14 涼介なら いいのよ
「どうしたの」
心配そうにサユリが訊いた。
「いや別に」
「でもなんだか、元気がないわ」
「大丈夫だよ」
「そう」
サユリはお代わりの水割りを作り始めた。
マドラーでグラスの氷をかき回すと涼介の前に置いた。
そして、店内を見回し、二人のことを誰も見ていないのを確認すると、涼介の太ももの上に手を置き身体を寄せてきた。
「もしかして、昨夜のこと怒っているの?」
「どういうことだい」
「胸を触らせなかったこと」
「そんなことない」
「涼介のこと、好きよ」
初めて涼介と呼ばれてドキッとした。
「だから、すぐに客とそういう関係になるホステスだと思われたくなかったの」
サユリはさらに近い距離になった。
「でも涼介なら、いいのよ」
甘い吐息のような声でサユリが囁いた。
ママが二人のことを見ているのに気が付き、サユリは慌てて身体を離した。
「その鞄どうしたの? 旅行にでも行くの」
サユリが話題を変えた。
「仕事の資料だよ」
「そう」
涼介は、いつでも逃げることができるようにパソコンや通帳や印鑑、そして現金300万円を鞄の中に入れて店まで来て、さらにその鞄は店に預けずに足元に置いていた。
その晩も涼介は赤スパを連発して閉店までいた。
そして、タクシーでサユリを送ってゆくことになった。
[現在の給付金の残金4955万円]




