4 海辺の漁師町の秘密
涼介は大金を得て、この力をさっそく使ってみたいと思った。
(さて、このお金で何をしよう)
城野島町は近い将来消滅するとAIが予測した過疎化が進む町だ。風光明媚な自然と海しか特筆すべきものはない。
「中村さんは彼女はいますか?」
人なっこい目をメガネの奥から涼介に向けて移住者の面倒をみてくれるボランティアの小坂井が訊いた。
「いえ、いません」
「あっちの方はどうしています」
「あっちって?」
「性欲の処理ですよ。やっぱり風俗とか行くんですか」
「いえ、行きません! と言うより行ったこともありません」
「そうですか」
「な、なんでそんな事を訊くんですか」
涼介は顔を赤らめて少し怒った声で訊いた。
(この人は、自分はもてない上に、女遊びもできない臆病者だと馬鹿にするつもりなのか)
「ぶしつけな質問で、お気を悪くしたらお詫びします」
小坂井が穏やかな声で言った。
「でも、若い男性の移住者がこの土地に定着するかどうかは、そこにかかっているんですよ」
「どういうことですか」
「妻帯者や、カップルで移住される方なら問題ないのですが、中村さんのような若い男性は、その……、言いにくいんですが、性欲の処理の問題で、1年とここの生活が続かずに出ていってしまうんです。だから失礼を承知で最初にこういう話をするようになったんです」
「そうですか」
(だとしても、自分の性欲の処理を聞いてどうする)
「実は、あるんですよ」
小坂井は涼介の耳元でささやくように言った。
涼介が越してきた古民家で荷ほどきの手伝いをしてくれており、家の中にも周囲にも誰もいない。声をひそめる必要は無いが、小坂井は芝居がかったようすで続けた。
「この町にも女の子と恋愛をしたり、セックスできる場所があるんです。ここから先の話を聞きたいですか」
小坂井が意味ありげに笑った。