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花鬼~向日葵、まわる~  作者: 光沢武
向日葵、まわる
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二十話

五鬼の右足を診察した晴嵐は、動かないのは右足に妖力(ようりょく)()まりが出来ているのが原因だろうと診断した。

通常、妖力は血液の様に全身を循環しているのだが、それが何らかの原因で止まり、循環していた妖力を閉塞してしまうのが妖力溜まりである。

要するに、人間で言う処の血栓症に近い症状なのだが、これを治療するのは難しく、難病の一つとも言われていた。


いや、正確に言えば、人によっては直ぐに完治する事もある。


妖術を使う者は術式を展開する時に発動場所に妖力を集中させるのだが、それが長時間行われる時に、この妖力溜まりが起きやすい。

例えば、妖術を使って炎を作る場合だが、術者の妖力と術式を使って大気中にある気体を分解し、合成する事により生み出している。

それ故、炎を生み出す時に発症した妖力溜まりだと、患部に妖力と共に取り込んでしまった気体が人体に影響を与え、体が正常に機能しなくなる事が多い。

それを取り除く為には、合成した物と過多になった妖力を再び分解して外に出してやれば良いと言う訳だ。

また、妖力溜まりを回避する為に、術者自身に影響の出ない様に妖術を媒介する道具を使用するのが一般的だ。

五鬼の兄である三鬼は炎の術式が得意であるが、彼もまた、鍼を媒介にして術式を展開している。


それでも妖術を使う者に取っては、多少なりとも起こり得る病であり、こう言った妖力溜まりは、先に述べた様に術者が発動した術式を解いたり、妖力の循環を促進させる薬を飲む事によって完治する。

同様に、生まれつき妖力過多で循環が不安定な者も時間は掛かるが、薬で症状を改善する事は出来た。


だが、心因性で発症した場合は、治療が難しかった。

これは薬での治療がほぼ不可能と言われ、それ故に難病の一つと言われているのである。






「…五鬼さんが元々持っている妖力が多かったのが、今回は悪い方に転んでしまったようだね。恐らく、高熱のせいで不安定だった妖力が、挫いて弱っていた右足部分を閉塞して妖力溜まりを作っているんだろう…まあ、これ位なら一月もすれば完治すると思うから、処方した薬は必ず毎日飲む様に。」


熱は下がったものの、右足が動かず布団に逆戻りする羽目になった五鬼の元に、晴嵐が訪れて診断した結果がこれであった。

挫いた右足の腫れはほぼ引いていて、骨に異常も無かったが引き続き軟膏を塗られ、促進剤を処方された。


晴嵐の「完治する」と言う言葉に、横で聞いていた母親の美奈子がほっと胸を一撫でしているのに五鬼は申し訳無い気持ちになった。

随分と心配させてしまった様だ。

美奈子が晴嵐を見送るのに部屋を出て、一人きりの部屋の中、五鬼は自分の行いを反省していた。

何も考えず、あのまま走って帰っていれば多少は雨に濡れただろうが、ここまで酷い状態にはならなかった筈だ。家族皆に心配を掛けるなんて、何て浅はかな事をしてしまったのだろう。


五鬼が布団の中でそっと右足に触れた時、晴嵐を見送った美奈子が部屋へと戻って来た。

そうして、その後ろには、撫子の花束を持った法月の三鬼が立っていて、


「みいくん…!?」


驚いた五鬼が起き上がろうとして、直ぐに三鬼がそれを制止する。


「起き上がらないで、そのままで良いから。」


「でも…」


「美奈子さんに聞いた。右足に妖力溜まりが出来てるんだろ?それに、ずっと高熱が続いてたんだ、まだ本調子じゃないって話だし、オレの事は気にせず、そのまま横になってなよ。」


三鬼はそう言うと、持っていた撫子の花を美奈子に渡し、五鬼が布団に戻るのを手伝った。

美奈子はそれを見ながら「花瓶に生けて来るわね」と言って、ニコリと笑うと部屋を出て行った。


「…撫子の花、」


「ああ、うん。見舞いの定番は、撫子の花だろ?いっちゃんに、早く良くなって貰いたいからね。」


「…ありがとう、今日だけじゃなくて、何度もお見舞いに来てくれたのでしょ?ずっとお礼も言えなくて、ごめんなさい。」


「いや…謝るのはオレの方さ。オレがあの時、ちゃんといっちゃんを家まで送っていれば、こんな事にはならなかったんだ。ごめんな、いっちゃん。」


三鬼が謝り頭を下げるのに、五鬼は慌てて身を起こしそれを止めた。


「いっちゃん、寝てなくちゃ…」


「ううん、大丈夫。それより、謝らないで。みいくんのせいだなんて思って無いから。」


「だけど、」


「私がみいくんの言ったのを、ちゃんと聞かずに、のんびり家に帰ったのが悪かったの。みいくんは、早く帰れって言ってたのに。だから、みいくんが謝る必要なんて無いよ。それより、二鬼ちゃんは無事に門を呼べたの?」


五鬼は話題を変える様に、二鬼の事を聞いた。

二鬼が界渡りの門を潜ると宣言してから、既に半月が過ぎている。

門を渡った者が一週間過ぎても戻らなかった時は、その者は二度と鬼界には戻って来ないと言われている為、(おおよ)その見当はついていたが、やはり、三鬼の口から直接聞きたかった。

三鬼も姉の事は五鬼に報告しておきたかったのだろう、一つ頷くと、話を始めた。


「ああ、二鬼姉は門を呼べたよ。オレ、界渡りの門は初めて見たけど、あんなに金色で眩しかったんだな。目が瞑れるかと思った。」


「私も一鬼お兄ちゃんが呼んだのを、子供の頃に見たよ。綺麗だったけど、ちょっとだけ怖かったかな。」


「…いっちゃん、二鬼姉は帰って来なかったよ。向こうで伴侶と一緒に暮らすって決めたんだろうな。」


「そっか…寂しいけど、二鬼ちゃんが決めた事だもの。二鬼ちゃんは、旦那様と一緒に暮らすんだから、向こうに居ても幸せになるよね?」


「ああ。だけど、あの二鬼姉が誰かの嫁になるなんてね…人間が二鬼姉に勝てるとは思えないけど、よっぽど、厳つくて化け物みたいな男なんだろうな。そう考えると、やっぱお似合いなのかな?ははっ。」


自分を打ち負かした男に嫁ぐと言っていた姉の顔を思い出し、三鬼が軽口を叩くと五鬼はそれを窘める様に言った。


「そんな言い方しては駄目よ。二鬼ちゃんが選んだ旦那様だもの、きっと素敵な方よ。」


もう二度と会う事は出来なくなったが、遠い異世界に嫁いだ二鬼の幸せを、五鬼は心から祈っていた。


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