22 父の言葉
「なんでお父さんが」
「知り合いがお前がこの店に入るところを目撃して教えてくれた」
「でも、それだけじゃ……」
「興信所を使った。この店を張らせてお前かどうかを確認した。そして、お前がこの店の常連であることが分かったから連れ戻しに来た」
「私のことは放っておいて」
「それが親に対する言葉か」
「親? あなたが何をしたというのよ。ただ空き部屋になっていた賃貸住宅を私達にただで住まわせていただけじゃない。何もしていないのに親だとか言わないで」
「いいから来い」
サユリは父に腕をつかまれて強引に店の外に連れ出された。そして、人気の無い路地裏に来ると父はいきなり怒鳴るような声で言った。
「お前、自分が何をして、今、どういうことになっているのかわからないのか!」
サユリは横を向いた。
「中村は逮捕されたぞ」
「えっ」
「1週間くらい前のことだ。ホームレス同然でお前のアパートの近くの雑木林で野宿しているところを見つけられて逮捕された」
「……」
「お前が東京に来て、こうして豪遊しているのは中村の金だろう」
サユリは動揺した。
「彼が、喋ったの?」
「いや」
「じゃあ、お父さんはどうして?」
「お前と中村が町から消えた日のことを覚えているか」
サユリは下を向いた。
「お前は、俺を自宅に呼び出しウィスキーをくれた。その時に見たんだよ。お前の部屋の窓から中村が逃げ出すのを」
「知っていたのね」
「ああ、その時は、若い二人のことだから口出しはすまいと思い、気が付かないふりをして家に帰った。だが翌日、中村が町役場が誤って振り込んだ5000万円を別の銀行口座に移して逃げているという話を聞いた。そしてその日からお前も町から姿を消し行方不明になった。どういうことかは想像がつく」
「じゃあ、私も指名手配されているの?」
父は首を振った。
「お前と中村が親しい関係にあったのを知っているのは初恋のママと小坂井だけだ。あの二人には俺から口止めをしている。他にお前たちのことを知る者はいない。それに中村はお前のことは何も話していないようだ」
「どうして私にかまうの」
「お前を守りたい。こんなことをしていてはいけない。一緒に帰ろう。俺がなんとかする」
サユリは放心状態になった。
父の向こうに見える歌舞伎町のネオンが涙で滲んだ。
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