5 港町の社交場
早めの夕食を済ませると小坂井に教えてもらった港の傍にある飲食店が並ぶ通りを目指して歩いていた。小坂井は都会からの移住者を誘致し、面倒をみる地元の青年会が作るNPO法人の代表だった。そもそも涼介が城野島町への移住をするきっかけは小坂井のホームページを見て、小坂井とメールで連絡を取り合ったことだった。
最初小坂井から話を聞いた時は、金が無い状態だったから別になんとも思わなかった。
しかし、大金を手にしてみると、ベタだが、女性のいる店で飲み、チヤホヤされて、あわよくばというのをしてみたくなった。
そこで小坂井から聞いた店に行ってみようと思ったのだ。
港の近くの飲食店街に着くと、ちょうど夕日が海に落ちるところだった。
店の看板に明かりがともり始めた。
看板が茜色に染まった。
中華食堂に居酒屋、寿司屋、そして3軒のスナックが通り沿いに並んでいた。
涼介のお目当ては奥にある3軒のスナックだった。
「どういうことです」
あの時、涼介は小坂井に訊いた。
「ここは漁師町だから、漁師さんたちが遊ぶ場所があるんですよ」
そう言われてもピンとこなかった。
「漁師というのは、体力勝負で、規則正しい生活をしていますから、元気なんです。それに危険をともなう仕事で、大漁だとまとまった現金が入ってきます。だから、オフで陸にいる時は、結構遊ぶし、金離れもいいんですよ」
「はあ」
「そういう需要のために、ちゃんと遊ぶ場所が港町にはあるんです。ただそういうところは地元の人や漁師仲間専用みたいな感じで、よそから来た人は知らないし、入りにくいんですよ。でも大丈夫。もし、よろしければ、私が紹介しますから」
紹介を受けたのが、この通りにある3軒のスナックだった。
小坂井は、涼介に自分の名刺を渡した。
そして、名刺の裏に「この名刺をお持ちの方は、今度この町に移住された方です。よろしくお願いします」と書いて涼介に渡した。
涼介は店の前に立った。
一軒目は「純子」という店だった。
小坂井のコメントが蘇ってきた。
「純子は、40代の純子ママが一人で切り盛りしている店です。ママは独身です。口説けばできるそうです。熟女が好きなら純子ですね」
次の店は「ゴールデン・パラダイス」という派手な看板の店だった。
「ゴールデン・パラダイスは、外国人のホステスさんが多いです。ここはお金を出せばできます。もちろん違法営業になりますが、ここでは公然の秘密です。風俗で遊ぶような感覚でいきたいのなら、この店一択になります」
小坂井はそう説明していた。
最後は「初恋」というスナックだった。
「初恋が一番、難易度が高いですかね。ここのホステスの質は高いです。でも単純に金ですぐに客と寝ることはしないようです。口説いてその気にさせないとできません。でも口説くのには金がかかります。それでも若くて綺麗な娘が揃っていますので、ただ飲みに行って雰囲気を味わうだけでも満足という人もいます」
涼介は、3軒の店の前に立って、どの店に入るか決めかねていた。
考えた末に、その中の一軒の前に立つと店の扉に手をかけた。