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Tale 23 白金の冒険者(3)

 腰に身に着けた深紅の竜鞭(りゅうべん)を前方に払うルシア。対して武器を取り出さないライに、


「どうした? 早く武器を出せ」


 と戦意を煽る。


 レイネールから話を聞いて、それなりの実力者であることに興味を持ったのだろう。


「分かったよ」


 ライは適度に距離を取り、弓を構えた。鞭が届く範囲にはいなかったため、最初はライが有利な立ち位置で始まる。しかし、ルシアは全く気にもしていない。


「わ、私はあっちで見てますね……」


 これより繰り広げられるは、実力的にはプラチナ同士の一戦だ。どれほどの規模の戦いになるのか、想像もつかないアルマは、逃げ延びるように離れた小丘に走って行く。


 彼女が背中を見せる中、対峙する二人は取り決めを行っていた。


「全力でかかって来い。そうでなければ面白くない。あと……何か一つ、賭けをしよう。そうだな……」


 ルシアは提案を促すようにライを一瞥する。


「今日の飲み代を奢るってのはどうだ?」


「おお、いいな! それで決まりだ」



 ルシアは笑顔で頷く。


 それからほどなくして、アルマが丘の頂上に到達する前に戦いは始まった。


「ふぅ……。それでは、行くぞ!」


 開戦の合図と共に、両者は行動をとる。


 ライは【雷鳥飛矢(グロースアロー)】により、前方上空に光の鳥を一羽創り出す。


 ルシアは竜鞭を構えたまま、前へ駆ける。


 接近されればライが不利になるのは明確。同程度の実力ならば、戦局を覆すのは困難だ。


 光鳥は鞭の全長を優に超える高度を旋回している。


 その下は、ルシアに二十本の矢が迫る。弓技【百万の放射矢《ミリオンアロー》】によるもので、一本ずつがルシアの回避先を潰すように図って飛んでいる。


(二対一の状況を作り出したか。なるほど……)


 しかし、お構いなしに突進を止めないルシア。竜鞭を縦方向に薙いで道をこじ開けた。

 残りの矢は彼女の横を素通りした。残念ながら追尾性能はない。彼女はそのまま距離を詰めた。


 ――その時、頭上から光の巨大球が落とされる。足元にその影が、そして相反する輝きが視界を埋める。光の鳥の襲撃だ。


 ルシアは急接近する球を一瞥しながら、再び竜鞭を縦に薙ぐ。


「この程度の攻撃……通用しないっ!」


 高らかな叫びの後、弾は真っ二つに割かれてしまった。






 その頃、ようやく丘を上ったアルマは腰を掛け、戦いの様子を眺めていた。


「二人とも、凄いです。こんな攻防一体、見たことがありません!」


 距離を詰めたいルシアと、詰められまいと軽快な身のこなしで牽制を続けるライ。その様子に、一人ではしゃいでいた。






 それでもルシアに余裕はない。ライも気を緩める暇はなく、一瞬たりとも彼女から目を離せないでいる。


「……っ!」


 次は前方からの雷球だ。半径一メートルの魔力物体が無数に行く手を阻む。


 気付けば目下に迫っていた雷については、対処が間に合わない。ルシアは高く跳躍することで難を逃れるが、雷球は軌道を変えて彼女を襲う。今度は逃がさないといった、ライの本気がうかがえた。


「次から次へと鬱陶しいなあっ!」


 汗をかき始めたルシアは、力を込めて今度は横薙ぎする。凄まじい風圧により、鞭に接触していない雷球までもが弾け散る。


「こんなもので終わりか? もっと来い!」


 けたたましく叫ぶルシアの視界には、蒼い雷の残滓(ざんし)が映る。そしてしっかりと目を見開いて、鞭をしならせながら着地した。


 強引にも程度があるだろうとツッコみたくなる、彼女の攻撃の姿勢にライは気圧された。


 同時に、ルシアは見事に当初の距離を詰め切った。次に攻撃されるのはライ。鞭は的確に彼に向かう。


(あ、危なっ……!)


 冷や汗が湧き出す中、彼は間一髪で避け続ける。しかし、それ以外に繋がる行動を取る隙がなかった。


 光の鳥は彼女の無防備な背中を狙う。しかし、ルシアは鞭を波打つ動作のついでのように、背後を見もせず気配のみを頼りに、繰り出される攻撃を完封した。


(後ろに目でも付いてるのかっ! それにしても……距離が取れない!)


