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砂丘  作者: 奥野鷹弘
9/11

今までを我慢していたかのように空から大粒の雨が降り注ぐ。バケツをひっくり返したかのように降りしきる雨は親を求めて泣く赤子のようだーーー


…病室のベットに寝かされた山地の横で母親が本を読みながら空あくびをする。

社長の呼び出しで駆けつけた母親はダブルワークと夏の暑さで疲れて体を小さく丸めていた。それでも家族を心配するその背中は一生忘れてはならない大切な面影である。

母親はきりの良いところで本を閉じ、爪に土が入り込んでいる山地の右手を握りしめた。


親子ふたりでいる乳白色した病室は、山地の心のなかで見ていた砂丘の色と同じだ---。



母親は愛しく思うように山地の姿を見つめた。

苗の移動で傷付いた腕の傷も、手袋を着けて境目が出来た白黒の日焼けあとも、汗を拭くときに付いた小さな花殻の髪の毛も…小さい頃と何も変わらないことを抱かせた。そして息子の心に雨を降らすように「圭ちゃんの悪いところ、神様に認められたね。」と微笑み、熱中症にかかった息子は当たり前かのように言葉で遊んだ。


山地圭介を育てた母親は強かった。


母親が云うように、山地の悪いところがこの出来事を呼び起こしたのであろう。仕事にも人間にも自分にも熱中するという形で症状が現れ病院に運ばれた。

山地が興味本位で読んでいた心理学的な本に書いてある通りに自ら招いた結果だったのだろう---。

いや起こるべきこととして起こり、いまこの瞬間があるのだろう---


--------------------

乳白色の色をした砂丘では心地よい風に切り替わり、かけらかけらにあった雲が視界から消えてゆく。

太陽の力を借りて生きている月は次の居場所へ向かおうと頭上の位置から目線ぐらいの高さまで身を下げる。




山地は記憶に残る握りしめた感触を思い出していた。


それは数ヶ月前のことである。同じ部門先輩で女性であった人にお願いをされ手を握った。過去にDVの被害を受けていた彼女は、特徴が似ている人や同じ女性でも仕草が似ている人に対し恐怖に怯えていた。長年の傷は簡単に癒えるものではないものの、仕事をするという姿勢は自分で作ることが出来たので、自然と触れあうことをしてみようとこの会社を選んだ。そんな彼女の人生に山地という人物が現れ、後輩という形で、彼の仕事馬鹿というある意味一線を越えた人物像に心を奪われ、人間という枠を越えて打ち解け始めていった。過去をばかばかしいものと捉え始めた頃には日常的に笑えるようになっていて、距離を置いていた男性という性別にも声を掛け始め、普段話のしないような雑談や植物についての小話をネタに人間関係を構築し始めた。そんな彼女はついに自分自身で夢を描くようになり「私なりの人生を造りにいきたい」と胸を張って転職という形で新たな人生を踏み出した。

勤務最終日の帰り際、彼女は山地に一言「わたし、あなたのライバルね」と強めに右手を差し出し手を求めた。白い歯をむき出し「花が楽しみだね」と彼にだけ解る言葉を彼女に贈り、強く握り返した。

「また職業病てきなことを。」と彼女は苦笑いをしたが、第三者から見るその彼女顔や姿は嬉しさと淋しさの感情の現れてるように見えた。部屋の奥で身を潜めていた水嶋は、音をたてぬようにと足早にバスの時刻へと間に合わせた。いつもより早い10分も前に---。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

山地がスウェットから取り出して砂に埋めた種がビクンと震えた。

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