ラストオーダー
とある国の王子の話だ。
その国の国王は病によって死を遂げた。
生前の国王は、絶対的政権の下、逆らう者は皆殺しにしてきた。
恐怖と云う名の、権力は代々と受け継がれる。
「我が息子、メディキスの命は絶対である。逆らう者は容赦せぬ。
余の死後、王子がこの国を統治すること。」
国王は、死の際に一番力の強い、ティル将軍を呼び、もう一つ命を下す。
「ティルよ、王子メディキスを守ること。頼んだぞ。」
「はっ!命に代えても。」
そうして、国王は死んでいった。
即位は王子へ。盛大な葬儀の後、すぐに執り行われた。
「王子、お食事の時間でございます。」
そう、ティル将軍が云い。世話しなく準備に急ぐ。
ご馳走が王子の前に並べられ、女中が5人。王子の周りに付く。
王子は箸を持とうと手を伸ばす。
「王子、なりませぬ。箸は持たずに、女中がお口まで運びます。」
ティル将軍が、合図を送ると女中はご馳走を取り分けて、王子の口へ運ぶ。
「僕は、もう12歳なのに……」
「決まりでございます。」
食事の後は、お風呂。
「体も洗われるの?」
「決まりでございますから。」
裸の女中が、王子を隅から隅まで綺麗に洗う。
歯を磨き、お尻を拭かれ、本を読んでもらい、服を着させられる。
王子は何一つとして、自分でやらせてはもらえなかった。
定例の軍法会議。側近たちがずらりと並ぶ。
「申し上げます王子。隣国も、そのまた隣国までも、当分逆らう様子はございません。我が国に恐れをなしております。ご安心ください。」
「会議は終わりっ!!」報告だけ聞き、王子は云う。
夜、玉座に座り王子は考える。
「ティルは居るかっ!」
「はっ、ここに!」
ティル将軍は直ぐに、姿を現す。
「ねぇティル。何故、我が国に逆らう者がいないの?」
「それは、前国王が、逆らう国は、城と村ごと焼き払った為です。」
ティル将軍は答える。
「僕のお母さんは何故死んだの?」
「それは、国王が国王の寝首を掻こうとしたと云い。処刑させました。」
ティル将軍は答える。
「僕はひとりぼっちなんだね。」
「………。」ティル将軍は少し考え、「いいえ、大勢の国民が居ります。」
と答える。
「ひとりにしてくれ。」王子が云うと、ティル将軍は静かに捌けた。
それから、王子にとって退屈な日々が流れた。
贅を肥やす日々は、王子にとっては苦痛そのものであった。
ある日、ひとりひとり、その村では絶世の美女と呼ばれていたであろう者たちが、
何人も連れられてこらる。側室として王子の傍に付くという。
メディキス王子は不満げにそれを見ていた。
「これからは毎晩、違う妾が付きます。前国王からの決まりです。」
王子はある日ひとりの妾に、頭を撫でられながら横になっていた時にふと思う。
「お前は僕の命令になんでも従うのか?」
「はい、もちろんでございます。」
王子はため息をつく。
「よし、犬になれ」
女中は、ベッドの脇で、四つん這いになり、犬になる。
「もう、いい。」
「はい」
「お前は僕が死ねと云えば死ぬのか。」
妾は悲しそうにして云う。
「はい、王子の命は絶対でございます。」
それを、ぼんやりと聞いていた王子はハッとする。
慌てて、廊下に駆け出す。
「ティルを呼べっ!今すぐだ!!」
「はっここに!」
ティル将軍は直ぐに現れる。
「命令だ、僕をここから連れ出せ。」
そうして王子は、城下町に出た。
城下町の中をティル将軍とともに歩いた。
始めは何人ものお供を連れて、行こうとしたティル将軍を当たり前のように
王子が制した。
城下町の半ばまで行くと、民衆の一人が叫んだ。
「あれっ、あれは王子じゃないけ。おら一度だけ見たことあるだ。」
たちまち王子と将軍は民衆に囲まれてしまう。
「何をしているお前たち、下がれっ!!」
ティル将軍は叫んだ。
「よくも、おらたちの家族を殺したな。」
「おらたちから貢物を、取り過ぎだから、飢餓で死んだよ。」
「姉ちゃんを返せっ!」
「作った作物の9割も持って行きやがって」
「川の水を塞き止めたからに、干上がったど。」
「刑罰が重すぎて、片腕を無くした。」
「おっとうが失明したぞ」
「子供を返して」
どこからか、鍬だの、斧だのを持ってぞろぞろと民衆が増えていく。
「やめぬかお前達」
ティル将軍は叫ぶものの、あっという間に押さえつけられる。
「王子を殺せっ!」
「王子を八つ裂きにしろっ!」
ティル将軍は、民衆をひとりひとりなぎ倒して行く。
『王子を守る』、ただ一心に。
次から次へと、ティル将軍は民衆を吹き飛ばしていくが、民衆の数が途方もなく
多かった。
「やめぬか、ティル!!!」
王子は、叫んだ。そして、云う。
「最後の命だ、ティルよ。」
王子は、少し微笑み、続ける。
「全ての者を、権力から解き放つのだ」
云うのと、ほぼ同時。王子の体には無数の穴が開いていた。
王子は死の際、頭によぎる。
思えば始めから、こうしていればよかったんだ。
その王子の命を、果せない者が一人いた。
あらゆる者は、権力から解き放たれたというのに…。
ティル将軍だけが、解き放たれることはなかった。
前国王の命、王子を守ることが出来なかったのだから。
そして、その国に権力がなくなり。
勇猛果敢な勇者も消えた。
終わり