 頼りの光の鳥は全く役立たずであることに、次の作戦をどうしようかと悩みながら防戦一方のライ。


「さあ、どうする! 息が上がっているぞ!」


 そう言うルシアは呼吸の乱れを一つも感じさせない。むしろ、ライの銃弾の嵐のような攻撃を掻い潜ったことで、意識が覚醒しているようだった。


(くそっ……まずは離れないと!)


 彼の頭には、それしかなかった。ゆえに足に力を入れた。


「【加速(アクセラレート)】!」


 この能力で一時的に強化された脚力を活かし、後方に大きく跳躍する。【加速(アクセラレート)】の代表的な活用方法の一つだ。


 ライは数十メートルの余裕を得た。


 ルシアはもちろん追尾する。一時的なものとは言え、彼の脚力に彼女は叶わなかった。それでも一般の人間よりは超越した身体能力ではあるが。


「逃げても同じことだ!」


 ライは雷魔術と射撃技術を駆使して、ルシアの接近を牽制する。しかし、一度見せた攻撃は彼女に見切られた。


 そうして、折角作った距離はなかったものになる。ルシアはライの嵐の矢を(かわ)すため、空中に跳躍中だ。


 ――その時だ。


「なにっ!?」


 雷の球が相手に直撃することも、矢が体を掠めさえすることも、ライは期待していなかった。


 ルシアが前後左右上下、その六方向から電圧を感じた時、既にライの作戦は功を奏していると言っても良かった。


 ルシアを囲む、電流の流れる立方体。


 まだ宙を跳んでいるルシアは、そこから抜け出そうと鞭を薙ぐが、その箱が壊れることはなかった。逆に、高電圧に鞭が弾かれる結果となった。


(まずいっ……!)


 ルシアはこの箱の脅威を一瞬で察した。地に落ちていく体がその箱の面に触れればどうなるかを。


 窮地を抜け出すには、破壊しかなかった。だが、鞭による一刀は弾かれた。彼女の実力に合わせて魔力量を調整した、ライ特製の箱はこれまでと同じ感覚では壊せなかったのだ。


「うわああぁああッ!」


 ルシアの悲鳴が轟く。


 【蒼雷壁(エレキシールド)】を六枚組み合わせて作られた即席の箱は、ルシアの意識を消えゆくまで削いだ。


 しばらくして、壁の効力は失われた。ルシアは背面から草地に落ちた。


「大丈夫か?」


 ライはピクピクと感電しているだろうルシアに手を差し出す。


 すると、その手は震える手に取られた。


 握られた瞬間、ライは雷の出力を強くしすぎたかと反省する。しかし、「全力で来い」と言われたのも事実。


 そんな時、ルシアは高らかに笑った。


「いやぁー、参った!」


「体は何ともないか?」


「ああ、ちょっとビリビリするが、数分休めばすぐに治るだろう」


「勝負は俺の勝ち……でいいんだよな?」


「約束通り、今日の酒代は私が出そう。だが、その前に……」


「……?」


 まだ何かやることがあるのかと、ライはルシアを見つめる。


 ――と、その時、ポーチの中から魔力反応が。


 原因は、レイネールから貰った試作の水晶型通信機だった。 それを手に取ると、紫の輝きを強める水晶から声が聞こえ始めた。


『ライさん、聞こえますか?』


「レイネールさん! 聞こえますよ。どうかしたんですか?」


 レイネールの声は明瞭だった。


『ええ、ちょっと。ルシアと一緒ですか?』


「はい。丁度、タイマン試合が終わったところです」


『そうですか。一つだけお伝えしなければいけないことがありまして。くれぐれも気を付けてください』


 ライはレイネールの懸念に、懸念を重ねる。勝敗は決したのに、今更何に気を付けるのかと。相手の顔は見えないが、怪訝な表情を浮かべた。


『力を出しすぎるな。そう伝えてください』


「は、はぁ」


『それでは』


 通信は一方的に切られた。


 今の話に、まさかと嫌な予感がしたライ。話題になっていたルシアに視線をやると、彼女は弁明を述べる。


「すまない。レイネール殿からお前がどの程度の実力なのかは聞いていたが、実際に手合わせしてみないと分からないからな。全力で来いと言っておきながら、私は力を抑えていた」


 ライはもちろん、可能な限りの力で戦っていた。


「マジか……」


「だから次は、私も全力で手合わせしよう。さあ、第二試合と行こうじゃないか!」


 その一言は、一戦を終え疲労を感じていたライに重くのしかかる。そしてルシアは返答を待たずして飛びかかった。


(あれで本気じゃなかったとか、冗談じゃない!)

2022/7/7 一部能力名称を変更、ルビを振りました。その他、全体を少し修正。

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