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誤入金狂想曲  作者: サエキ タケヒコ(旧 馬鹿之介)
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27 タイガーマスク


「やっぱり年だわ。重い荷物をかかえて歩くとしんどいわね」


 静子は、痛む腰を撫でた。


 明け方に匿名で児童養護施設に新品のランドセルを届けてきたばかりだった。ランドセルだけでなく、文具や図書券も置いてきた。


 家に帰るとテレビをつけて食事の用意をした。


 テレビのワイドショーが始まった。



「新しい伊達直人の出現が話題です。伊達直人というのは人気漫画だったタイガーマスクの主人公の名前のことで、篤志家がその名でランドセルを児童養護施設に送る活動をしたことから、全国的に有名になったのですが、最近また新たな伊達直人が出現しました」


「木村さん、今回の伊達直人さんはどんな方なんですか」


「それが正体不明なのです。ただランドセルに加えて文具や図書券などが、贈られたランドセルの中にたくさん入っていることが特徴です」


「どれくらい寄付されているんですか」


「今月に入り、毎日のように関東一円の児童養護施設の前に丁寧に梱包されたランドセルが置かれており、その中には図書券などが入っているので総額で1000万円近くになるらしいです」


「1000万円ですか!」


「この新しい伊達直人さんの正体に今、注目が集まっています」




(こんなに報道されたら、やりにくくなるね)


 静子はマスコミの注目を浴びるわけにはいかなかった。


 なにせ、その原資は掏摸で得たお金だったからだ。


(あとは、あそこしかないわね)


 静子は食事を終えると2100万円の現金を持って銀行に行った。そして、2000万円と100万円の銀行の自己宛小切手を振り出してもらった。銀行が自分で自分に振り出した小切手は不渡りになる可能性は無く、現金と同じだった。


 静子はその足で赤ちゃんポストのある病院に向かった。


(2000万円の小切手は赤ちゃんポストに入れよう)


 前々から捨てられた赤ちゃんを助けているその病院を応援したいと思っていたところだった。


(ちょうどいい機会だわ)


 残った100万円はどこかの子供食堂にでも寄付しようと思った。


 病院の前に着いた。


 すると、赤ちゃんポストの前に、いかにも訳ありという若い女性が行ったり来たりしていた。


 腕には赤ん坊を抱きかかえていた。


 静子の掏摸眼が光った。




[現在の給付金の残金2100万円]


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