24 過去
「美樹、愛している」
タマキは美樹のピンク色の乳首を口に含んだ。
性別は女なのに、心は男で、女の子しか愛せないと気がついたのは中学三年生のときだった。
修学旅行の夜に、定番の好きな人告白大会になった時に、自分には好きな異性がおらず、同級生の女子が好きだったことに愕然とした。
それまでは、意識していなかったが、皆の話を聞いていて自分が他人と違うことを自覚した。
17歳の時に、同級生の美樹と海に二人で遊びに行き、海岸で告白した。
美樹は驚いていたが、タマキを受け入れてくれた。
海辺でおそるおそる美樹と口づけを交わしたとき、緊張して前歯がぶつかってしまった。
初めてのキスは潮の香りがした。
それから美樹と付き合うようになり、学校の帰りにお互いの部屋に宿題を一緒にするのだと親に偽って行き、愛し合った。
事件は突然起きた。
母親がパートの仕事で夜までいないというので、美樹を自分の部屋に連れ込み愛し合っていた。
ところが、予定が変わった母が家に帰り、玄関に二人の靴があるのを見て、宿題をしているのだと思い、おやつを運んできたのだ。
母はノックもしないで、タマキの部屋のドアを開け放った。
ちょうどタマキが「愛している」と言って、美樹の乳首を口に含んだ時だった。
二人共全裸でベッドの上にいた。
それを見た母は、おやつを載せたお盆を落として、悲鳴を上げた。
タマキはパニックになり、服を着ると逃げるように家から飛び出した。
そのまま実家には何年も帰っていない。
一文無しの家出少女に声をかけてくれて部屋に泊めてくれたのが、今勤めているホストクラブの社長だ。
だが、社長と体の関係はない。
社長は女で、しかもノンケだからだ。
歌舞伎町の片隅で膝をかかえて泣いているタマキを見つけて、「こんなところでそうしていると、悪い奴らに連れてゆかれて、回されてボロボロにされるよ」と声をかけてくれた。
事情を話すと「それじゃあ、まあ、家には帰れないわよね」と同情してくれた。
そして、それから住み込みで社長の仕事を手伝うようになった。
社長はホストクラブやキャバクラ、消費者金融など新宿で手広くビジネスをしていた。
社長は恩人で、悪い人ではなかった。
だが、お金には厳しい人だった。
タマキは住む場所と食べ物を与えられたが、ただではなかった。
すべて借りになっており、それはタマキが働いて返さなければならなかった。
もちろん利子もついた。
心が男で女の子しか愛せないタマキにはキャバクラのホステスは無理だった。
社長は、それなら男装してホストにならないかと提案した。
たしかに今どきのホストは、みんな女の子のような美形の若い子ばかりで、その中に混ざれば女であることがばれないかもしれなかった。
そうしてタマキはホストになった。
うまく男に化けてホストとしてやって行けた。
客はタマキが女だとは知らない。
しかし、売上は、思うように伸ばすことができず、客にも代金を踏み倒されて、その穴埋めのために借金は溜まるばかりだった。
原因はタマキにあった。
タマキは、客である女性を騙して大金を貢がせることができなかったのだ。
客である女性を大事にしすぎたのだ。
ホストには向いていないと思い、辞めることも考えた。
それには借金を返さなければならなかった。
だから、タマキにとってこのお金は、もう一度人生をやり直すためのチャンスだった。
[現在の給付金の残金3980万円]




