表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/156

Tale 24 王都への旅立ち(1)

 翌日、スヤスヤ亭まで二人を迎えに来たルシア。その扉を開けば、既に彼らの準備は整っていた。


「それじゃあ、行ってくる」


「皆、気を付けてねー」


 亭主スヤに、三人は快く見送られた。


 ルシアの服装は昨日と変わりなかった。しかし、ライの進言を受け、顔のペイントと失敗作のようなボサボサ頭はやめていた。


 スタイリング剤さえなければ、結ばれていない髪の毛はサラサラだった。


「今のルシアの方が自然で、俺は好きだよ」


「そ、そうか? ならば、これからはこれで行くとしよう」


 やはり足を引っ張っていたのはその二つだった。それらが無くなれば、舞台衣装のデザインは決して趣味の悪い物ではないので、派手さゆえに目立ってはしまうが、今のルシアには馴染んでいた。


 そんな彼らが最初に向かうは正門ではなく、全く別の通りを進んだ場所だった。


 その店は朝早くから営業中だ。曇りないガラスの奥に見える雑貨と小物の陳列は、店の顔と言っても差し支えない。


 戸を開けば頭上で繊細な鈴が鳴り、今日は珍しく両店員が睦まじい笑顔でいた。


「「いらっしゃいませ!」」


 姉の方はだらしなく語尾を伸ばしているが、それはいつものことなので誰も気にしない。


「久しぶりだな、シルキー」


 ルシアの挨拶の後に、ライとアルマは姉妹に軽く手を振る。二人はよくピストリムに来店するのですっかり顔馴染みだ。


 魔王軍との一件の後、アルマは姉妹が自分の村にいたことを思い出した。そのことを話すと、同じように心に引っ掛かりを覚えていたアイリーは舞い上がった。


 自分の故郷の生き残りがいたという事実は、アルマにもピストリム姉妹の心にも大きく働いた。特にアイリーの塞ぎ込みがちな性格は改善された。今ではアルマと頻繁に外出するくらいだ。


