25 帰郷
「お待たせしました」
銀行のカウンターに3980万円の現金が積まれた。
タマキは、それを鞄の中に詰めた。
出金伝票を通帳と共に出したら、本人確認がしたいと言われた。
運転免許証を渡すと、コピーさせてほしいというので、どうぞと答えた。
それだけだった。
銀行を出ると、脇汗で服に染みができているのを見つけた。
「ふう〜」
思わずため息が出た。
「本当なの?」
「はい」
「私に嘘をついていない」
「いいえ」
社長はタマキのことを射るような目で見た。
「太い客が借金の肩代わりをしてくれて、自分の専属の愛人にならないかと誘われたと言われてもねぇ……」
社長はタマキの話を全く信じていないようだった。
「でもいいわ。お金はお金だし。あなたも立派な大人になったんだから。自分の始末は自分でつけられるわよね」
タマキは黙って頭を下げた。
「で、店は辞めるの?」
「はい。社長、いままでお世話になりました。社長が拾ってくれなかったら、今頃どうなっていたかわかりません。本当に感謝しています」
社長は少し寂しけな顔をして横を向いた。
机の前にはタマキが弁済した札束が積み上げられていた。
「元気でね」
「社長も」
タマキは礼をすると社長室を出ようとした。
「待って」
社長は帯封をした札束を一つタマキに渡した。
「私からの餞別。それから、これから何をするにしても、あとで後悔するようなことはしないで頑張るのよ」
「ありがとうございます」
タマキは泣きそうになった。
タマキは社長室を後にすると、その後、数件消費者金融の事務所を周り借金をすべて返済した。
部屋に戻って来て残った金を数えるとちょうど3000万円だった。
(借りたお金より、利息の方が多かったわね)
でも仕方なかった。実家を身一つで飛び出し、身分証明書も何もないタマキに金を貸してくれたのだから文句は言えない。それに今のタマキの状態では、たとえ利息に不服があっても出るところにも出られない。
(これで借金はすべて完済したのだから、それだけでもよしとしないとね)
部屋は社宅だったので管理人さんに鍵を返し、残っている荷物はゴミなので処分してほしいと頼んだ。
3000万円の入った鞄を持って駅に行くと、実家のある町までの切符を買った。
本当は前から家に帰りたかった。
もう一度両親に会いたかった。
美樹にも会いたかった。
そして勝手に出て行ってしまったことを謝りたかった。
けれども、借金をかかえたまま実家に帰ることもできなかった。
このお金で人生をやり直そう。
タマキは3000万円の入った鞄を抱きしめるようにして、特急列車に乗った。
[現在の給付金の残金3000万円]




