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花鬼~向日葵、まわる~  作者: 光沢武
向日葵、まわる
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十二話

広げた浴衣全体のしわを取りきせを整えた五鬼は、袖に当て布を置いてこてを当てた。

畳む為の折癖をつけた処で「姉さん、入るよ」と七鬼が障子を開けて五鬼の部屋へ入って来たので、五鬼は手を止めて弟を仰ぎ見た。


何せ弟の七鬼の体はとても大きい。

法月の三鬼もかなりの高身長ではあるが、七鬼に関して言えば全体的に巨体なのである。

とは言っても、無駄に脂肪のついた体をしている訳では無く、筋骨隆々とした実に逞しい体をしていて、見た目と年齢が比例しない鬼人の中にあっても、「少年」と呼ばれる歳にも関わらず、既に「成人」している容姿をしていて、別の意味で比例していないと言われていた。


「…帰りに法月の三鬼さんに会ってね、姉さんにこれをって預かった。」


七鬼がそう言って五鬼の前に座ると、白い椿の花束を手渡した。


「夏椿の花だって。少し花弁が傷み始めたから貰って欲しいって、()()()()()()


「まあ…」


五鬼は受け取ると可愛らしいその白い花弁に目を向ける。

相変わらず三鬼から贈られる花は美しく、素人の五鬼には何処が傷んでいるのか皆目見当が付かない。


「…配達の途中だったみたいで、忙しそうだったから代わりに受け取ったけど、三鬼さん、姉さんに会えなくて残念だって言ってたよ。またその内、顔を見せるからって。」


「三鬼さんがそう言ったの?」


「うん。夏祭りの裏方の仕事でチビ達の面倒も見てる上に、花屋の仕事も色々と忙しそうだったけど、もう少ししたら落ち着く予定だから、その時にはって言ってた。」


六鬼が先日言っていた通り、組合の方から三鬼の休暇について色々と話し合いなりあったのだろう。何にしろ、働き詰めであった三鬼に休暇が出来るのは喜ばしい事だと五鬼は思った。


「…姉さんは、今年も祭りには行かないのか?」


七鬼が畳の上に広げられた浴衣に目を落としながら、五鬼に尋ねた。


「ええ、行かないわ。七鬼までそんな事を言うなんて、どうしたの?」


「オレまで?」


「六鬼がね、一緒に行こうって何度か誘ってくれたの。私と一緒に祭りに行きたいって言ってくれた気持ちは嬉しかったけど、断ったわ。」


「…足を気にしてるんなら、オレがいざとなったら負ぶってやるけど、」


七鬼が躊躇い勝ちにそんな事を言ったのを、五鬼はふふっと笑って頭を振った。

六鬼が勝手に「いざとなったら、父さんか七鬼に負ぶって貰えば良い」と言っていた事を、まさか本人の口から聞くとは思わなかったが、考えてみれば、七鬼は体力自慢の優しい弟である。

姉が行きたいと言えば、自分からそう言うのは目に見えていた。


「ありがとう、でも、六鬼にも言ったけど、足の事もそうだけど、私は家でゆっくりと花火を見るのが好きだから、あなたは友達と楽しんでいらっしゃい。」


五鬼が微笑みながらそう言うと、七鬼は暫く思案していた様だが、すっと頭を上げて姉を見つめると「なら、」と続けて尋ねた。


「もし、法月の三鬼さんが、姉さんと一緒に祭りに行きたいって誘って来たらどうする?」


五鬼の顔が笑顔のまま固まった。


「断る?それとも、一緒に行く?」


七鬼はしっかりと五鬼の目を見て言葉を続ける。

真っすぐなその瞳に、けれど、五鬼の言葉は喉から発する事は出来ず、無言の中、先に視線を逸らしたのは五鬼で、姉の手が微かに震えているのに気付いた七鬼は「ごめん」と一言呟いた。


「意地悪な質問だった。姉さん、ごめん。」


しっかりと頭を下げた七鬼に、五鬼は我に返ると慌てて頭を振った。

七鬼が謝る必要は何も無い、思ってもみなかった質問に驚いただけ、それだけだ。

弟が頭を上げるのを待って、五鬼はゆっくりと告げる。


「三鬼さんは忙しい人だし、そうじゃなくても私を誘うなんて事、在り得ないわ。」


一瞬、六鬼が言っていた祭り最終日に休日を貰えるらしいと言う言葉が頭を(よぎ)ったが、直ぐにそれを否定する。

例え、休日になったからと言って、どうして足の悪い五鬼と祭りに行きたいと思うだろうか、三鬼だって一緒にいて気持ちが明るくなる、可愛らしい女性が良いに決まっている。

…そう、妹の六鬼の様な。


「…姉さんはさ、」


「え?」


「…いや、何でも無いよ。…その浴衣、ずっと縫ってたけど、完成したんだ。」


「…ええ、でも、まだ、ちょっと気になる処があって…」


五鬼は曖昧に頷くと、七鬼はもう一度、五鬼の手元にある浴衣を見やって頷いた。


「そうなんだ。でも、オレは、繕いの事なんて一つも分からないけど、その浴衣は良い仕上がりだと思うよ。」


「…ありがとう、」


五鬼がそう言ったのを聞いた七鬼は立ち上がると「本当に良い仕上がりだと思う」と言って、五鬼の部屋から出て行った。


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