 そんな姉妹二人に笑顔を返される。


 ところが、一緒にいたもう一人を判別するのは僅かに遅延が生じた。


「うわっ……誰かと思ったらルシアかー。また随分と見た目が変わったねー」


「良いだろ? お洒落はするもんだ。なあ、アイリー?」


「えっ、ええっと……はい! 可愛いお洋服は私も着たいです」


 急に話を振られて戸惑いを見せるアイリー。


「そうだろう、そうだろう。よしっ、そんなアイリーにはこれをやろう」


 ルシアは背に担ぐリュックを下ろし、中を漁り始める。


 そして目的の品を見つけると、アイリーに手渡した。


「これは?」


「私からの土産だ。お前たちにはいつも世話になってるからな」


「うわぁ……!」


 受け取った土産は素朴な紙で梱包されていて、中は見えない。アイリーは目を輝かせて、ビリビリと音を立てる。


 ――そして目に映った中身に、アイリーは言葉を失った。


 現れたのは丁寧に畳まれた服。広げて全体を確認すると、黒い生地の半袖シャツだった。背面にはデザインはなかったが、前面にはこの服の象徴である物が描かれていた。


「これ……は?」


「ドクロTシャツだ。どうだ、シンプルながら中々イケてるだろ?」


 話の流れからして、ピンク色の可愛い洋服やアクセサリーが貰えるものかと期待していたが、手元を見れば、なぜか微笑んでいる骸骨と目が合う。


 そしてこのTシャツは二枚ある。それぞれサイズが異なり、姉妹で着てほしいというルシアの意思が良く伝わった。


「あ、ありがとうございます……」


「おおー、いいじゃん! 後で一緒に着ようよ、アイリーちゃん」


「う、うん……」


 土産を、特にドクロの表情を気に入ったシルキーはテンションが上がる。何でも、不気味さが増してイイ感じとのことだ。一方で、アイリーは嬉しさと落胆が半々でいた。


 そんな温度差を気にも留めず、ルシアはリュックを再び担ぐ。そして、


「さて、そろそろ行くか」


 来店して実に五分も経っていない。ルシアの淡白な行動に、姉妹は驚いた。


「もう行っちゃうのー?」


「出発のついでに寄っただけだ。また帰って来た時には顔を見せる」


「そうですか……」


 アイリーは寂しくルシアを覗く。土産に対する不満からではない。もっと彼女との時間を過ごしたい思いからだ。


 ルシアにその想いは届いたのだろうか。彼女は不意に足を止めた。実際には服を掴まれていないが、裾にせがまれる感覚に陥った。


「……もう少しだけいてやろう。……ライ、お前が何か買え」


「お、俺が⁉」


 気恥ずかしさを誤魔化すために、ルシアはライに無茶ぶりを言った。しかし彼もアイリーのためならばと、拒否することは出来なかった。


「そうですよー、お客さん。このまま手ぶらで帰すわけにはいきませんからねぇー」


 この状況を良いように利用すべく、ピストリムの姉は営業を始める。


「マジか……」


「な、何か買って行ってください!」


 アイリーもそう言って、ライに寄って来る。


 彼女は、言わばピストリムの天使。その笑みと上目遣いに、一体どれだけの客が心を撃ち抜かれてきたか、ライも今その犠牲者になろうとしていた。


「分かった、買うよ。アイリー、お勧めの商品を教えてくれ」


「うん!」


 アイリーは土産を貰った時よりも嬉しそうに話す。どうやら彼女の幸福度を語る上では、ライと一緒にいる時間が何よりも勝るらしい。


「出発って言ってたけど、皆でどこかに行くんですか?」


「仕事で王都までね」


「ほぇー、それは長旅になりそうですね」


 アイリーは自分で考えて、ライに買ってほしい商品を提案する。


「それじゃあ、これが役に立つと思います」


 彼女が手に取ったのは、赤い液体の入った小さい薬瓶だ。


「これは何だ?」


 ライが聞くと、アイリーは滞りない簡潔な説明を行う。


「魔除けの香水です。モンスターの嫌がる匂いが詰まっているんです。野営する時とかに撒いておくと、見張りを立てる必要がなくなるので、旅には一本だけでも持っておく価値のある一品です」


「良い商品じゃないか。私が駆け出しの頃はこんな代物、まだ開発されてなかったな」


「私も見たことないです。最近出たばっかりの商品なんじゃないですか?」


 ルシアもアルマも薬液の匂いを嗅ぐ勢いで覗き込む。


「つい最近取り寄せた商品だよ。『これは売れるッ!』ってお姉ちゃんがニヤニヤしてたよ」


「ちょっ……アイリーちゃん! 今はそれ言わなくてもいいでしょ」


 シルキーは妹にからかわれ、子供のようにじたばたしている。


「はははっ……! 一本買うよ」


 ライは笑いながら硬貨袋を鞄から掴んだ。


 この香水さえあれば、武力が皆無な一般人でも街と街の移動が安全になる。そんな希望ある商品の効果を実感してみたくなった。


 硬貨袋の紐を緩め、値札通りの金額を取り出す。小銅貨数十枚は、今のライには気兼ねなく出せる金額だ。


「ありがとうございます!」


「さあ、買ったならもう行くぞ」


 笑顔を振りまくアイリーを前にして、今度こそルシアは一足先に店を出てしまった。鈴が鳴り扉が閉まった後でも、ライとアルマはまだ店内にいた。


 ――が、彼女に置いて行かれないよう、そんな感情に無理矢理急かされる。


「じゃあ二人とも、行ってくる」


「帰ってきたら、また出かけましょうね」


「うん、行ってらっしゃい!」


 アイリーの元気な言葉に送られ、二人も店を後にした。

2022/7/19 全体を少し修正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者の他の作品

↓ ↓ ↓

◇(ホラー)かくれんぼの途中に起きた奇怪な出来事が、高校生たちを襲う
『タマシイ喰イ』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