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誤入金狂想曲  作者: サエキ タケヒコ(旧 馬鹿之介)
33/35

33 お地蔵様



 加奈子は、今日も同じ通りをうろうろとしていた。


「何かお探しですか」


 通行人が親切に加奈子に声をかけてくれた。


「いいえ。大丈夫です」


 加奈子はあの小切手をくれた老女に一言お礼を言いたかった。


 小切手を受け取った時は、半信半疑だった。体よく追い払われたような気もした。だが、だめもとで銀行にその小切手を持っていったら、本当に2000万円の現金を渡された。


 今ではちゃんと部屋を借り、お金も大切に貯金している。


 経済的に余裕ができたので、これからは子供を保育園にあずけて働くこともできる。


 子育てをしながら、通信で高校の卒業資格を取る勉強も始めた。


 子供のために頑張ろうと思った。


 心残りは、あの時、食事をご馳走になり、子供のミルクをもらい、小切手までもらった老女に一言もお礼を言っていないことだ。


 思い出すとずいぶん失礼なことも言ってしまった。


 あの老女は加奈子親子にとって文字通り命の恩人だった。


 そこで、お礼を言いたいと思い、子供を抱っこ紐で前抱きして、記憶をたどり老女のマンションを探しているのだが、どうしてもたどり着けなかった。


 そして、どういう訳だかいつもこの地蔵がある場所に来てしまうのだ。


 鞄からペットボトルを取り出して水を飲み、地蔵の前で休憩をすることにした。


 お地蔵さんは、赤い前掛けをして赤い帽子を被っていた。


(なんだか、ユーモラスでかわいい)


 横にある地蔵についての説明の看板を読んだ。


〈お地蔵さんは、赤い前掛けや赤い帽子などを被っています。どうしてお地蔵さんは赤い物を身にまとっているかと言うと、赤ちゃんの赤という意味合いがあります。お地蔵さんは、赤ちゃんや子供を守るものとも言われています〉


 加奈子は思わず泣き出した。


 そしてお地蔵様に合掌した。


(お地蔵様が娘を守ってくださったのね)


 加奈子はもう決して娘を手放さないし、自分の命も粗末にはしないとお地蔵様に誓った。



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