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誤入金狂想曲  作者: サエキ タケヒコ(旧 馬鹿之介)
16/35

16 I want you ,I need you.


 缶ビールを手にしたまま驚いた顔をしているサユリに、涼介は、給付金が誤って振り込まれてからのことをすべて話した。


「話を聞いてもまだ信じられないわ。あなたの話が本当だというのならその証拠を見せて」


 涼介は鞄から帯封をした300万円の札束と2通の通帳を取り出した。


「全部で4955万円ある」


 サユリは震える手で通帳を開いた。

 

「うそ……。本当だったの」


「そうだ」


「でも、どうして私があなたと一緒に町を出ることになるの。私達は出会ってまだ一週間もたたないのよ」


「君しかいないし、君が必要なんだ。それに時間がない」


「でも……」


「さっき、ここに来る手前で、深夜なのに家の前に車や人がいたのを覚えているかい」


「ええ」


「あれは僕の家だ」


「うそ」


「僕を捕まえようと待ち構えていたんだよ」


 サユリはうなだれた。


「この通帳に入っている4700万円近くの金も、いずれ仮差押を受けて凍結される。だけど5000万円もの現金を持ち歩くわけにはいかない。それにこれからは銀行の口座もクレジットカードも使えなくなる」


「それと私と何の関係があるの!」


「預かってほしいんだ」


「サユリの名義の口座にこの金を入れて、僕の代わりに預かってほしいんだよ」


「でも……」


「僕とサユリのことはほとんど誰も知らない。それにサユリは今回の件には関係ない。サユリの口座なら差し押さえできないはずだ」


「私が預かったら、涼介はどうするの?」


「だから一緒に町を出ようというんだよ。二人でこの金を使って好きなことをやって暮らそうよ」


「でも、そんなことをしたら警察に追われるんじゃないの」


「7年だ」


「えっ?」


「7年間で時効になる。7年逃げていればいいんだよ」


「……どうしよう」


「僕と一緒に来れば、声優や歌手になるためのレッスンも東京で受けることができる。東京でサユリの夢を実現することができるんだよ」


 その言葉にサユリは心を動かされたようだ。


「どうしたらいいの」


「まずは、僕の名義の預金口座に入っているお金を全部、サユリの名義の預金口座に移さないとならない。もちろん銀行口座はもっているよね。ただし、役所が給付金を振り込んだ銀行のこの町の支店の口座はだめだよ」


「メガバンクの預金口座を一つもっている」


「よし、それじゃあそこにしよう」


「お金を移したらどうするの」


「二人で、町を出よう」


 サユリは頷いた。


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