2 桁違いの給付金
「それで飛田さん、ご連絡をいただいたのは」
「ああ、それそれ、実は知り合いがユーチューバー始めてさ、動画の編集をしてくれる人を探しているんだよ。まだ収益化していないからお礼と言っても薄謝なんだけど、よかったらやってみる?」
「ええ、検討します」
「じゃあ、その友達の連絡先とユーチューブのチャンネルの情報とか後でメールするから」
「分かりました」
飛田の電話は切れた。
(5千万円とは無関係だったんだ)
涼介は胸をなでおろした。
落ち着いてもう一度通帳を見た。
さっきまでは数字しか見ておらず、振込主が誰かまで確認していなかった。
(城野島町だって! どういうことだ?)
だが、すぐに合点した。そもそも今日、わざわざ銀行に来て通帳を記帳したのは、給付金が入金しているかどうかを確認して、入っていたらその場で現金を下ろすつもりでいたからだった。
(給付金の桁を間違えたんだ! 50万円を5000万円と誤記して振込を実行したんだな)
全く信じがたいミスだが、現実にはそういう事もある。過去に似たような事件が大々的に報道されていたのを思い出した。
(さて、どうしよう)
誤入金なので、返還しなければならないはずだ。
だが、涼介は突然、現金を手にしてみたいという誘惑に駆られた。今はキャッシュレス社会になってきたし、そもそも手取りで16万円くらいの貧乏会社員だった涼介は多額の現金は一度も手に持ったことはない。
(後で返すにしろ、一度くらい現ナマってやつを拝見してもバチはあたらないだろう)
涼介は車を降りるとATMに向かった。