20 新宿歌舞伎町・ホストクラブ『フリーフォール』
「サユリちゃん、どうしたの。今日は元気ないよ」
タマキが心配そうに訊いてきた。
「うんうん、大丈夫よ」
「それでさ……」
タマキは自分の日常を面白おかしく話した。
思わず笑ってしまった。
(やっぱり、タマキといると何だか癒やされる。ついこの店に今日も来てしまった)
店内が暗くなった。
「5番テーブルの姫様から、シャンパンが入りました〜」
アナウンスの後にアップテンポな曲が大音響で流れた。
5番テーブルにホストたちが集まってゆく。
派手なシャンパンコールのパフォーマンスが始まった。
「タマキ君はゆかなくてもいいの?」
「サユリちゃんの指名が入っているから別にいかなくていいんだよ」
「そう」
タマキの横顔を見た。
男装の麗人のような美形だった。
「あのさ、タマキ君、お客さんからシャンパンとか入れてもらうことはよくあるの」
「いや、ない」
タマキは良心的なホストだった。ホストと言えば、いかにして金を貢がせるかにやっきになるイメージを持っていたが、そういうところはタマキは淡白だった。むしろサユリに余計な金を使わせまいと気遣いしてくれるくらいだった。だから、サユリは安心してこの店に通うことができた。
「入れてもいいのよ」
「えっ」
タマキは何のことか分からないという怪訝な表情をした。
「タマキ君のこと応援したいから、シャンパン入れるね」
「本当にいいの?」
サユリは5万円のシャンパンを注文した。
再び場内が暗くなるとミラーボールが輝いた。
「8番テーブルの姫様から、シャンパンをいただきました。さあ、8番テーブルに全員集合!!」
サユリの周りにホストたちが集まってきた。
タマキの掛け声に、周りのホストが「わっしょい!」とか「イェイ!」と唱和する。
「では、姫様から一言」
サユリはマイクを渡された。
「タマキ君、そしてキャストの皆さん、素敵な夜を本当にありがとう」
「ワオー、姫様の素晴らしいお言葉だぜぃ!!」
そしてタマキがシャンパンを一気飲みし、サユリはホストたちの歓声やコールに包まれた。
サユリは、本当にプリンセスかスターになったような気分になった。
[現在の給付金の残金3980万円]




