16 I want you ,I need you.
缶ビールを手にしたまま驚いた顔をしているサユリに、涼介は、給付金が誤って振り込まれてからのことをすべて話した。
「話を聞いてもまだ信じられないわ。あなたの話が本当だというのならその証拠を見せて」
涼介は鞄から帯封をした300万円の札束と2通の通帳を取り出した。
「全部で4955万円ある」
サユリは震える手で通帳を開いた。
「うそ……。本当だったの」
「そうだ」
「でも、どうして私があなたと一緒に町を出ることになるの。私達は出会ってまだ一週間もたたないのよ」
「君しかいないし、君が必要なんだ。それに時間がない」
「でも……」
「さっき、ここに来る手前で、深夜なのに家の前に車や人がいたのを覚えているかい」
「ええ」
「あれは僕の家だ」
「うそ」
「僕を捕まえようと待ち構えていたんだよ」
サユリはうなだれた。
「この通帳に入っている4700万円近くの金も、いずれ仮差押を受けて凍結される。だけど5000万円もの現金を持ち歩くわけにはいかない。それにこれからは銀行の口座もクレジットカードも使えなくなる」
「それと私と何の関係があるの!」
「預かってほしいんだ」
「サユリの名義の口座にこの金を入れて、僕の代わりに預かってほしいんだよ」
「でも……」
「僕とサユリのことはほとんど誰も知らない。それにサユリは今回の件には関係ない。サユリの口座なら差し押さえできないはずだ」
「私が預かったら、涼介はどうするの?」
「だから一緒に町を出ようというんだよ。二人でこの金を使って好きなことをやって暮らそうよ」
「でも、そんなことをしたら警察に追われるんじゃないの」
「7年だ」
「えっ?」
「7年間で時効になる。7年逃げていればいいんだよ」
「……どうしよう」
「僕と一緒に来れば、声優や歌手になるためのレッスンも東京で受けることができる。東京でサユリの夢を実現することができるんだよ」
その言葉にサユリは心を動かされたようだ。
「どうしたらいいの」
「まずは、僕の名義の預金口座に入っているお金を全部、サユリの名義の預金口座に移さないとならない。もちろん銀行口座はもっているよね。ただし、役所が給付金を振り込んだ銀行のこの町の支店の口座はだめだよ」
「メガバンクの預金口座を一つもっている」
「よし、それじゃあそこにしよう」
「お金を移したらどうするの」
「二人で、町を出よう」
サユリは頷いた。




