11 後戻りのための『黄金の橋』
(さあどうする)
涼介は悩んだ。
もう給付金には手をつけてしまった。
サユリに赤スパを投げて25万円ほど使ってしまい。4000万円を別の預金口座に振り込んだ。
だが、今なら残っているお金を返せば罪にならないかもしれない。
引き返すなら、今しか無かった。
過去の同様な事件のことをネットで検索すると、「24才の若さで4〜5千万円程度の金で人生を棒にふるのは馬鹿げている」というコメントがあった。
(本当にそうだろうか)
会社員時代は手取りで16万円前後だった。
この町に来てから働いて得た収入はまだない。
働いて5000万円を貯めるのは一生かけても無理だ。
(こんな大金を手にできるチャンスは他に無い)
スマホの電源は切ったまま部屋の中でそんなことを思いながら決めかねているうちに夜になった。
「どうしたの」
「えっ」
「ずっと黙ったままだから」
「何でも無い。それよりまた歌ってくれよ」
「うん」
サユリが笑顔で答えた。
涼介は日が暮れるとまた『初恋』に来ていた。
歌い終えたサユリを万札で迎えた。
「いいの?」
「もちろんだよ」
サユリが身体を寄せてきた。
「本当だったのね」
「何が?」
「私のこと推してくれるって」
「もちろんだよ」
「嬉しい。離れたくない」
サユリが涼介の腕にしがみついた。
腕に乳房が強く押し付けられた。
あっという間に時間が過ぎ、店のママが閉店の時間だと涼介に告げた。
「大丈夫ですか。車を呼びましょうか。今日は何だか、中村さんお疲れみたいですよ」
ママが心配して訊いた。
確かに昨晩から一睡もしていなかった。
「じゃあ、車を呼んでください」
「はい」
ママがタクシー会社に電話をした。
「そうそう。中村さんは山田さんの家を借りて住んでいるのよね」
山田さんというのは大家だ。狭い町だと住んでいるところから大家の名前まで特定されてしまっているのかと思った。
「サユリの家はその先なの。よかったらサユリも乗せて、送ってもらえないかしら」
涼介は思わずゴクリとツバを飲み込んだ。
「え、いいんですか?」
「遅い時間だから、若い女の子一人だと心配だから、そうしてもらえると助かるわ」
「わかりました」
しばらくすると車が来た。
サユリが奥から出てきた。
店ではワンピースを着ていたが、ラフなジーンズ姿だった。
「じゃあ、中村さん、よろしくね」
ママに見送られて、涼介とサユリを乗せたタクシーは動き出した。
[現在の給付金の残金4965万円]




