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序章


「ご乗客の皆様、当列車はまもなく、最果ての都市・アルデラに到着いたします。

この度は、ハイライン高速鉄道をご利用いただきまして、真にありがとうございます。

皆様のまたのご利用を、従業員一同、心よりお待ち申し上げております」



ミシカは徐々に速度を落とす列車内から外の風景をのんびりと眺めながら、

手荷物の確認を始めた。


(本当に周りに何も無いんだなあ……私の荷物といい勝負かも)


最果ての都市・アルデラは周囲を砂漠に囲まれた、文字通り大陸の最果てに位置する

歓楽街だ、唯一の交通手段はハイライン家が管理する高速鉄道のみで、大量の魔法石

を湯水の如く使用し、中央都市郡とこの都市を繋いでいる。


「お嬢さん、頭の上をよろしいですかな?」


「はい、どうぞ」


「どうも……、おい、私の荷物を頼む」


「かしこまりました、ご主人」


小さなバッグ一つに身の回りの物をまとめているミシカに対して、ボックス席の正面

に座っていた裕福そうな商人は、おそらく部下か従者であろう連れに指示し、部下は

ミシカの頭上の収納から高級そうな大型トランクを無理くり引っ張り出そうとしている。


「中央と比較すると、ここらへんは気温が高そうですな、列車内が快適で幸いでしたね」


「そうですね、中央は寒いですから」


長旅の途中で若干の会話をしたこの商人は、中央都市郡に本店がある商会の人間との事で、

アルデラの支店にわざわざ足を運ばなければならない用事があるとのことだった。

本人はただのつかいっぱしりと卑下していたが、片道代金だけで平民一人が半年暮らせる

この鉄道を使用できるところから、おそらくそこそこの地位を持つものなのだろう。


「駅にはどなたかお待ちで?」


「えぇ、迎えを寄越すとの事で」


「それは何より、あまり治安のいい都市ではないですからなあ」


「そうなのですか?」


ミシカの無垢な驚きとは逆に商人は眉をひそめながら話を進める。


「えぇ、そうですとも、アルデラの話はあまり中央には入ってきませんからねえ、

カジノ経営が中心の街、華やかな一面とは裏腹に闇の部分も多い街です。

酒と暴力、年頃のお嬢さんには口にするのもはばかれるような店、金を持て余した

碌でもない貴族連中や、犯罪者たちの温床です……先方から特にそのような話

は聞いておりませんかな?」


「いえ、特には……」


商人の話にミシカは一抹の不安を感じた、そのような話は初耳だったからだ。


「たしかある商会に見習いとして就職するとのことでしたな?」


「えぇ、そうなっています」


「その商会の名は?」


「えぇと、たしか……あぁ、サフアン商会」


ミシカは商会からの手紙をかばんの中から出しながら答えた。

簡素な封筒に入っているのは、上質な紙を用いた飾り紙、丸と尖りが要所要所

に感じられる独特の書体、きわめてシンプルな文章が書かれている。

商人がその文章にさっと目を通す。


ミシカ・ロックフォーゲル 殿


貴殿のご応募、真にありがとうございます。


厳正なる選考の結果、貴殿の採用が決定いたしました。


つきましては、来る翌月、私達の商会を置くアルデラまで

ご足労いただけますでしょうか。


当日に迎えを寄越しますので、必ず同封の切符を用いて指定日に

お越しくださいますよう。


今後ともよろしくお願いいたします。


サフアン商会 クロウ・オロビアンコ


「サフアン商会……クロウ・オロビアンコですか」


「ご存知なのですか?」


サフアン商会の名を見た商人は、さらに眉をしかめた。


「アルデラにおいてある程度の商いをしている者であれば必ず知っています、

オロビアンコの名はいろいろな意味で有名ですからな」


「悪人ですか?」


「いえ……そういう訳でもないのですが……」


あまりにも純粋かつ無知なミシカに商人も答えを迷っている様子だ。


「そうですね、ここから先はあなた自身でご判断されるのが良いでしょう、

部外者である自分がとやかく言うことではないですからな……、おっと、

駅に列車が着いたようです、では、私はこれにて」


気がつくと列車は駅のプラットホームに到着していた。

これ幸いにと、商人は部下を引き連れてそそくさと席を立つ。

残されたミシカは、周囲が慌しく下車していく中、なんともいえない

空気感のまま一人取り残される事となった。


(クロウ・オロビアンコ、いったいどんな人なんだろう……?)


ミシカの疑問に答えるものはいない、商人の言うとおりこの先はミシカ自身

で見極める必要があるのだから。



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