23 タマキ
(どういうこと!)
いかつい大男にサユリは連れて行かれたまま戻って来なかった。
その男がおそらくは父親で、実家に連れて帰ったのであろうことは想像がついた。
(今日の支払いはどうなるの)
シャンパンを入れたので8万円だ。サユリはタマキの客なので、支払いがなければタマキが店に払わないといけない。
(ああ、最悪だ)
タマキは8番テーブルの片付けをした。
すると机の下にポーチが落ちていた。
(あっ、これ、サユリのだ)
「お客さんが忘れ物をしたので、追いかけて渡してきます」
そう店長に声をかけるとタマキは歌舞伎町の路上に出た。
四方を見回してサユリを探すが、雑踏の中からサユリを見つけることはできなかった。
連絡先が分からないかとポーチを開いてみた。
通帳と印鑑と運転免許証が入っていた。
何気に通帳を開いてみた。
(なにこれ!)
残高は3980万円だった。
タマキは周囲を見回した。
サユリの姿はない。それに通行人は誰もタマキのことは気にもかけていなかった。
タマキは店に戻るとロッカールームに直行して自分の鞄の中にポーチを入れるとロッカーの鍵をかけた。
ホールに戻った。
「お客さんに渡せたか」
店長が訊いた。
「はい」
「じゃあ、7番テーブルのヘルプにつけ」
「はい」
店が終わるとタマキはロッカールームに行き、ポーチがまだそこにあるかを確認した。
自分の部屋に帰ると、窓のカーテンが閉まっていて、ドアが施錠されているかを確認した上で、通帳を取り出した。
何度も見たが見間違いではなかった。
通帳には3980万円の残高が記載されていた。
印鑑も取り出して眺めた。
(この印鑑がもし銀行印なら、お金を引き出せる)
サユリは通帳を無くしたことをすぐに気がつくだろうから、引き出すなら急がないといけない。そうしないとすぐに預金口座は凍結されてしまう。もちろん高額な引き出しには本人確認が必要だ。タマキは運転免許証のサユリの写真を見た。店で見る顔と少し違って見えた。
サユリは押し入れからウィッグを取り出した。
化粧をして、ウィッグをかぶった。
鏡の向こうの女性は免許証の写真の人物のように見えなくもなかった。
免許証で確認するとサユリとは同い年だった。
女性の格好をするのは久しぶりだった。
(これならサユリに見えるわね。だって私も女なんだから)
タマキは女性だった。
[現在の給付金の残金3980万円]




