32 祝勝会
「えー、本日はお日柄もよくー、それでは、えー、ただいまより、源さんの祝勝会を始めます」
花山は上ずった声で司会をした。
行きつけの居酒屋である『冬の宿』を貸し切りにしての源さんの祝勝会だった。最初は二人きりでやるつもりだったのが、店の常連さんたちが参加したいということで規模が大きくなったのだ。
「乾杯!!」
見渡すと店は満員だった。
席が無くて立っている者もいた。
万馬券を当てて今や時の人となった源さんにあやかりたいと大勢の人が押しかけていた。
源さんにお祝いの言葉を述べて、酒を勧め、料理を勧めていた。
律儀な源さんは勧められるままに飲んで食べていた。
何だか源さんが遠くに行ってしまったような気がした。
ドタン!
いきなり大きな音がした。
振り向くと源さんが倒れていた。
「どうした!」
「何か喉につまらせたのかもしれない」
「急性アルコール中毒かもしれないぞ」
「誰か、早く救急車を」
救急車は、数分で来た。
花山は救急車に乗り込み、病院に一緒に行った。
源さんの意識はなかった。
病院の緊急処置室の前の廊下で花山は待った。
数時間後、医師が出てきた。
「患者のご身内の方ですか」
「いえ、友人です」
「ご家族の方は?」
「彼に家族はいません」
「そうですか……」
「あの、源さんは、大丈夫ですか」
「いまのところは」
「喉に何か詰まらせたのですか、それとも急性アルコール中毒だったのですか」
医師は首を振った。
それから2ヶ月後、源さんは静かに息を引き取った。
源さんには家族がいないので、遺骨はとりあえず花山が預かることにした。
花山は源さんの遺骨が入った白い箱の前に盃を置くと、酒を注いだ。
「源さん、何で言ってくれなかったんだよ。水臭いぞ」
源さんは、末期がんだった。
食道から全身に転移していた。
源さんが、ハゲになったのも、何を食べても味がしないと言っていたのも、あっちの方がご無沙汰になったもの、年のせいではなかったのだ。
「なあ、源さん、最期にいい夢が見られてよかったな」
カミセコーの奇跡とも言うべき勝利は今も花山の脳裏に焼き付いていた。
100万円は1億円に化けた。
だが、あの世に金はもってゆけない。
花山は市役所の人に、万馬券で源さんが当てた1億円はどうなるのかと訊いた。
すると、相続人がいないと全部国庫にゆくと教えてくれた。
「すげーな、源さん、高額納税者だぜ、国庫に1億円だとよ。源さんも偉くなったな」
涙が頬を伝わり盃の中に落ちた。
「源さん、達者でな」
[給付金の残金0円→国庫へ1億円]




