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誤入金狂想曲  作者: サエキ タケヒコ(旧 馬鹿之介)
6/35

6 初恋

 涼介が選んだのは『初恋』だった。


「いらっしゃいませ」

 扉を開くと若い女性が迎えてくれた。

「あ、あの」

 上手く喋ることができなかった。

 大金を手にして舞い上がり忘れていたが、涼介はコミュ障だった。

「初めてですか」

 頷いた。

「どうぞこちらへ」

 席に案内された。


 客は涼介一人だった。

 店の人は、ママさんらしい女性と、迎えてくれた若い女性の二人だ。


 座るとおしぼりが出た。

「何にします?」

「おまかせします」

 絞り出すようにやっと言えた。

 女性はママの方を見た。

 ママが頷いた。

「焼酎のボトルでいいですか」

「はい」

「飲み方は」

「み、水割りで」

 めちゃくちゃ緊張するやり取りだった。


(ああ、失敗した。もう帰りたい)


 でも席を立つ勇気もなかった。

 とりあえず乾杯をして、焼酎の水割りを一気飲みした。

「まあ、すごい」

 その後会話が続かなかった。


 見かねたようにホステスの女性が「歌でも歌いますか?」と訊いてきた。

「はい。いや」

 そんな涼介のあたふたする姿を見て、「ふふふ」とホステスが笑った。

「じゃあ、私から歌いますね」

「どうぞ」

「一曲200円で、5曲セットで1000円になります」

「あの、前金ですか」

「そうですね」

 涼介は上着のポケットから100万円が入った封筒を取り出し、その中から1万円を抜いた。

「これでお願いします」

 ホステスは涼介が札束を出したので驚いた顔をした。

「は、はい」

 ホステスは一万円札をもってママのところに行くと、カラオケに曲を入れた。


 彼女が歌いだした。

 曲は涼介が大好きなアニメの主題歌だった。

 しかも上手かった。


 歌い終えた彼女を涼介は拍手で迎えた。

「すごい。うまいですね」

「こんな曲知らないでしょ」

「知ってますよ。『ソードアイロニクス』の主題歌で、KANAが歌っている曲でしょ。KANAより迫力がありました」

「えー知っているの」

「もちろんです」

「嬉しい。私、サユリというのよろしくね」

「サユリさん、こちらこそ、よろしく」


「どこからいらしたの」

「ええと、東京からです」

 これは嘘だった。見栄をはってしまった。本当は埼玉だ。だが、会社は戸田にあり、まあ東京みたいなものだった。

「すごい。じゃあ、もしかしてあなたなのね」

「えっ?」

「小坂井さんが言っていた新しい移住者の方よ」

「そうです」

「会えて、嬉しいわ」

 サユリが満面の笑みでグラスを持ち上げた。


 涼介は期待に胸が高まり始めた。

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