エピローグ
「被告人は前へ」
裁判長の声に涼介が証言台の前に立った。
「では、判決を言い渡します」
サユリは息を飲んだ。
「主文、被告人を懲役4年に処す」
(そんな……)
マスコミの報道では涼介は初犯なのでお金を返しさえすれば執行猶予が付くだろうと言われていた。
仮に実刑でも3年というのが専門家の意見だった。
だが、裁判長は検察官の求刑通り懲役4年を言い渡した。
最後に裁判長が涼介に語りかけた。
「被告人、あなたはまだ若いしやり直せる。不自然な供述をやめて振り込まれたお金をどうしたのかを正直に言いさえすれば、まだチャンスはあるのですよ。この判決に不服があれば14日以内に控訴することができます。今、私が言ったことをよく考えてください」
手錠をかけられて、腰に縄を回された涼介が連れられて法廷から出てゆこうとした。
サユリは傍聴席から涼介を見た。
涼介はサユリに一瞥もしないで出て行ってしまった。
サユリは父親に連れ戻されてから、涼介の裁判をすべて傍聴した。
裁判の争点は間違って振り込まれたお金をどうしたかだった。
涼介は全部『飲み、打つ、買う』で使って残っていないと証言した。
だが、どこでいくら使ったは具体的に話せなかった。
そして後は黙秘した。
傍聴席にサユリがいることには気が付いていたはずだ。
「そこにいる女の口座入れた。その女が持ち逃げしたんだ」
そう言いさえすれば、刑務所に行かなくてすんだかもしれない。
なのに涼介はそうはしなかった。
(あなたを裏切った私をかばっているの?)
判決の日の夜、サユリは部屋で一人で泣きはらした。
涼介は控訴せず服役した。
「サユリちゃん、リクエストが入ったわよ」
ママの言葉に我に返った。
曲を機械に入れた。
また涼介のことを考えてしまっていた。
サユリは『初恋』に戻り、働いていた。
いつか涼介が出所して、来てくれる日を待っていた。
そして今日も客のリクエストにこたえ、恋の歌を歌うのであった。
完
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
読者の皆様のリアクションが次の作品を書くモチベになりますのでもし、よろしければ評価等をいただけたら幸いです。
2週間ほどで一気に書き上げましたが、アップするとすぐに読んでくださる皆さんが、執筆の原動力でした。
本当にありがとうございました。




