顔がこわばった。
(しまった! やらかした。『赤スパ』はまずかった)
せっかくいい雰囲気になっていたのに、変なオタクだと思われて、サユリにドン引きされてしまったと涼介は思った。